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「普通の都立校」が2季連続8強入り、21世紀枠推薦校・都立狛江の「粘り強さ」の秘密は?

2021.12.03

 今年の都立校の中でNo.1の実績を誇るのが、都立狛江だ。この夏は西東京ベスト8、秋も都8強入りを果たし、都立随一の快進撃を見せた。この成績で21世紀枠の都推薦校に初選出され、センバツ大会出場の可能性を残している。

 同校を率いる西村 昌弘監督は都立狛江の選手、環境については「良くも悪くも普通の都立校」と語る。スポーツ推薦がある強豪私学と比べると決して恵まれた環境とはいえない中で、いかにして好成績を収めることができたのか。

主力のほとんどが中学時代は「控え」

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アップの様子

 野球部は校舎敷地内の他部活との共用グラウンドで汗を流している。練習は平日3日、土日は主に対外試合を組んでいる。平日の練習試合は2時間以内と決まっており、練習メニューは事前にLINEで共有され、取材日も「15:58から17:51まで」と分単位でスケジュールが組まれていた。

 そのためグラウンド内の目立つ位置にはタイマーが設置されており、全体練習は大会を想定して、攻守交代のスピード感を意識しながら練習しているという。また、「音楽提供」の役割もあり、プロ野球のキャンプのように練習中にBGMを流し、士気を保ちながら、量を質で補うため、普段の練習から「意識」の部分を大切にしている。

 そんな都立狛江に入部してくる選手はどんな選手が多いのだろうか。西村監督は「ほとんどが軟式出身者です。また中学校時代に大会で活躍したとか、戦績がある選手はほとんどいません」という。前チームから投打の柱として活躍したエースの山崎 優投手(2年)や期待の1年生・杉本 裕世内野手など、今チームの主軸の選手も中学時代は「控え」で公式戦の経験がほとんどない選手だった。

 エースで4番の山崎は中学時代、調布シニアでプレー。それでも「すごい選手ばかりで、自分じゃ全然敵わなかったです」と中学3年生の頃は公式戦にほとんど出場しない控え投手だった。杉本も中学時代、武蔵府中シニアでプレーも「全然下の方でした」とレギュラーではなかった。それでも、山崎は今夏から本格的に主戦で登板し、秋も都8強牽引で東京都屈指の右腕に成長。杉本も1年夏から試合に出場し今チームも主軸として活躍している。

[page_break:3年生の「諦めない姿」が可能性広げた]

3年生の「諦めない姿」が可能性広げた

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山崎 優(都立狛江)

 彼らの活躍で2季連続8強という成績を収め、21世紀枠都推薦校を勝ち取った。都立狛江の試合は「終盤の粘り強さ」が印象深い。特に秋の都大会に入ってからは、1回戦は9回サヨナラ勝ち、2回戦は延長10回を制し、3回戦も9回土壇場で追いつき、延長に持ち込んでサヨナラ勝利と3戦連続で終盤の競り合いを制した。西村監督は「まさか(秋も)ベスト8までくるとは思っていなかったです。いつ負けてもおかしくなかったと思います」と驚きながらも、「やっぱり3年生のあの『諦めない姿』といいますか、それが一番の勝てた要因かなと思います」。この夏は5回戦で強豪・八王子を撃破、準々決勝の世田谷学園戦では延長13回タイブレークに及ぶ大接戦を演じた。最後の一球まで全力で戦い抜いた3年生たちが残した遺産が大きかった。

 エースで4番の山崎は、この秋も投打でチームを牽引。特に3回戦の明大中野八王子戦が印象深いという。この試合、粘りの投球を見せていた山崎は2点ビハインドで迎えた9回裏、二死一、二塁の場面で打席が回り、3ボール2ストライクと追い込まれるも、執念の中前適時打を放つ。その後5番・武 晃平も適時打を放ち土壇場で同点に追いついた。そして10回裏、二死一塁の場面で2番・杉本の一打で粘り勝ち。執念のサヨナラ劇だった。

「諦めずに粘れて、なかなか(このような)逆転勝ちはできるものではないので、この試合でチームの輪が深まりました」

 山崎の投打にわたる活躍で逆転劇を呼び込み、劇的勝利で2季連続ベスト8進出という快進撃を見せた。

 「粘り強い狛江」の原動力となっているものとは。西村監督は次のように語る。

「チームのキーワードとして『今日もうまくなろう』というものがあります。ビハインドだったりピンチだったりなどの『障壁』を喜べるように、これを乗り越えたら上手くなれるぞ、ということは常に伝えています」

 試合終盤に劣勢でも選手同士で「今日もうまくなろうぜ!」という声が自然と出るようになったという。試合では結果を求めず、そのプロセスで成長を掴み取って欲しい、という西村監督の思いを選手たちもしっかり汲み取っていたことで、勝敗を分ける局面でも萎縮せずにプレーすることができた。

 今のチームについて、西村監督はすでに「例年の6月ぐらいの仕上がり具合」と選手たちの成長スピードには日々驚かされている。「逆にどこまで行くのかなって楽しみなぐらいです」と手応えと期待は十分のようだ。21世紀枠の推薦校に選出されたことについては、「選んでいただければとても光栄なことです。狛江高校野球部の歴史上、ここまで来れたのは創部以来初めて。とても名誉なことだと思い、これにとらわれず、もっともっと成長していけたら」と春以降の更なる躍進に力を込める。

 今年の東京都の高校野球を彩った都立狛江ナイン。来春以降も、試合終盤に劣勢でも「狛江なら、あるぞ」と思わせてくれるような、持ち前の粘り強さを発揮してくれることを期待している。

(取材:藤木 拓弥

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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