九州学院vs熊本国府
山下翼(九州学院)
磐石の九州学院
2点を追う九州学院は6回、先頭の2番・下田勇斗が右前打で出る。
走者に出た下田は熊本国府の先発左腕・園田竜也を足で威嚇する。通常より一歩半、リードが大きい。
このあたりが2年生レギュラーとして甲子園の土を踏んだ経験のなせる技か。園田は一塁へと牽制球を送るが、これが悪送球となった。
この球が緩やかに一塁側のファウルゾーンを転々とした。これで下田は一気に三塁を陥れた。
打席には3番・山下翼。甲子園でも3番を打ち、17打数6安打を記録したスイッチヒッターが中越えの三塁打を放つ。
これで1点。
選手権2回戦の山形中央戦(2010年8月13日)で、大会通算7度目の1イニング3三塁打を記録した強打線の印象が蘇る。
国府・園田は二死までこぎつけたが、6番・坂井宏志朗が強烈に叩きつけた打球が左前への同点打となった。
「この何日か、山下と坂井には重点的に打撃練習をさせていたました。タイミングの取り方が微妙に狂っていましたからね。そのふたりが大事な場面でしっかり打ってくれた。
本当は復調までもう1日あればというところで、前日は雨で中止。これも大きかったです」(坂井宏安監督)
これで九州学院が試合を振り出しに戻した。こうなれば九州学院である。極限状態での場数が違う。
熊本国府の永薗敏博監督が言う。
「経験は積極性に出ますね。九学さんは早打ちが目立ちましたけど、ストライクだけをしっかりと振ってきている。結果的にアウトになることはあっても、根拠がありますよね。これは決定的な差でしたね」
売り出し中の4番・稲倉大輝をはじめ、クリーンアップは無安打に封じ込まれた。打線全体で見ても、2点を挙げた4回以降は九州学院・大塚尚仁の前に無安打だ。
「決勝戦は打線の組み替えも考えています」(永薗監督)
萩原英行(九州学院)
さて、8回に決勝打を放ったのは、甲子園でひときわ輝いた1年生4番・萩原英行だ。
この打席までの萩原は、インハイを上手く攻められ、高めの釣り球に手を出してフライを打ち上げるという国府バッテリーの術中にハマっていた感がある。
「甲子園で出来すぎだったぶん、プレッシャーは大きくなっていますね」
という主砲だったが、群を抜くヘッドスピードから放たれる打球の強さもまた強烈だった。
やや内よりに入ってきた直球を強引に引っ張った打球は、一塁手が付いていけないほどの強烈なバウンドとなった。これが右線に転がる二塁打となり、二塁走者の下田が悠々と生還を果たしたのだ。
「まだまだですね。初球から振っていけてないですから。ファーストストライクを見逃しすぎます。調子が悪いとか技術的に苦しんでということはありません。単に気持ちの問題です」
という萩原。清原和博(当時PL学園)以来の1年生4番弾を聖地に刻んだ注目の大砲が、九州大会での爆発を宣言した。
九州学院は山下、下田、坂井、そして1年生の溝脇隼人、萩原ら甲子園経験者の充実ぶりが際立っている。
左腕エース・大塚も“低目を衝く能力”の高さによって、大崩の心配はなさそうだ。
坂井監督が「ウチは出来上がりつつありますから」というように、地元熊本での九州大会を磐石の態勢で迎えることになる九州学院。
九州1位通過も充分にあると見た。
(文=加来 慶祐)