試合レポート

国士舘vs帝京

2010.10.03

2010年10月02日 昭島市民球場

国士舘vs帝京

2010年秋の大会 秋季東京都本大会 1回戦

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伊藤(帝京)

国士舘が再戦も制し、2回戦進出! 帝京は早くも選抜絶望……

3試合目は1回戦屈指の好カード。
このカードは今年の東東京大会で実現しており、国士舘帝京を7回コールド勝ちして全国の高校野球ファンを驚かせた試合(2010年7月20日)であった。
前チームの帝京は投手陣の層の厚さなら全国随一という評判で、投手戦で負けることはあっても、打ち込まれて負けることはないと思っていたからだ。
それだけにこのゲームは強烈に印象に残っており、まだそのイメージが残る中、再戦が実現したのだから。足を運ばないわけがない。
筆者だけではなく、このカードを見るため多くのファンが[stadium]昭島市民球場[/stadium]に足を運び、狭い内野席はあっという間に満席になった。

試合は帝京が初回に2点を先制したが、国士舘が3回の裏に同点に追いつく。
4回の表に帝京がエラーにより1点を勝ち越したが、その裏、国士舘が一挙3点を入れて逆転。国士舘がそのまま逃げ切り帝京を下した。帝京はリベンジを果たすことができなかった。

今回は2チームの逸材をピックアップした。

【帝京編】

この試合の先発は伊藤拓郎(右/右 185センチ81キロ)だった。
肘の痛みによりブロック予選では登板がなかったが、やはり国士舘戦ということもあって、先発で登板した。
しかし本調子ではないなというのがブルペンの投球から分かった。ボールが抜けてしまっており、入るのはスライダーのみ。
これでは苦しい投球が強いられるだろうなと思ったら、案の定、初回から二死満塁のピンチを招く投球。なんとか切り抜けたが、2回もツーアウト1,2塁のピンチを迎え、空振り三振で切り抜けたが、3回の裏に同点二塁打を浴びて、次打者にワンボールを与えたところで降板した。

やはり病み上がりということもあってストレートが全く走っていなかった。ストレートの球速は135キロ前後でマックス140キロと全盛期に比べると物足りない数字。
彼を生で見たのは昨秋の都大会。速球は140キロ前後でもスピンのかかった素晴らしいストレートを投げ込んでおり、モノの違いを見せ付けていた。

今日見た限りでは、自慢のストレートも力を入れて投げようとすると引っ掛かってしまいコントロールが定まらない。
彼はインコースへ投げるのが怖いのか。捕手がインコースへ寄っても、投球はアウトコースに外れてしまいこれも投球の幅を狭める要因となる。カウントを取れるのは横に鋭く曲がるスライダー。このスライダーのおかげで3回途中まで凌げたようなものだ。

投球フォームも以前より上体で投げる癖が強くなっている。フォームにタメがなく、グラブを斜めに伸ばして開きを抑えようとしても、腰の開きが早いので、結果として開きが早くなってしまい出所が見やすくなっている。球離れも早く、全体的にフォームを崩していた。


伊藤(帝京)

彼は相当苦しんでいるように見える。1年夏は148キロを出して鮮烈なデビューを飾った伊藤だが、2年春の都大会初戦(2010年4月08日)で敗れたときから歯車が狂っている印象がある。
ただこの苦悩は予想できたことだった。高校生は波が激しい時期で周囲がびっくりするようなパフォーマンスを見せることもあれば、目を覆いたくなるようなパフォーマンスになってしまうときがある。
今の時期は後者にあてはまるだろう。彼が高卒ドラフト1位で指名されるためにはこの壁を乗り越えなければならない。
選抜出場の望みはほぼ絶たれ、甲子園に出場できるチャンスはあと1回となった。
素質の高さは誰もがわかっている。
最後の夏に向けて持てる能力をフルに発揮し、自分の力で甲子園を導ける投手に成長してほしい。

帝京のショートストップ松本剛(右/右 180センチ75キロ) は早くもドラフト候補として推したい逸材だ。
1年夏からスタメンとして出場してきたが、攻守の安定感はピカイチだ。

この試合は3打数1安打。第1打席では外角低めに入る変化球を捉えて右中間を破るスリーベース。第2打席目も外角の入る変化球を拾ってショートへ鋭いライナー。ショートの好プレーによりアウトになったものの内容は悪くなかった。

守備の安定感は相変わらず抜群。捕球→ステップ→送球の動作に無駄がない。そして三遊間寄りのゴロを逆シングルで捕球し、ランニングスローでアウトにしたプレーには思わず拍手を送りたくなった。ランニングスローで強い返球するにはそう簡単にできるものではない。足腰の強さ、背筋の強さ、肩の強さが求められる。このプレーが成り立つのは基本的な動作を確実にこなせる確固たる技術と身体能力の高さが備わって成り立つプレーだ。
この試合では盗塁はなかったものの、彼は出塁すれば、常に次の塁を盗もうという意識が徹底しており、盗塁も多かった。

自分のやるべきことを理解している選手で、彼に対して求めるものは殆どない。
1年夏から高いパフォーマンスを発揮してきた選手だが、緩やかながら成長している選手で、伸び悩みせず常に高いパフォーマンスをしてきた彼には高い評価が出来る。あとはチームを引っ張る、あるいは状況をがらりと変えられる選手になってほしい。
彼はその地点に到達している選手だと思うのだが、巡り合わせが悪くチャンスの場面で回ってこない。この試合でも8回の表にノーアウト1,2塁で打席に回ったが、帝京ベンチはバントを選択し、彼はきっちりと送り、仕事をこなした。

ただこの試合に限っていえば、頼れるのは松本だけだった。それだけに彼にバントをさせたのは勿体ないという思いがある。
松本が打つことでチームも相乗効果となって打線がつながるものだと思っているので、併殺覚悟でも彼を打たせても良かったのではないだろうか。
このチーム、松本に頼っていそうで、実は大事なところでは勿体ない使い方をしている。
帝京が勝ち上がるにはいかにこの男の前にランナーを溜めることができるかにかかっているだろう。
これほど素晴らしいショートがいるのに初戦敗退したのが本当に残念であった。


川内(国士舘)

最後は帝京の二番手・渡辺隆太郎(左/左 180センチ92キロ 1年生)を紹介。
鳴り物入りで入学した彼も順調に二番手投手としての地位を高めている。左オーバーから投げ込む直球は常時130キロ~136キロを計測。
ストレートの威力は夏よりも出てきている。変化球は横滑りするスライダーとチェンジアップ。主にストレートとスライダーのコンビネーション。

4回は甘く入った変化球を狙われて逆転を許したが、その後は低めに集める投球で5回以降無失点に抑えた。
投球フォームも以前より良くなっている。夏は左だけ使っているフォームで、右手をうまく使うことができていなかった。
この日を見た限りでは右腕のグラブをうまく使うことができるようになり、着地のタイミングをワンテンポ遅らすなど投球フォームに変化をつけている事が分かった。

腕の振りの角度も高くなり、まだ上半身主導のフォームではあるが、少しずつ全身をうまく使おうという意識が出てきている。

股関節が硬いタイプなので、腰を深く落とす捻転を使うフォームは無理だが、上半身の使い方次第では理に適った投げ方になる。
少しずつ良くなってきているだけに冬の成長が楽しみな投手といえるだろう。

【国士舘】

国士舘は攻守のおいて完成度が高く、上位が期待できる選手。
今回は川内翔太(右/両 180センチ75キロ)三塁手、岡雄大(右/左 178センチ70キロ)外野手、友利謙佑(右/右 168センチ65キロ外野手)、遠藤尚樹(2年生 右/右 176センチ70キロ)投手の4人をピックアップ。

川内は生粋のアベレージヒッター。
元々投手で、右投げ右打ち登録のはずなのだが、右投手に限り左打席に立つ。完全にスイッチヒッターである。
左打席の構えからグリップを耳の近くに置いてスクエアスタンス。右足の踵を動かしながらタイミングを測って打っていく。肘の畳み方が実に上手い選手で、インコースでもシャープに振り抜くことができる選手。
右打席もスクエアスタンス。低めに入る変化球に膝を使ってうまく拾い上げ、レフト前ヒット。右、左打席ともに打てる選手。国士舘の中では一番、技術的に優れた選手であり、長打力はないが、ファールで粘れる粘っこさもあり、実に嫌らしい一番打者だ。

そして一番の武器は俊足。この試合で盗塁を決めたが、そのタイムが3.05秒。ロッテの荻野が3.0秒台である事を考えるとそれに近いタイムを叩きだしている。リード幅も広いし、一歩目が非常に速く、スライディングしてからの加速も素晴らしい。

三塁守備も強肩を活かした守備には安定感があり、まさに走攻守三拍子揃ったプレーヤー。
高卒プロというインパクトは感じなかったものの、実戦的な選手で、大学で活躍していけるレベルに達している。


国士舘ナイン

岡はチームの中心選手。3番であり、試合終盤にはリリーフを務める。
彼は走者としてホームインするたびに大きくガッツポーズする選手で、あまりにも大袈裟にやるものなので、注意されないか心配ではあるが、それだけ熱い男なのである。
この日はノーヒット。
構えはグリップを高めに置いたスクエアスタンス。グリップが入りすぎる傾向があり、またトップの位置が安定しないので、ミスショットすることが多い。
しかし足では存在感を見せ、二盗塁。正確なタイムは測れなかったが、一歩目のスタートは速い選手で、彼も俊足が売りの選手。俊足を活かした守備は守備範囲が実に広く、投手を兼ねる肩の強さも売りだ。
守備・走塁は高いレベルにあるので、課題は打撃だ。

4番の友利は腕っ節とリストの強さを活かした国士舘唯一の強打者。
伊藤のストレートをフェンス直撃の二塁打。渡辺の変化球を拾ってレフト前ヒット。ストレート、変化球に対応ができていた。
次の観戦で詳しく見ていきたい選手である。

エースの遠藤も好投手だ。
右オーバーから振り下ろすストレートは常時120キロ後半~135キロを計測。変化球は90キロ台のカーブ、115キロ台のスライダー、115キロ台のチェンジアップをテンポよく投げ分ける。
基本的に外角中心だが、時折インコースへずばっと攻めて三振を奪うなど要所で力のあるボールを投げ込むことができる投手。
特に左打者への攻めはよく、ウイニングショットは外角いっぱいのストレート、内角へのスライダー、ストレート。厳しく突けるので、帝京の打者がことごとく詰まらされ、見逃し三振になっていた。
投球フォームは後ろが大きいアーム式のようだが、意外にも肘をうまく使える投手なので、打者寄りで離すことができる投手なのだ。クイックは1.1秒台と高速クイックができている。ずば抜けたものはないが、ある程度完成している投手だと見ていいだろう。

(文=編集部 河嶋宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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