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体調の異変とオーバートレーニング

2022.10.31

体調の異変とオーバートレーニング | 高校野球ドットコム

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

 秋の公式戦も一段落し、実践練習とともに体力づくりのためのトレーニングを行っているチームも増えてきていることと思います。それぞれの課題を克服し、春のシーズンには一回り成長した姿でプレーできるようにがんばっていきましょうね。さて今回は野球選手にもしばしば見られるオーバートレーニング症候群(慢性疲労症候群)について考えてみたいと思います。練習には「質より量」という面と「量より質」という面があります。どのようにコンディションを整えていけば良いでしょうか。

オーバートレーニング症候群とは

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オーバートレーニングと超回復の概念図

 オーバートレーニング症候群とは「練習やトレーニングなどによって生じる生理的な疲労が、十分に回復しないまま積み重なって起こる慢性疲労状態のこと」を指します。トレーニングでは「少しずつ負荷を上げていくことでより強化される」過負荷の法則があり、体力レベルを上げるためには運動強度を上げる必要があります。こうした強い負荷を体に与えた場合は、疲労回復のために十分な栄養と休養をとることが鉄則ですが、このバランスが崩れて体が回復する前にさらに強い負荷がかかる状態が続いてしまうと、練習やトレーニングの積み重ねが逆にパフォーマンスやコンディションを低下させてしまうことになります。

 オーバートレーニング症候群と見分けのつきにくいものに「うつ症状」が挙げられます。どちらも強いストレスが引き金になることが多いのですが、オーバートレーニング症候群は主に体力的なストレス(疲労)が要因である一方で、うつ症状は精神的ストレスが大きく関与すると言われています。ただし、ストレスは体力的なものだけ、精神的なものだけということはなくどちらもその影響を考慮する必要があります。疲労の蓄積とともに競技におけるプレッシャーなどを感じていると、体調に異変を起こしやすくなることは容易に想像できるでしょう。この他にも風邪の症状や貧血などとも見分けがつきにくいことがその特徴として挙げられます。

練習は優先順位をつけよう

 練習には反復練習によって身につける「練習量」を積むものと、量よりも質を求めて体がフレッシュな状態の時に集中して行うようなものがあります。さらに技術を高める練習とともに体力的な要素を鍛えるためのトレーニングなどもあわせて行う必要があります。高校野球という短い期間の中で、時間的な制約があるとどうしても「あれもこれも」と詰め込んでしまいがちですが、毎日すべてをやり切ろうとすると体力的な限界を越えて疲労困憊になってしまいます。たとえば技術練習をめいいっぱい行った後に、体力強化のためのランニングを行い、その後は自主練習としてウエイトトレーニングを行うようなケースでは、もはやウエイトトレーニングをやり切るだけの体力は残されていないのではないでしょうか。もし行えたとしてもパフォーマンスアップにつながるものとは言いがたく、ケガのリスクが高まってしまうことさえ考えられます。練習では優先順位をつけることを心がけ、ウエイトトレーニングを行うときには技術練習の強度を考慮するといった配慮が必要でしょう。

[page_break:オーバートレーニング症候群の特徴/コンディションを記録し続けよう]

オーバートレーニング症候群の特徴

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練習やトレーニングと疲労回復とのバランスを意識しよう

 オーバートレーニング症候群の主な特徴としては、疲れやすい、全身倦怠感、不眠などの睡眠障害、食欲不振、体重減少、集中力の欠如などがみられます。これらの傾向がみられる場合には、原因と思われる要因を取り除く一方で、疲労を軽減させるために栄養面・休養面からさまざまなアプローチを行う必要があります。

 まずは体力的な疲労回復を優先させるようにしましょう。練習を休むことに抵抗を覚える選手もいると思いますが、責任感が強く、真面目で練習熱心な選手ほどオーバートレーニング症候群におちいりやすいとも言われています。こうした資質は野球選手として活躍するために欠かせないものではありますが、体が重いと感じるときに「練習が足りないから、体が動かない」のではなく「練習をしすぎることが、かえって体のコンディションを低下させる」こともあることを知っておきましょう。普段の生活では栄養バランスを考慮した食事を心がけ、十分な睡眠をとることが心身の回復につながります。

コンディションを記録し続けよう

 オーバートレーニング症候群は日頃のコンディションを把握・記録しておくことで早めに気づくことができます。特に強い負荷で体を追い込んだときは、翌日の起床時心拍数が普段よりも増えていることが指摘されていますので、普段から毎朝、心拍数をチェックする習慣をつけておきましょう。1分間の心拍数がいつもより10拍以上多い状況が数日続くようであれば、練習量や内容の見直しなど早めに対応することが大切です。指で測定する場合は人差し指と中指の2本を使って親指側の動脈にあてて行います。強く押しすぎると反射で脈が落ちてしまうので注意しましょう。またスマートフォンの無料アプリには心拍数を測定できるものが多くありますので、一つの目安としてこうしたものを活用することも良いでしょう。

 また体重の減少も疲労度の目安として活用することができます。こちらも起床時など測定するタイミングを決めておき、普段から把握しておくことで体調の異変に気づきやすくなります。見かけ上は元気に見えても、体力的なストレス、精神的なストレスから心身のコンディションが崩れてしまうことは誰にでも起こりえるものです。状況が悪くなる前に十分な休養をとり、心身のリフレッシュをはかってオーバートレーニング症候群を予防することが大切です。

【体調の異変とオーバートレーニング症候群】
●オーバートレーニング症候群とは慢性的な疲労状態から抜け出せない心身の不調のこと
●見分けがつきにくいものとしてうつ症状、風邪の症状、貧血などが挙げられる
●練習を詰め込みすぎず、優先順位をつけることが大切
●休むことに罪悪感を持たず、まずは疲労回復を優先させよう
●責任感が強く、真面目で練習熱心な選手ほど注意しよう
●起床時の心拍数や体重の測定を把握し、オーバートレーニング症候群を予防しよう

(文=西村 典子

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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