グランドでの熱中症への対応
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
いよいよ夏の大会が目前に近づいてきました。地域によっては無観客で行う、上限を決めて有観客で行う等さまざまな制限を伴うことが多いと思いますが、大会が開催される喜びとそれを支える人々への感謝の気持ちを込めて、精一杯プレーして欲しいと思います。さて今回は熱中症のような症状が見られたときの対応についてお話をしたいと思います。ドクターやトレーナーなど専門家がいないところで「熱中症かも」と思ったときに選手や指導者の皆さんに知っていてもらいたい熱中症への対応を挙げてみます。
暑い環境での練習や試合は熱中症のリスクが高まる
運動中や運動後に起こる熱中症には「熱失神」「運動誘発性筋けいれん」「熱傷害」「熱疲労」「労作性熱射病」があります。これら5つの状態について、グランドレベルでできる対応などについてまとめておきます。
1)熱失神
熱失神は暑さなどで皮膚の血管が拡がったことによって、立った時に低血圧症状(起立性低血圧)を起こして倒れてしまうものです。熱を皮膚から発散しようとして皮膚の血管がひろがって起立性低血圧を起こす場合と、運動中で筋肉に血液が多く流れ込むことで、一時的に脳への血流が低下して起こる場合があります。また脱水状態や暑さに馴れていない状況でより起こりやすいと考えられています。熱失神への対応としては日陰や涼しい場所に移動した上で、足を少し高くした状態で仰向けになり(脳への血流を促す)、可能であれば適切な水分・塩分補給と送風や冷たいタオルなどを用いて体表面を冷やすようにしましょう。また倒れた際に、頭を強打していないかどうかも確認しましょう(強打している場合はすぐに医療機関を受診しましょう)。
2)運動誘発性筋けいれん
これは「足がつる」といった筋肉のけいれんのことを指します。筋肉は自分の意志によって縮めたり、伸ばしたりすることが可能ですが、筋けいれんの場合は自分でコントロールできない突発性の筋収縮が続き、痛みを伴うものです。筋けいれんの原因はさまざま考えられますが、不十分な水分・塩分補給、食事バランスの欠如、筋疲労、神経伝達の誤作動などが挙げられます。筋けいれんが起こったときは、他動的にストレッチをすることが推奨されているので、近くにいる選手や指導者の方に手伝ってもらいましょう。筋けいれんを起こした選手は大きく息を吐きながらなるべく体の力を抜くようにすると、筋肉がゆるみやすくなります。また痛みを伴う場合はアイシングや軽く手でほぐすといったことも筋けいれんの緩和に役立ちます。
3)熱傷害
熱傷害は暑い環境の中で運動を続けた結果、肝臓や腎臓、胃腸など臓器や筋肉が損傷された状態を指します。この状態はより重篤な熱射病になってしまうリスクが高く、運動後に血尿がみられることもあります。血尿や運動をしていない状態での筋肉の強い痛みなどがある場合は、医療機関を受診して血液検査による診断をしてもらうようにしましょう。
意識障害など重篤な症状がみられる場合はためらわず救急車の要請を
4)熱疲労
熱中症の中でも一番よく起こるのが熱疲労です。熱疲労は暑い環境の中で運動が続けられなくなった状態のことを指します。主な症状としては喉の渇き、めまい、頭痛、イライラする、疲れやすいと感じる、吐き気などさまざまで、循環器系への負担や脳から末梢にいたる神経系の疲労などによって起こるといわれています。熱疲労になりやすい傾向としては、暑さに馴れていないことや、脱水状態、体格指数といわれるBMIが高いことなどが挙げられます。熱疲労の疑いがある場合は運動を中止し、空調の効いた部屋や日陰で風通しのいいところで休みます。ユニフォームやスパイクなど体を締める衣服類はゆるめ、氷や濡れタオル、扇風機などを使って全身を冷やすようにしましょう。同時に水分・塩分補給を行うことも忘れずに行いましょう。
5)労作性熱射病
熱射病は熱中症の中でも一番状態が良くないものです。熱射病を起こす要因としては「熱疲労を起こしていたにも関わらず強制的に運動を継続した」「罰走など予定外の運動を課せられた」「自分の意志で体調不良や熱疲労の症状を無視して運動を継続した」といったことが挙げられます。症状としては強い倦怠感や脱水など熱疲労と似ているところも多いのですが、一方で中枢神経系の異常がみられます。集中力の低下、意識の混濁や消失、攻撃的な言動など、判断や認知能力の低下などがより顕著になります。熱射病の場合、対応が遅れると生命の危険にさらされることがあるため、救急車の要請や全身冷却を素早く行うようにしましょう。全身冷却は深部体温と呼ばれる体内の温度を下げることが重要で、氷を入れたアイスバス(子ども用プールなどでも応用可)などで冷却したり、氷水を全身にかけたり、冷やしたタオルで体を覆ったりと体全体を冷却しながら救急車を待つようにしましょう。
熱中症といってもさまざまな状態があり、軽度のものから重篤なものまであります。それぞれの特徴を知り、グランドでも対応できる方法を知っておくことは、自分自身やチームメイトを助けることにもつながります。これから熱中症が起きやすい時期ですが、予防をすることはもちろん、起きたときにはあわてずに対応するようにしてくださいね。
参考書籍)スポーツ現場における暑さ対策(出版社:ナップ 編著:長谷川博、中村大輔)
【グランドでの熱中症への対応】
●熱中症には「熱失神」「運動誘発性筋けいれん」「熱傷害」「熱疲労」「労作性熱射病」がある
●熱失神は一過性の起立性低血圧に起因する
●運動誘発性筋けいれんは「筋肉がつった」状態のこと。他動的なストレッチが有効
●熱傷害は筋肉の融解や臓器が損傷した状態。運動後に血尿が出ることもある
●熱疲労は熱中症の中でも一番よくみられる状態。運動を継続することが困難になる
●労作性熱射病は熱中症の中でも重篤な状態。全身冷却を行いながら救急車を要請しよう
(文=西村 典子)