2023夏・高校野球ジャイアントキリング急増の理由をサッカー的に考える
8月6日から兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で行われている「第105回全国高校野球選手権記念大会」。その全国49代表を決める各地方大会では波乱、いわゆる「ジャイアントキリング」が数多く起こった。
和歌山大会では智辯和歌山が初戦で高野山に敗れると、四国地区では高松商(香川)が3回戦で藤井学園寒川に、明徳義塾(高知)が準決勝で高知中央に敗退。同地区では両校含めた第1シード校がすべて甲子園を逃した。
さらに関東地区ではセンバツ覇者の山梨学院(山梨)、岡山大会では創志学園が初戦で、福井大会では敦賀気比なども甲子園を逃すことに。大阪大会決勝戦で履正社に敗れた大阪桐蔭なども含め、2大会以上の連続出場は49代表中11校に留まった。
では、なぜこのような「ジャイアントキリング」現象が生じるようになったのか?「ジャイアントキリング」の語源となったサッカー的観点も入れて考えてみると、いくつか要因が見えてきた。
「ジャイアントキリング」が起こる2つの要素
そもそも「ジャイアントキリング」は2つの要素が同時発生することではじめて起こるものである。1つは「格下」と思われている側が自らの潜在能力を最大限発揮し、100%以上の力を出すこと。もう1つは「格上」とされる側が対戦相手や自らの要因によって100%の力を出せずに終わった場合である。
一例を挙げれば、高知大会準決勝で高知中央に敗れた明徳義塾の場合。高知中央・太田 弘昭監督は、左スリークォーターの藤田 一秀投手(3年)を先発させた上で、右サイドの高橋 秀斗投手(3年)を8回途中から投入。対角線に目線を変えさせることで明徳義塾の持ち味である「見極め力」を封じ込めにかかり、失点を延長11回裏の1失点のみに留めた。
それでも明徳義塾・小林 和生投手(3年)が無失点投球を続け、タイブレークに入った10回裏には1死二、三塁とサヨナラのお膳立てを整えた明徳義塾であったが…。続く打者が初球を三塁邪飛。関係者によれば「『待て』のサインは出ていなかった」というが、相手にプレッシャーがかかっている場面での初球攻撃は明徳義塾のセオリーで言えば「なし」のはず。ここで得点できなかったことが、延長11回表の2失点への流れを作ってしまった。
「延長10回からタイブレーク」「クーリングタイム」もジャイキリの要素に
また、この高知中央vs明徳義塾戦でも実際に生じたことだが、今年から導入された延長10回からのタイブレークも「ジャイキリ」の遠因になっている。「タイブレークだと力量差がリセットされるので、強豪校はなるべくタイブレークに入りたくない。そこでの焦りも終盤の失点になっている要素だと思います」と分析するのはある県の強豪校監督。サッカーでのPK戦に近い要素と考えれば、その分析も理解できる。
加えて、今大会から導入される5回終了時、グラウンド整備後に設けられた10分間のクーリングタイムも身体のみならず、前半の課題を冷静に振り返り、後半戦への戦略を改めて練るには有効な時間。いわばサッカーで言うところの「ハーフタイム」とも言える。
事実、四国地区の地方大会を取材しても、これらのルール変更に対応したチームは例外なく後半戦でもう一段ギアを上げられていた。
そう考えると、聖地甲子園でも「ジャイアントキリング」を起こす要素は十分。先日、北海道で開催されたインターハイ男子サッカー競技で次々とジャイアントキリングを起こし、ついに初優勝を遂げた明秀日立(茨城)のようなことが起こるのか?注目したい。