Column

千葉経済大学附属高等学校(千葉)【前編】

2015.03.05

 過去には松本 啓二朗(横浜DeNA)、丸 佳浩(広島東洋カープ)2014年インタビューのプロ選手をはじめ、内藤 大樹(JFE東日本)、大島 寛之(元・三菱重工神戸)など大学・社会人で活躍する強打者、巧打者を数多く輩出。さらには2004年夏の甲子園ベスト4、2008年選抜ベスト4を経験し、全国舞台でも、強打を発揮する千葉経大附だが、なぜ伝統的に打撃力が高い選手を育てあげることができるのか?率いる松本 吉啓監督に打撃力の高め方についてお話を伺った。

バントには打撃の基本が詰まっている

松本 吉啓監督(千葉経大附)

 まず松本監督に打撃指導で大事にしていることを伺うと、「バントが一番大事です」と語った。

「バントは腕の角度をしっかりと決めないと転がせませんよね。バントは自分の目の前でバットを出さないとしっかりと決められません。自分の目の後ろでバットを出したら、必ず失敗します。上手くバントするためには脇を締めて、一塁側へ転がすか、三塁側へ転がすかで、腕の角度も変えることが大切です。その時に脇が開いたら、詰まってファールになったりしますよね。

 これは打撃の動作と似ているんです。だからバントは打撃の基本が詰まっていて、その延長上がバッティング。打てない子にはバントを徹底的にやらせます。どの球でも、どのコースにでも、決められるように練習させます」

 打撃が上手い選手はバントが上手いというのはよく聞く話である。やはりプロ入りした丸選手もバントが上手く、セーフティバントもしっかりと決められる選手だったようだ。また松本監督が千葉経大附の前に監督をしていた埼玉栄時代、高校通算86本塁打を放ち、プロ入りした大島 裕之選手(元西武)がいたが、ずっと4番打者だったため、バントすることはなかった。

「ホームランも打てますし、バントはもったいないので、ランナーが出ても打たせていました。高校2年生の時、全日本代表に選出されましたが、大島は6番。その時、バントのサインが出たのですが、140キロも出る外国人投手の球をしっかりと決めていましたよ。あいつ上手いじゃん!と驚きましたね。

 あまり(バントを)やらないプロの選手も、最初は出来ないですが、打撃の基礎ができているので、すぐ出来るようなる。バントができるようになれば、ミートも身につくし、タイミングの取り方も分かる。あとはパワーを付けるだけ。パワーはトレーニングで付けていけばよい。バントでミートを鍛える。それが連動すれば、良い打者になっていくと考えます」

 松本監督のその発想は指導者になった時から、ずっと貫いているようだ。

「僕の現役時代は、投手だったのですが、打てる選手をいろいろ見ていたら、やっぱりバントが上手かった。指導では、打てる選手はバントも上手いということではなく、バントが出来れば打撃も出来ると逆の発想で、選手たちに教えています」

 バントはランナーを進める作戦という概念のほうが強いが、打撃面でバントこそ重要視する松本監督の考えは斬新である。バントが上手くなるために、バントだけの紅白戦も行うという。

「これは外野手を除いた6人制の試合です。バントをして、転がったら一塁手、三塁手が出ていいというルールです。そのようにやると、良いコースへ転がすと、ギリギリのタイミングになるんです。これは守る野手の練習にもなりますし、盗塁もOKなので、盗塁をさせないようにバッテリーの強化にもなります。また、打者もしっかりと転がさないとアウトになるだけなので、バントの練習にもなる。またプッシュバントで内野手の間を抜いたら、ヒット。いろいろルールを設けてやっていくと、覚えていくことがたくさんあるんです」

 地味に見えるバントだが、こうやってゲームをしながらやっていけば、バント技術も磨かれていくのだろう。

2015年度 春季高校野球大会 特設ページ

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[page_break:ティー打撃から実戦を意識する]

ティー打撃から実戦を意識する

 バントは、タイミング、腕の角度、打つポイントが大事になるが、それは普段の打撃練習から同じ考えで行われている。

打撃練習(千葉経大附)

「タイミングをしっかりと取れるかが一番です。どんなに綺麗なスイング軌道をしても、タイミングが取れなければ詰まるだけ、またポイントが合わなければ空振りするだけなんです。

 ただ、それをやったら打てない、インコース、アウトコースが打てない、といった基本的なことは教えます。スイングの軌道は、アッパースイングが悪いというわけではないですが、フライになって凡打になることが多い。ダウンスイングに近いスイングが、ボールの正面で捉えることが多いので、教えるのはそこまでですね。タイミングの取り方、コースの対処の仕方は自分で学ぶしかないんです」(松本監督)

 そしていろいろなコースに対応するために、ティー打撃も工夫を凝らしている。

「なんとなく真ん中に打たせるだけで終わってほしくない。例えば、投げるタイミングをずらしたり、早いタイミングでインコースへ投げたり、早いタイミングで打つことに慣れたところで、ゆっくりと投げたりと、様々な変化をつけて打ってほしいんです。そうすることで、両サイドを打つ練習にもなり、タイミングの取り方も学ぶことが出来る」(松本監督)

 全ては実戦につなげるため。それが千葉経大附のやり方である。体力作りも同じ考えだ。松本監督はあえて選手たちに重いバットを振らせる。軽いバットならば、振れるかもしれない。しかし重いバットをしっかりと振れる体力、パワーがなければ、甲子園にいくレベルの選手にならないと考えているからだ。その重要性を感じた選手たちは、雨天練習場の近くにあるトレーニングルームで、パワーを鍛えるためにウエイトトレーニングにしっかりと取り組んでいる。

元西武ライオンズ・森 博幸臨時コーチ(千葉経大附)

 また、打撃強化に大きな味方が出来た。昨年11月から臨時コーチに就任した元西武の森 博幸氏だ。現役時代は187センチと恵まれた体格を生かし、スラッガーとして活躍。2007年~2010年まで埼玉西武ライオンズの打撃コーチを4年間を務め上げた森氏は練習中から打撃のアドバイスを行っていた。松本監督は、
「彼が新日鐵君津に在籍していたときに対戦したことがあるのですが、よく打たれていました(笑)。本当に大きな存在だと思います」

 昨年から学生野球資格を得た元プロ野球選手が、指導の現場に立つことが多くなったが、森氏もその1人として選手たちを支えている。

 千葉経大附はバントを基本として打撃を強化する理論がしっかりと浸透している。3月6日公開の後編では、そんな千葉経大附が、実戦感覚を失わせず、春に結果を出せる取り組み「紅白戦」の活用法を紹介していきたい。

(文・河嶋宗一

千葉経済大学附属高等学校(千葉)【後編】を読む!

2015年度 春季高校野球大会 特設ページ

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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