キャッチャーのポジション特性とケガ
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
例年になく早い梅雨入りとなっているところも多いようですが、選手の皆さんは日々の練習に励んでいることと思います。雨天が続くとグランドでの練習が十分にできないこともありますが、今の環境でできることに集中して練習してほしいと思います。さて今回はポジション特性として特異的な側面を持つキャッチャーについて考えてみたいと思います。野球でただ一人、守備陣と向かい合い「扇の要」として活躍するキャッチャーというポジションはどのような特性があるのでしょうか。
アクシデントによる急性外傷が多い
キャッチャーはクロスプレーなど選手と接触する機会が多い
キャッチャーはピッチャーをリードし、ホームを守り、内野手・外野手の連携指示を出し…とその役割は多岐にわたります。打者によるファウルチップを始め、ピッチャーの悪送球による打撲、捕球時などの突き指などはよく見られるケガの一つです。ホーム上でのクロスプレーではランナーやボールと接触して打撲するケースや、相手ランナーのスパイクが体に接触してしまい、流血してしまうといったことも起こります。野球はスポーツ外傷の少ないノンコンタクト(非接触型)スポーツとして扱われますが、キャッチャーだけは例外的にコンタクトによる急性外傷が多いポジションと言えるでしょう。そのためキャッチャーは専用のプロテクターやマスク、レガースをつけて防御します。
屈伸運動による膝や股関節の痛み
キャッチャーはピッチャーからのボールを捕球するたびに、返球動作で「立って座って」という屈伸運動を繰り返します。膝の屈伸運動で膝関節が90°程度であれば、反復動作による膝への影響はさほど気になりませんが、腰を沈めて座る姿勢になると膝関節は最大限曲げられ(130°程度)、荷重による負荷が大きくなります。膝関節内にはクッション的役割を持つ半月板という軟骨が存在し、繰り返される物理的ストレスに対応しますが、過度に負担がかかると膝関節を痛めることになってしまいます。またブロッキングの動作では膝を内側に締めて、ボールが体の前で止まるように構えますが、このような姿勢も繰り返し行っていると膝の内側を痛めやすくなります。さらに屈伸動作によって股関節に痛みを覚える選手も少なくなく、股関節を保護するために存在する関節唇を傷めるケースもあります。
姿勢を維持することによる腰背部の痛み
肩や肘にかかる負担はピッチャー並み。重点的にセルフコンディショニングを行おう
キャッチャーは常にやや腰を浮かせた状態を維持しているため、腰背部の筋肉が緊張し、背中や腰に張りや痛みを覚えることも少なくありません。筋疲労や柔軟性低下からくるコンディション不良は、ストレッチや疲労回復のための入浴などで改善することが期待できますが、慢性的な痛みになると骨や軟部組織の変性を疑う必要があります。特に成長期には腰椎分離症といって腰の骨(腰椎:ようつい)の疲労骨折を起こす場合があります。極端な反り腰の姿勢や野球動作で大きな衝撃が繰り返すことで発症し、そのままプレーを続けると痛みがなかなか改善しない、パフォーマンスが上がらないといったことが起こります。特に腰を後屈した際に痛みが出ることが多いです。一方、腰椎と腰椎の間にあるクッション性の軟骨組織(椎間板:ついかんばん)が変性し、神経を刺激することで起こる腰椎椎間板ヘルニアも気をつけたいスポーツ障害の一つです。こちらは腰を前屈することで痛みが誘発されやすいと考えられています。
ピッチャーと同様に投球動作の多いポジション
意外と見落とされがちですが、キャッチャーはピッチャーと同等、もしくはそれ以上にスローイングを要求されるポジションです。毎回ピッチャーに返球する投球動作にくわえ、盗塁を刺すためのスローイング、牽制にも対応する必要があり、肩や肘への負担はピッチャー同様にかなり大きいと考えられます。投球後のコンディショニングとして推奨されるトレーニングや、痛みや違和感がある場合のアイシングなどはピッチャーだけではなくキャッチャーもぜひ習慣としてもらいたいセルフコンディショニングです。
防具による脱水・熱中症に注意しよう
これから暑くなる時期は特に防具による体への影響を考慮する必要があります。暑い時間帯に防具を身につけてプレーを続けていると、知らず知らずのうちに脱水症状を起こすことが考えられます。防具の重さだけではなく、風通しの悪さが体内に熱をこもらせて、熱中症のような症状になることも予想されます。他のポジション以上にキャッチャーは水分・塩分補給をこまめにとる必要があるでしょう。
キャッチャーは他のポジションと比べて急性外傷が多く、さらには反復動作による慢性のスポーツ障害、脱水症状などさまざまなことが懸念されます。他のポジションと比較してもキャッチャー特有の動きが多いため、、その特性を十分に理解してより良いコンディションを維持できるように心がけましょう。
【キャッチャーのポジション特性とケガ】
●野球はコンタクトの少ない競技だが、キャッチャーは接触による急性外傷が多い
●繰り返される膝の屈伸運動は膝関節や股関節を傷めやすい
●中腰を維持する時間が長く、腰背部の筋緊張や筋疲労を起こしやすい
●長引く腰痛は腰椎分離症や腰椎椎間板ヘルニアを起こしているものもある
●キャッチャーはピッチャーと同様、もしくはそれ以上にスローイング機会が多い
●防具によって体内に熱がこもりやすく熱中症のリスクが高まるため、こまめに水分・塩分補給を行おう
(文=西村 典子)