東京五輪4位の韓国野球は復活できるか?球数制限導入で若手投手に光明【後編】
柳賢振、金廣鉉の後継者なき投手陣
U18韓国代表時代のカン・ベッコ
今大会での韓国の不振は、そもそも戦力が整っていなかったことが原因であることも事実だ。北京五輪で金メダルを獲得した時は、高卒2,3年の栁賢振(リュ・ヒョンジン/現ブルージェイズ)、金廣鉉(キム・ギャンヒョン/現カージナルス)という若い左腕投手の存在が大きかった。韓国の投手陣は、この2人に梁玹種(ヤン・ヒョンジョン/現レンジャース)を加えた3人の左腕が担ってきた。
金と梁は1988年生まれで、2006年のU18杯の優勝の主力であり、柳はその1年先輩になる。野球に限らず韓国のスポーツ界では、ソウル五輪が開催され、国全体にスポーツ熱が高まっていた88年前後に生まれた世代に人材が多く、ここ10年以上、韓国のスポーツ界をリードしてきた。
また少数精鋭のエリート主義である韓国では、エリートの道に進むかどうかを判断する10歳前後の頃の状況が大きな意味を持つ。88年前後に生まれた世代が10歳の頃は、朴賛浩(パク・チャンホ)がドジャースの中心投手として活躍していた時代だ。そのため、野球、特に投手に人材が集まった。
しかしその後韓国は、金融経済危機で球界も大打撃を受けたうえに、2002年の日韓共催のサッカーW杯の影響で、野球人気は極端に落ち込んだ。そのため、柳らの後を継ぐ人材がなかなか出てこなかった。加えて、可能性のある若者がいても、高校時代の酷使(アップやケアの問題もあると思うが)で、故障を抱えてプロに入り、入団後にすぐ手術というケースが多く、なかなか芽が出なかった。
韓国人投手の人材難は、韓国のプロ野球の成績をみれば明らかだ。最多勝投手は2013年までは一部を除き韓国人であったが、14年以降は、17年の梁玹種(当時KIA)だけだ。防御率も韓国人は15年と19年の梁だけ。奪三振のタイトルも今回代表に選ばれた車雨燦(チャ・ウチャン/LG)が15年に獲得した以外は、外国人投手だ。
今シーズンも防御率は、上位5人に韓国人は今回代表に選ばれなかった白正鉉(ペク・ジョンヒョン/サムスン)がトップにいるが、他は外国人だ。奪三振に至っては、上位10人全員が外国人投手だ。
韓国のプロ野球では、外国人投手は最大2人しか登録できないので、セーブやホールドは韓国人が占めている。セーブで現在トップなのが阪神でも活躍した呉昇桓(オ・スンファン/サムスン)であるが、今大会では、3位決定戦のドミニカ共和国戦で本塁打を浴びるなど、逆転負けのきっかけを作った。セーブで3位の高祐錫(コ・ウソク/LG)は、日本戦で山田 哲人(ヤクルト)に走者一掃の二塁打を浴びて敗戦投手になっている。投手陣がこの状況で勝てるわけがない。
[page_break:李承燁、金泰均の空白の大きさ]李承燁、金泰均の空白の大きさ
U18韓国代表時代のイ・ジョンフ
打撃では、打率で上位3人の姜白虎(カン・ベッコ/KT)、梁義智(ヤン・ウィジ/NC)、李政厚(イ・ジョンフ/キーウム)が注目された。姜は今シーズン78試合に出場し打率.400(数字はいずれも8月12日現在)という驚異的な数字を記録している。韓国球界最高のスター選手である梁は打率.354、元中日の李鍾範(イ・ジョンボム)の息子として知られる李は打率.342で、高卒で入団1年目から過去4年間、打率3割以上を維持している。
ただ存在感のある、チームの核となる選手はいなかった。北京五輪では、当時巨人の李承燁(イ・スンヨプ)は不振続きであったが、その存在がチームに安心感を与えてうえに、準決勝の日本戦は決勝本塁打を放った。09年のWBCでは、当時ハンファの金泰均(キム・テギュン)がその役割を担っていた。
今回の韓国では、姜と李は22歳と若く、捕手でもある梁には、その責務は重すぎた。1988年生まれの金賢洙(キム・ヒョンス/LG)は、国際試合の経験が豊富で、今大会でも活躍したが、近年は衰えも目立ち、存在感は薄くなっている。
こうしたリーダー不在の影響か、3位決定戦のドミニカ共和国戦では、8回に逆転された後、ベンチで姜白虎が、けだるそうな表情で、ガムを口からはみ出しながら噛んでいる姿が放送され、物議を醸した。こうしたところにも、代表チームに対する意識の低さが現れている。
U18韓国代表時代のウォン・テイン
東京五輪での韓国の惨敗は、韓国野球が抱える問題が一気に噴出した結果とも言える。ただ今後に明るい材料がないわけではない。
今回の韓国代表には、李義理(イ・ウィリ/KIA)と金ジヌク(韓国ロッテ)という2人の高卒ルーキーの左腕投手が選ばれた。率直に言ってこの2人のフル代表への選出は時期尚早の感もあるが、ユースレベルでは十分通用する実力がある。コロナにより中止になったが、昨年U18のアジア野球が開催されていれば、日本の難敵になったことは間違いない。
それに今回代表には選ばれなかったが、KTの蘇珩準(ソ・ヒョンジュン)が昨年、2006年の栁賢振以来となる高卒ルーキーの二桁勝利である13勝を挙げるなど、若手の台頭が目立っている。蘇は2年前のU18W杯で、日本を苦しめた投手だ。また、2018年のアジア選手権に登場し、優勝に貢献したサムソンライオンズの元 兌仁(ウォン・テイン)も東京五輪代表に選ばれ、期待の若手速球派右腕だ。
このように若い投手が出てきた背景として、彼らは、北京五輪の優勝や09年のWBCの準優勝で韓国プロ野球の人気が年々高まっている時期に育った世代であることに加え、韓国の高校野球では3年前から105球を超えたらカウントに関係なく降板し、75球以上投げたら4日間は登板できないという投球数制限が導入されたことが大きい。これによって、故障を抱えたままプロ入りする選手が激減した。
韓国野球の未来は、こうした選手が韓国を代表する投手としてフル代表の国際試合でも活躍できるレベルに成長できるかどうかにかかっている。その動向は、韓国ほど厳しくないが、ようやく投球数制限が導入されたばかりの日本としても無視できない。
(取材=大島 裕史)