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不器用だけど闘争心は人一倍強かった。DeNAのリリーバー・伊勢大夢の甲子園出場秘話

2021.12.21

不器用だけど闘争心は人一倍強かった。DeNAのリリーバー・伊勢大夢の甲子園出場秘話 | 高校野球ドットコム
九州学院・坂井宏安前監督、伊勢大夢(九州学院)

 今年のプロ野球では、両リーグで「怪物」がMVPに輝いた。セ・リーグでは21歳の本塁打王ヤクルト村上 宗隆内野手(九州学院出身)、パ・リーグでは投手4冠のオリックス山本 由伸投手(都城高出身)が栄冠を手にした。華やかな活躍だったヤクルト村上は高校時代、甲子園出場は1度しかない。その時のチームのエースだったのは、DeNA伊勢 大夢(ひろむ)投手だった。村上が1年、伊勢が3年の夏。甲子園は初戦敗退で終わったが、今2人はセ・リーグでプレーしている。

 伊勢の高校時代について、恩師の九州学院・坂井宏安前監督は、入学当初こそ球は速くなかったが、大きな武器があったと振り返る。「スリークォーターなんだけど、真っすぐも変化球もリリースの位置が同じなんです」。投手として開花する素質は見抜いていた。

 投手として必要なファイティングスピリッツも備わっていた。ピンチには強いタイプだったという。

「三者凡退があんまりなく、9回投げたら6回くらいは走者がいる感じでした。私も最後の方は慣れてましたね。でも、そこから踏ん張るんですよ。特に、得点圏に走者がいくと、ぴしゃっと抑えるんです。点を与えなかったですね」

 伊勢は少し「不器用」でもあった。「走者が一塁だと、相手の足を警戒して変にクイックをしようとしてか、(打者への)球が甘くなって長打されることがあった。二塁とか三塁だと足を警戒することがないためか、打者との勝負に集中できた。だから抑えられたかもしれなかったね。走者が一塁より、二塁、三塁に行った方がこっちはホッとしていた」と笑う。

 3年夏は大黒柱としてチームを夏甲子園出場に導いたが、坂井前監督のある「作戦」がなけば、聖地出場はなかったかもしれない。「伊勢は夏までは130キロ行かないくらいだったが、本人にはだんだん上がってくるからなと告げていた。夏熊本予選の初戦で相手投手が142キロを投げたんですけど、やっぱり投手ですね。伊勢は2戦目に143キロが出たんです。闘争心というか本能というか」

 伊勢の投手としての本能が球速をアップさせたのか。しかし坂井前監督にすれば、伊勢1人に頼る投手陣だったこともあり、最初から飛ばしていったら、勝ち上がると疲れると予想し、伊勢にこう告げた。

「お前、今度140キロ投げたら絶対に代えるからな」

 実は伊勢は力むといい球がいかないことを知っていた。むしろ少し力が抜けた方がいい球が行くことを知っていた。「それから伊勢は135キロくらいで投げてたんですけど、力みがないから伸びも良くなって打者が詰まるようになった」。坂井前監督の読みは当たり、熊本県の決勝9回2死と、甲子園まであと1人というところまできて「そしたら伊勢が140、142キロとか投げてましたね。まあ、本人も投げたかったんでしょうね」と当時を振り返って白い歯を浮かべていた。

 卒業後は明治大に進学。のちに広島にドラフト1位で指名される森下 暢仁(まさと)投手(大分商出身)が同期にいた。坂井前監督も「明治大に行って鍛えられたと思う。森下投手がいたでしょう。上には上がいると思ったと思いますよ。成長させてもらいましたね」と森下の存在にも感謝していた。

 1年目から2ケタ勝利を挙げた広島・森下とは違い、伊勢は1年目の昨年は3勝に終わった。今年は勝利もない。しかし、最下位に苦しむチームの投手陣の1人として経験を積んでいる。2学年年下のヤクルト村上も、はるか先に行ってしまった感はあるが、来年は「先輩」としての意地を見せるはずだ。

(記事=浦田 由紀夫

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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