試合レポート

大阪桐蔭vs市立和歌山

2022.03.29

大阪桐蔭vs市立和歌山 | 高校野球ドットコム目次
まさに別格。超高校級左腕・前田悠伍の投球は社会人投手そのもの
「ヒットの延長線上がホームラン」理論こそが1試合史上最多タイの6本塁打を生んだ

<第94回選抜高校野球大会:大阪桐蔭17-0市立和歌山>◇28日◇準々決勝◇甲子園

 1試合史上最多タイの6本塁打と歴史に名を刻む内容で大阪桐蔭が圧勝した。大阪桐蔭の強みが存分に発揮された試合を投手、打撃に分けて紹介したい。

まさに別格。超高校級左腕・前田悠伍の投球は社会人投手そのもの

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前田悠伍

 甲子園初登板となった前田悠伍投手(2年)が躍動した。

 今年の甲子園のスピードガンはやや辛いのか。常時130キロ〜138キロ(最速140キロ)と昨秋から目に見えて速くなったわけではないが、恐るべしはその球質。鋭い腕の振りから繰り出す直球の質は異質で、社会人投手を見ているという意見もうなずける。

 変化球の引き出しの多さや精度の高さも群を抜いている。武器でもある110キロ前後のチェンジアップを右打者だけではなく、左打者の内角にも投げられる。高校生ではなかなかできない芸当だ。ネット裏の高い席からは判別がしにくいが、120キロ後半〜130キロ前半のカットボールの精度も高い。直球と見間違うぐらいでレベルが違う。100キロ台のカーブを織り交ぜ、緩急を使うこともできていた。

 先発6回12奪三振の快投にも、前田本人はいつも通りの投球ができたと振り返る。

「最初からしっかり準備していたので、いつも通りできてよかったです。特に四球を簡単に出さずにバッテリーでリズムを作るのがいつも通りだと思いますが、そこが良かったと思います。

 真っすぐで押していこうということで、使っていって変化球を生かそうとしました。
6回に四球を出しましたが、もう終わってしまったことと、次の打者に切り替えて集中して三振が取れたので良かったです。80点だと思いますが、要求したところに投げ切れていない制球力を磨いて投げミスを減らしたいと思います」

 この冬は、ブルペンで20メートルから23メートルぐらいの距離から投球して、徐々に距離を縮めて、直球の質を磨いてきた。。西谷監督は「前田は打者を見て投げた。初めての甲子園で堂々と投げましたね。秋からは体づくりをしっかりやって、スピードが出てきましたが、投手は球速で勝負するのではない。今日も打者を見て投げてくれましたね」と相手打者としっかり勝負できていることを絶賛した。

 7回から登板した別所 孝亮投手(3年)も昨年のセンバツ以来の甲子園登板となった。まだ慌ただしい内容だった昨年のセンバツと比べると、球の収まりも良く、140キロ前後(最速142キロ)の威力抜群の直球を両サイドに投げ分け、120キロ前半のスライダーの切れもよく、能力が高いことを示した。

 掘り出し物と思ったのが、3番手で登板した南 恒誠投手(2年)だ。185センチ、83キロと恵まれた体格の大型右腕で、23年のドラフト候補として十分期待できる逸材と感じた。左足を上げた時のバランスの良さ、滑らかな体重移動、体全体を使って真上から振り下ろすことができる投球フォームも素晴らしい。常時135キロ前後の速球は回転数が高そうで、高校3年には140キロ後半も期待できそう。何より同じ腕の振りから投げ込む120キロ前後のチェンジアップは打者の手元で急降下し、空振りを奪うことができる。昨年秋はベンチ外だったが、大阪桐蔭には上級生、下級生にこれほどの素材がいるのかと驚きが隠せない。

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「ヒットの延長線上がホームラン」理論こそが1試合史上最多タイの6本塁打を生んだ

「ヒットの延長線上がホームラン」理論こそが1試合史上最多タイの6本塁打を生んだ

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伊藤 櫂人

 「ヒットの延長線上がホームランとなりました」

 史上初の1イニング2ホーマーを放った1番・伊藤 櫂人内野手(3年)は、そう自分の打撃を振り返る。高校野球ファンを驚かせた大阪桐蔭打線。伊藤が話した言葉は野球界の常套句かもしれないが、これこそが大阪桐蔭打線が甲子園で猛威を振るうマジックワードとなっている。

 西谷監督は語る。

「甲子園は引き付けて叩けば、ホームランが出る」

 技術的な部分については細部のこだわりはあるかもしれないが、この言葉の裏側を考えると、レベルスイングでしっかりとスピンをかけてライナー性の打球を打てるスイングとフィジカルがあれば、予想以上の打球を打つことができるのだ。本塁打を放った選手で、生粋のフィジカルエリートの海老根優大外野手(3年)を除くと、工藤翔斗捕手(3年)、谷口勇人外野手(3年)、星子天真内野手(3年)、伊藤は、いわゆる中距離打者だ。

 西谷監督がいう「本当にホームランを打てるチームではないので、6本にびっくりしました」というのは謙遜でもなく、今年のレギュラー陣の打者タイプを見れば、そう思うのも当然だった。

 ただ、やるべきことはやって試合に臨んでいた。初戦の鳴門(徳島)戦では相手投手・冨田 遼弥投手(3年)に苦しみ、3得点に終わっていた。富田が素晴らしかったのはもちろんだが、初戦ということで打線の状態が上がっていない感じはあった。西谷監督は打者陣の調子を取り戻すために、中3日の調整期間では技術的な修正を行った。

 それでも不安はあった。「伊藤があまりよくなかったのでどうするかなと思いましたが、試合でどう修正するか話して1本出たので良い方向になったと思います」

 この試合は丁寧な試合運びができたことも圧勝の要因となった。

「個々にテーマをもって、狙い球を絞りながらやりました。点差を広げて、こういう試合をやったことはありませんでしたが、1打席1打席、1球1球大事にやろうと主将から言って、丁寧にやれた結果だと思います」

 練習でやってきたことを最大限に表現することができた。長く大阪桐蔭の試合を見ているが、甲子園でこれほどうまくいった打撃内容も珍しいといえる。準決勝の國學院久我山(東京)戦でも丁寧な試合運びを目指し、一戦必勝で臨む大阪桐蔭が、4年ぶりの決勝進出を決めることができるか。

(記事:河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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