Column

県立石岡第一高等学校(茨城)【後編】

2016.06.21

「フレックスな自主性」を重んじながら躍進した石岡一

 前編では、今春の躍進を振り返ってきたが、後編では石岡一の強さの秘訣を深堀していく。

その日の練習メニューは選手たちが自主的に考えることで本気度が増す

主将・濱田 虎太郎選手(県立石岡第一高等学校)

 こうして、選手それぞれが自分の役割をしっかりと把握していく姿勢は、川井 政平監督が、「あえて選手たちに対して自分のマーキングをしないで、ノープランにしておく」ということで、「フレックスな自主性」を重んじているというところにもある。

「フレックスにしておくと、本気で取り組んでいる人間はどんどんと自分の課題が見つかっていくんです。そして、それをクリアするためにどうするのか、それをまた考えるようになります。逆に、いい加減にやっていると、いつも同じことしかしていないという状態になってしまいます。結局言われないとやれないということになってしまいます」

 つまり、選手に対して大人の対応をしていくことで、選手個々の本気度が、どれだけあるのかということが見えてくるのだという。だから、指揮官としては選手との個人面談を重んじている。そして、お互いに話し合っていくうちに、選手の姿勢もわかってくるのだ。その背景には、大人の意識を持っていかないと、県内の有力私学の選手たちが、寮に入って自立してやっている意識の強い相手には勝てないということを実感しているからだ。

 大人の意識を作らせるために、石岡一の普段の練習は、その日のメニューや流れをすべて選手たちが自分たちで決めていくというスタイルをとっている。指揮官が、「こうしなさい、ああしなさい」という指示はほとんどしないという。ただ、そんな中でどうしても外せないもの、例えば連係プレーはやっておきたいなということや、右打ちを徹底しておきたいなという時には、そういうことをワンポイント入れていくように指示をする。それをまた、選手たちが考えて練習に組み込んでいくのである。それだけ、練習の質が大切だということである。

このページのトップへ

[page_break:あくまで普通の高校生という姿勢で甲子園を目指す]

 学生コーチという立場に任命された大竹 和真君はノックをすることも多いというが、「ノックをしていくうちに、どこが得意でどこが苦手なのかということがわかってくるので、あえてそういうところに打っていくようにしています」とノッカーとしての思いを語る。そして、昨年から今年のチームとしての成長は、みんながより自主的に動けるようになってきたことだという。

 そして、学生コーチとしては、自分は試合に出ることはないが、「自分が一人一人の補うべきところを見つけて、そこを強化していく後押しをしたい」と、文字通り全員野球を推進していくための下支えになる意識である。

あくまで普通の高校生という姿勢で甲子園を目指す

場所と時間を見つけてティーバッティング(県立石岡第一高等学校)

 川井監督は、県立校としてあくまでも普通の高校生という生活を大事にしながら、その上で甲子園へ出場するということを実現したいのだという。そのためには、生徒としてはクラスにも貢献しなくてはいけない。だから、文化祭などにも積極的に参加していく姿勢を求めていく。それは、教員としての立場からはもちろんだが、野球部の監督としても普通の公立校で勝つために大切な姿勢だという考え方である。
 

 そして、そのために最も心掛けていることが、言葉の大切さだという。
「やるだけやって、思い切ってぶつかっていけ」とか、「当たって砕けろというつもりでやれ」という言葉は言わないという。それは、その言葉を発した段階で、既に相手よりも格下になっているという意識になるからだ。どんな強豪私学だって、相手とは対等なのだという意識を育んでいかなくてはいけない。だから、常に勝つためにどうするのかということ、それだけを考えていけということである。

「有力私学の子たちが気づかないことに、ウチの子たちが気づくようになっていけば、そこで何かが見出せると思います」と川井監督は言う。波崎柳川時代には、若かったということもあって、「…するべきだ」という指示も多く与えていたという。それが今は「“べき”の許容範囲が増えましたね」と笑う。しかし、実はその許容範囲が広がったということは、それだけ指揮官の思いがチームに浸透してきたということでもある。

 そして、その中で監督として譲れないところもあるということを選手たちも理解してきているということなのだろう。それこそが、普通の高校生が野球エリート高校生と対等に戦っていくことができる背景でもあるのだ。

(取材・文/手束 仁


注目記事
【6月特集】快進撃の作り方

このページのトップへ

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.06

【石川】星稜が完封リレーで「県4連覇」、北信越大会へ<春季県大会>

2024.05.06

センバツV・健大高崎は夏も強い! Wエース抜きで県大会優勝、投打に新戦力が台頭中!

2024.05.06

【春季埼玉県大会】花咲徳栄4回に一挙10得点!20得点を奪った花咲徳栄が昌平を破り優勝!

2024.05.05

【関東】常総学院、花咲徳栄などが関東大会進出!5日の山梨準決勝で出場校がすべて決定!

2024.05.05

【春季埼玉県大会】花咲徳栄9回一挙5得点!山村学園のプロ注目左腕・西川を攻略し逆転で関東大会へ!

2024.05.01

春季大会で頭角を現した全国スーパー1年生一覧! 慶應をねじ伏せた横浜の本格派右腕、花巻東の4番、明徳義塾の正捕手ら入学1ヶ月の超逸材たち!

2024.04.30

大阪大などに卒業生を輩出する進学校・三国丘  文武両道を地で行く公立校は打倒・強豪私学へ「何かしてやりたい」

2024.04.30

【岩手】宮古、高田、久慈、久慈東が県大会出場へ<春季地区予選>

2024.05.01

【神奈川】関東大会の切符を得る2校は?向上は10年ぶり、武相は40年ぶりの出場狙う!横浜は6年ぶり、東海大相模は3年ぶりと意外にも遠ざかっていた春決勝へ!

2024.04.30

【山口】宇部鴻城が西京を下して7年ぶり優勝!<春季大会決勝>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.21

【愛知】愛工大名電が東邦に敗れ、夏ノーシードに!シード校が決定<春季大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.21

【兵庫】須磨翔風がコールドで8強入り<春季県大会>

2024.04.22

【鳥取】昨年秋と同じく、米子松蔭と鳥取城北が決勝へ<春季県大会>