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肩甲骨の動きを妨げるもの

2021.10.31

肩甲骨の動きを妨げるもの | 高校野球ドットコム

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。

 朝晩はすっかり寒くなり、秋の深まりを感じるようになりました。選手の皆さんは、実践練習とともに来春を見据えて体づくりにも取り組んでいるのではないでしょうか。さて今回は、肩甲骨の動きを妨げる様々な部位について考えてみたいと思います。肩甲骨は複雑な動きをしますが、その動きを妨げる部位へのアプローチも合わせて行うようにしましょう。

肩甲骨の構造や動きを理解しよう

肩甲骨の動きを妨げるもの | 高校野球ドットコム
肩甲骨の6つの動きを確認しよう

 肩甲骨は背中の上部に位置し、左右に羽のようについている骨です。腕を動かすときは肩甲骨も連動して動くのですが、この肩甲骨の動きが悪くなると投球動作に支障を及ぼすようになります。肩甲骨は鎖骨や上腕骨とは骨同士が連結していますが、脊柱とは直接つながっておらず、宙に浮いたような状態になっています。宙に浮いた状態でもいつも同じように背中の上部に肩甲骨が位置しているのは、肩甲骨周辺部の筋肉が支えているからなのです。

 肩甲骨は主に6方向に動きます(図1)。肩をすくめるシュラッグ動作で肩甲骨は上にあがり(挙上)、力を抜いて腕をだらんと下げると肩甲骨も下がります(下制:かせい)。また胸を反らせて背中で肩甲骨を引き寄せるように動かすと肩甲骨は内側に寄り(内転)、背中を丸めるようにすると肩甲骨は外側に開きます(外転)。投球動作時に腕を上げるようにすると肩甲骨は連動して上方に移動し(上方回旋)、腕を下げるときは腕の動きとともに元の位置に戻ろうとします(下方回旋)。

首の張りは代償運動につながる

 肩甲骨の動きを妨げるものとしてまずチェックしたいのが首周りの筋肉です。ここが硬くなっていると肩甲骨が最初から少し挙がった状態となり、投球動作に必要な上方回旋の動きが十分に行えなくなります。

 肩甲骨と上腕骨は連動して動くため、肩甲骨の動きが不十分だと上腕骨も上がりきらず、これを補うためにさらに首をすくめたり、上体を傾けるなどして代償運動を伴うようになります。代償運動を伴う不自然なフォームで繰り返し投げていると、肩や肘などに過度な負担がかかって傷めるリスクが高まります。普段から肩周りとともに首を支える僧帽筋の上部や板状筋(ばんじょうきん)、肩甲挙筋など、首周辺部のストレッチを行うようにしましょう。

[page_break:胸椎の伸展動作を高めよう]

胸椎の伸展動作を高めよう

肩甲骨の動きを妨げるもの | 高校野球ドットコム
背中にストレッチポールなどを置いて胸椎の伸展動作を改善しよう

 肩甲骨は脊柱と骨で連結していませんが、さまざまな筋肉が付着することによって連動して動くようになっています。胸椎は主に回旋動作に関与しますが、体を曲げたり反らせたりする屈曲・伸展動作は、肩甲骨の外転・内転動作に影響を及ぼします。胸椎の伸展が十分に得られない場合、肩甲骨を引き寄せる内転動作も不十分な状態になります。

 また肩甲骨は上腕骨とも連動するため、肩甲骨の引き寄せ動作(内転)が不十分なまま、上腕骨を無理に挙げようとすると、肩の前部に大きな負担がかかって傷めてしまうことがあります。胸椎の伸展をスムーズにするためにはストレッチポール、座布団などを背中に置いた状態で体を反らせるストレッチや、壁に向かって立ち、両手を耳の横につけるように挙げた状態で壁から離れないようにスクワットを行う壁スクワットなどを行うようにすると良いでしょう。

胸筋の硬さを改善しよう

 投球動作は常に腕を後ろから前に振り下ろす動作を繰り返すため、体は次第に前面部が硬くなり、背中が丸まった姿勢になりがちです。また体の前面で収縮する大胸筋は上腕骨に付着しているため、次第に肩関節を前方へと引っ張るようになってきます。大胸筋が強ければ強いほどその傾向は顕著になり、肩が丸まって前方に移動するといったことも起こります。また肩甲骨前面部にある烏口突起(うこうとっき)に付着する小胸筋が硬くなると、肩甲骨を十分に引き寄せること(内転)ができなくなります。この状態で投球動作を行うと肩甲骨と連動する上腕骨が十分に挙がらず、やはりケガのリスクが高まることが予想できます。

 胸筋の硬さを改善させるためには胸を反らす等のストレッチとともに、背筋を使って「引く」動作を意識したローイングなどのエクササイズを取り入れるようにしましょう。チューブなどを活用して引く動作を行うことでも胸筋のストレッチにつながります。また大胸筋や小胸筋の付け根部分を直接自分の手やテニスボール等を使ってほぐすようにすると、肩甲骨がスムーズに内転して肩が挙がりやすくなるのでぜひ実践してみましょう。

 筋肉によって浮いた状態になっている肩甲骨。その動きを妨げるものには首や胸椎、胸筋などが挙げられます。肩周辺部のコンディショニングと合わせて、これらの部位にも注目してアプローチしてみてくださいね。

【肩甲骨の動きを妨げるもの】
●肩甲骨は周囲の筋肉によって「浮いた」状態で安定する
●肩甲骨の動きには「挙上」「下制」「外転」「内転」「上方回旋」「下方回旋」がある
●首の張りは投球時に代償運動を伴いやすい
●胸椎の伸展を改善して肩甲骨の内転をスムーズにしよう
●大胸筋や小胸筋の硬さは肩が丸まり、投球動作に支障をきたしやすい
●肩周辺部とあわせてこれらの部位にも着目しよう

(文=西村 典子

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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