Column

「その指導で、子どもは本当に野球を楽しむことができていますか?」――教育者・工藤勇一さん【『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.3】

2024.05.13


工藤 勇一さん

学校教育において、子どもたちの民主主義を実践してきた工藤勇一さん。
麹町中学の校長時代、生徒たちが主体的に学校運営に関わり、生徒たち自ら学校改革を進めたことで注目を集めた。2024年3月までは、横浜創英中学・高校の学校長を務めた。
そんな工藤さんは、20代後半~30代までは、中学校の野球部監督として、野球の指導にあたってきた過去がある。

その後、野球との距離は遠のいたものの、昨今、新しい高校野球を目指す指導者が増える中で、教育界に一石を投じてきた工藤さんに、高校野球だけでなく、学校スポーツ界全体に対して思うことを率直に伺った。
「ぼくが、日本のスポーツ界について述べるのは、このタイミングなんだろうかという思いはありますが」と一言置いた上で、工藤さんの考えを語っていただいた。

<関連記事はこちら>
◆第1回:「慶應のやり方がいいとかじゃなく、野球界の今までの常識を疑ってかかってほしい」——元慶應高監督・上田誠さん
◆第2回:「『甲子園のためにすべて右ならえ』は世知辛い。野球を楽しむためのリーグがあっていい」——元慶應高監督・上田誠さん

自分の価値をあらゆる人に押し付けていませんか?

工藤さん:相変わらず、日本では戦後をいまだに引きずっている競技がいくつもありますね。一度、人々の心に染みついてしまった価値観というのは、戦争が終わっても、しばらくその国に残り続けてしまうと言われています。戦争というものはそれくらい重たいものだということです。
世の中が平和になって、どれだけ社会や制度が変わっても、何十年もずっと引き継がれてしまうんですね。

例えば、学校の運動会もそうですけど、戦時中は、団結や士気高揚を図るために利用されてきましたが、現在の学校でも、いまだにその頃の価値観を引きずっています。戦うことに価値を見出し、努力することに価値があるとか、何かを実現するために目標を立てて、工夫していく姿がとても重要だなど、教育的な言葉を並べていく。結局は、大人側からの価値観を子どもたちみんなに押し付けています。組体操やマスゲームなどは象徴的な種目ですね。

学校スポーツにおいては、『人間を育てる』という言葉をよく使いますよね。一見素敵な言葉に見えますが、スポーツを無理やり教育として捉えていることには無理があります。
スポーツというものの本来のあるべき姿をいまだに日本では問えないんです。そこに価値をつけて、あらゆる人に押し付けようとする。スポーツに対する根本的な問題が日本にはあります。

もちろん、人それぞれの価値観だから、スポーツを教育として捉える考えはOKなわけです。教育的な意味があるよねって考えるのも大事だし、素敵な人間になるためにスポーツは重要だと考えるのも意味がある。でも、その価値観をみんなに、押し付けるという点が問題なわけです。

次のページ:ピッチャーとバッターの1対1の対決を楽しもう。最優先は楽しむこと。

固定ページ: 1 2

この記事の執筆者: 安田 未由

関連記事

もっと見る

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.22

【愛知・全三河大会】三河地区の強豪・愛知産大三河が復活の兆し!豊川を下した安城も機動力は脅威

2024.05.23

春季関東大会でデビューしたスーパー1年生一覧!名将絶賛の専大松戸の強打者、侍ジャパンU-15代表右腕など14人がベンチ入り!

2024.05.22

【宮城】仙台育英は逆転勝ち、聖和学園が接戦を制して4強入り<春季県大会>

2024.05.22

【北信越】帝京長岡の右腕・茨木に注目!優勝候補は星稜、23日に抽選会

2024.05.22

【秋田】明桜と横手清陵がコールド勝ちで4強入り<春季大会>

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.05.17

「野球部や高校部活動で、”民主主義”を実践するには?」――教育者・工藤勇一さん【『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.5】

2024.05.20

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在31地区が決定、宮城では古川学園、仙台南、岩手では盛岡大附、秋田では秋田商などがシードを獲得

2024.05.19

【東海】中京大中京がコールド勝ちで17年ぶり、菰野は激戦を制して23年ぶりの決勝進出<春季地区大会>

2024.05.20

【春季京都府大会】センバツ出場の京都国際が春連覇!あえてベンチ外だった2年生左腕が14奪三振公式戦初完投

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.29

【岩手】盛岡中央、釜石、水沢が初戦を突破<春季地区予選>

2024.04.23

床反力を理解しよう【セルフコンディションニングお役立ち情報】

2024.05.15

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?