試合レポート

御所実vs山辺

2010.07.16

mm2010年07月15日 佐藤薬品スタジアム  

御所実vs山辺

2010年夏の大会 第92回奈良大会 1回戦

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喜多監督の話を真剣に効く山辺ナイン

試練を乗り越えて。

 人生とは失敗の繰り返しである。
その失敗をどう乗り越えていくかで人は大きくなれる。いわば、どれだけ失敗したかで、人生は決まるようなものだ。神様は時として、重大な試練を我々に与えてくれるが、それこそが進歩するための大きな一歩になる。そう私は信じている。

0-53。
 今春季大会で山辺は、この壊滅的なスコアで敗れた。1回に5失点、2回8、3回11、4回に29失点。信じがたいスコアが彼らに突き付けられた現実であり、試練だった。

「自分たちの足らないことが分かった試合でした。僕自身の取り組みにも甘さがあった」とは就任して5年目になる喜多監督である。就任最初は部員に長髪もいた中でのスタートだったが、「5年で部活として動けるようになってきた」と、高校野球らしいチームへと作り上げた。勝敗は別にして、部活動として選手たちがひたむきに、一つの目標に向かうという集団にできつつあるという手ごたえはあった。春季大会の敗戦はそんな中で起こったのである。

 とはいえ、この惨敗に落ち込んでいたのは指揮官の方で、選手たちはむしろ前を向いていた。そもそも、あの試合にしても53点を取られても、彼らは下を向いていなかった。平然としていたというわけではない。安打を連ねられ、ミスを重ね、失点が増えて行く惨状の中、彼らは最後まで一生懸命だった。腐ってはいなかったのだ。それは喜多監督も、手ごたえを感じた部分である。

「53点を取られても、彼らは最後まで一生懸命でした。足らないところがあったのは事実ですが、真面目で素直で一生懸命、という部分は昔からあるこの学校の良さでした。あの敗戦を切り替えられなかったのは僕の方で、あの試合のあと、彼らはグラウンドに帰ってからすぐに練習をしていました」。

 山辺の所在地は「奈良市」。だが、2005年に編入するまでは都祁村だった。高原の村である。学校へはスクールバスが運行されているが、区域によっては単車通学も認められるほど。国道が通っているものの、電車では通えない。野球部は朝練をしようものなら、一番近い高速のインターで降りてから徒歩30分を歩くということをしなければいけない。冬場は雪も降るから、ほとんど不可能である。

 53-0 で負けて以降は、少しの時間でもと練習量を増やしたが、朝練をしたというのではなく、なるべく早い時間のスクールバスで通いながら、10分でも余る時間を練習に充てた。「時間を大切に、ひとつも無駄にしないような意識で練習をしてきました」と主将の小山田が言えば、この日、2番手でマウンドに上がった角谷は「負けてからは、ピッチング練習の量を増やしました。一日100球は投げていた」と、彼らはひたむきに白球を追ってきたのである。実は、山辺ナインは53失点も課題だが、それ以上に0得点の方にも力を入れていた「なんとか1点を取れるチームになろう」。それが、この夏までの合言葉だった。

 2日間の順延があってむかえたこの日の試合、山辺の野球にはある部分が垣間見えた。

積極的に振っていく、ゴロにチャレンジする、最後まで切らさずに声を出し続ける、である。

 1回表、1番・角谷が積極に振っていけば、1死後、2番・兵頭が左翼前安打を放った。守っても兵頭は4つのボールを積極的にアウトにした。チームトータルで失策は1個。集中も、声も最後まできれることはなかった。

甲子園出場経験もある古豪・御所実の前に、その差は歴然で0-10の完敗だったが、春の惨状を考えれば進歩である。何より53-0から前を向いて、戦ってきたことにこそ意義がある。先発した辰巳はいう。

「春の敗戦から一日一日、一分一分がかけがえなくて、スゴい良かったなぁって思います。今考えれば短かったです。大事なのは気持ち。今大会をバネにして、1勝したいです」

「試練は乗り越えられない人の前には立たない」という言葉があるように、山辺は0-53からの屈辱をばねに一つのヤマを越えた。しかし、これが終わりではない。今大会も無得点に終わったという課題があり、0-10で完敗したという現実を受け止め、前に進まなければいけない。

辰巳ら下級生12人の挑戦がまた始まったのである。

(文=氏原 英明


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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