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準備期間が短い中、社はいかにして夏春連続甲子園出場を決めたのか

2023.02.18

準備期間が短い中、社はいかにして夏春連続甲子園出場を決めたのか | 高校野球ドットコム
髙橋 大和(社)

 19年ぶり2度目のセンバツ出場を決めた兵庫の。一昨年秋は県大会優勝、昨夏は選手権初出場で1勝を挙げるなど、近年の活躍は目覚ましい。昨年はOBの近本 光司外野手(阪神)と辰己 涼介外野手(楽天)がゴールデングラブ賞に輝くなど、プロ野球の世界でも存在感を放っている。

 2014年8月就任の山本巧監督が進めた脱体育会の組織作りが昨夏の甲子園初出場に繋がった。「彼らの頑張りが形に出て、一緒に喜べたことが一番嬉しかったですね」と指揮官は喜んだが、甲子園が終われば、すぐに新チームのスタートを切らないといけない。

 甲子園に出られなかったライバルより、新チームのスタートが1ヶ月近く遅れたことに加え、夏までのレギュラーは全員3年生。これまでと同じことをしていてはいけないと感じていた山本監督は、最初の3週間の練習スタイルを変化させたと話す。

 「練習や練習試合で出た課題を局面局面で強く落とし込んでいきました。体の中に沁み込んでいくような感覚を求めながら、一瞬一瞬の出来事を先延ばしにしないようなスタンスで3週間はいきました」

 秋の大会までの準備期間が少ない分、出た課題をすぐに解消するというスタイルで強化を進めた。

 このやり方は吉と出る。「思考力が高い」と山本監督が評価する主将の隈 翼内野手(2年)を中心に、現チームの選手は練習や試合の運び方が優れていた。その背景には引退した3年生と意識を共有しながら練習をできたことが大きかったと山本監督は分析する。レギュラー総入れ替えの中でも、粘り強く戦い、県大会は3位で近畿大会の出場を獲得。近畿大会でも1回戦で奈良王者の天理を相手に13対7と打ち勝った。

 「苦しい試合が多かったですけど、精神的には一切、不安な状態はなくて、こういう準備をして、こういう風にやっていけば、こういう結果を得られる可能性が高いということをみんなで共通認識しながら試合を運べたので、終盤に集中打が出たりとか、試合をひっくり返したりというような粘りにも繋がって、大会中に成長していくような形が取れました」(山本監督)

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甲子園出場を祝う垂れ幕

 夏から秋にかけて大きく成長したのがエースの高橋 大和投手(2年)。昨夏の兵庫大会はベンチ入りしていたが、3年生に力のある右投手が複数いたために甲子園ではベンチから外れていた。

 「ピッチャーとして全ての面でレベルアップしようという思いで練習していました」と悔しさをバネに練習に取り組み、投球フォームを改善。すると、球速が5キロほど向上し、昨秋には141キロをマークするまでになった。

 県大会では接戦になる試合もあったが、髙橋の好投で勝ち切ることができた。天理戦でも8.2回を投げて160球の熱投。しかし、連戦となった準々決勝の智辯和歌山(和歌山)戦では1回途中からリリーフするも、5.1回で5失点(自責点3)と打ち込まれ、チームも0対7のコールド負けを喫した。

 連投の疲れもあっただろうが、「自分の力を出し切って、それでも全く歯が立たなかった」と自らの力不足を感じたようだ。試合後の取材では疲れを言い訳にすることなく、涙ながらに話している髙橋の姿が山本監督は印象に残っていたという。

 大差での敗戦となったが、得点圏に走者を進める場面も何度かあり、「非常に成長していくだろうなという思いを持てた試合でした」と山本監督は今後への手応えを感じられる試合だったと振り返る。

 近畿地区からのセンバツ出場枠は6。明治神宮大会で大阪桐蔭(大阪)が優勝して枠が1つ増えたとはいえ、準々決勝敗退校で唯一コールド負けを喫したが選出される可能性は低いだろうというのが大方の予想だった。

 こうした事情もあり、近畿大会を終えてからは夏を見据えて再スタートという考えをメインに強化の計画を立てた。その一方で、センバツ出場当落線上の近畿大会8強ということで、1月27日の選考会の結果を受け止める必要がある。そこで年末から山本監督は隈に対して次のような会話を交わしたという。

 「落選してしまっても、夏に向かってしっかり取り組んでいるので、自分達に誇りを持って受け止めようという。もし、選考して頂けることがあれば、それも評価をして頂けたということなので、自信を持って凛として受け止めよう。そこで浮き沈みがないようにしよう。どちらのラインも覚悟をして、選考会の日だけは過ごそうという話をしました」

 どちらの結果になっても気持ちの浮き沈みがないように監督と主将の間で気持ちの準備を進めていたのだ。その結果、7番目で選出。選ばれることも想定していたが、「驚きの方が大きかった」というのが隈の正直な気持ちだった。


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ノック後のミーティング

 センバツに向けては何度か寒波が着た影響もあり、秋同様に短い準備期間で臨むことになりそうだ。その中でも強みになりそうなのがディフェンス面。投手陣はエースの高橋を中心に、智辯和歌山戦で先発した福田 海晴投手(1年)、左腕の年綱 皓外野手(2年)、杉本 太一投手(2年)と期待値の高い投手が控える。

 野手陣では正捕手の西垣 琉空捕手(1年)に二塁手の隈、遊撃手の藤井 竜之介内野手(2年)、中堅手の山本 彪真外野手(2年)とセンターラインに守備力の高い選手が揃っており、失点はある程度計算できそうだ。

 19年前のセンバツは大前 佑輔投手(元JR東日本)と坪井 俊樹投手(元ロッテ、現仙台大コーチ)を擁して初出場ながら4強入りした。今回はそれを超える成績も期待されるが、「まずは一戦必勝」と隈は気を引き締める。

 アップでシャドー守備やシャドー走塁を取り入れるなど、日頃から様々な場面を想定して練習を行っている。センバツはその成果を発揮する場所になるだろう。

(取材=馬場 遼

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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