Column

「野球部や高校部活動で、”民主主義”を実践するには?」――教育者・工藤勇一さん【『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.5】

2024.05.17


工藤 勇一さん

学校教育において、子どもたちの民主主義を実践してきた工藤勇一さん。
麹町中学の校長時代、生徒たちが主体的に学校運営に関わり、生徒たち自ら学校改革を進めたことで注目を集めた。2024年3月までは、横浜創英中学・高校の学校長を務めた。
そんな工藤さんは、20代後半~30代までは、中学校の野球部監督として、野球の指導にあたってきた過去がある。

その後、野球との距離は遠のいたものの、昨今、新しい高校野球を目指す指導者が増える中で、教育界に一石を投じてきた工藤さんに、高校野球だけでなく、学校スポーツ界全体に対して思うことを率直に伺った。
「ぼくが、日本のスポーツ界について述べるのは、このタイミングなんだろうかという思いはありますが」と一言置いた上で、工藤さんの考えを語っていただいた。

<関連記事はこちら>
連載『新しい高校野球のかたちを考える』を読む

部員全員がOKの最上位目標を定めてみよう

――学生たちが実践できる民主主義とはどんなものでしょうか?

工藤さん:ある1学期に、校長室のドアを開けて廊下に出たら、2人の女子生徒がぼくに質問をしてきました。
『校長先生。突然なんですけど、組織をまとめるためにはどんなことしたらいいですか?』って。ぼくはこんな風に答えました。
いや、いきなりか。ずいぶん難しい問題だな。そうだな、時間もないので1個だけ大事なことを言うね。一番大事なことはね、目標なんだよ。一番上の目標をどう設定するかだな。

企業では、フィロソフィーとか、パーパスとか言うそうだけど、会社でもっとも大切にしている目標のことを考えてみようか。
もし、その会社でもっとも大切にしている目標のことを、社員の一部の人たちが、『この目標は納得できない』と考えていたとしよう。だとすると、この組織はね、始めからもう崩壊していることになる。つまり絶対に上手くいかない会社だ。
なぜなら、この目標を納得できないと思っている人は、この目標を実現するための手段を考えられないよね。だから組織は、最初から分裂している。

つまり、この人たちは、常に上司の顔色を見ながら、無理矢理、がまんをして仕事をしているということだよね。

じゃあ、これを部活に合わせて考えてみようか?
「県大会で優勝しよう」なんて目標を掲げている部活は、これと同じだね。やる前から崩壊しているってことだよ。なんでかというと、この部活に入るのは、このスポーツを楽しみたいと思って入ってきた人もいる。自分は運動も得意じゃないから、スポーツを楽しみたいという人。その一方で、運動も得意で県大会で優勝したいという人もいる。

じゃあ、どういう行動をとるの? 難しいでしょ? 部長さんは、まとめることできるかな?
目標は、みんながOKな目標を掲げないと、この組織は最初から崩壊するんだよと、その生徒たちに話しをしたら、彼女たちは、
『そっかー。じゃあ、わたしたちはだめだったんだー。そういう目標を掲げちゃったかぁ。』って笑いながら言ったんです。 だからね、勝ちたいって思ってる人も、楽しみたいという人も、全員がOKな目標というのは、そのスポーツを楽しみたいっていうのであれば、みんなOKなんじゃないかな? 苦しみながら、勝ちたいと思ってるかな?

やっぱり、生徒たちにはそのスポーツを楽しむためにやってることを忘れてほしくないですね。どんな部活においても、最上位の目標にはこのスポーツを思いっきり楽しもうよというのを掲げておきさえすれば、たとえ部員内に対立が起きた時でも、全員が最上位の目標の実現を優先させながら、「じゃあ勝ちたい人が勝てるようにしていくためには、どんな運営方法がいいんだろう?」とか、「どんな練習方法がいいんだろう?」と意見が言えるようになっていくのだと思います。
残念ながら、日本では大人でさえ、この上位目標と下位目標の区別がいまだにできないんですよね。

次のページ:地域で高校の野球のリーグをつくってみよう

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この記事の執筆者: 安田 未由

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