Column

長距離移動のコンディショニング

2021.03.15

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

 いよいよシーズンイン。春の練習試合が解禁となり、実践練習を行っているチームも多いと思います。一方で地域によってはまだまだ十分に練習環境が整わず、活動に制限のあるチームも少なくありません。選手の皆さんが思いきってプレーできる日常が、一日でも早く戻ってくることを願っています。さて今回は移動中のコンディショニングについて考えてみたいと思います。試合会場にバスで長距離移動をする場合、移動してすぐにウォームアップなどを行う場合など「体の調子がイマイチだな…」と感じることはありませんか。長距離移動後にもより良いコンディションを保つためにはどのようなことに気をつければいいでしょうか。

移動で疲れるのは体を動かさないから


狭い空間で体を動かさない状態はエコノミー症候群のリスクを伴う

 移動中同じ姿勢で座り続けると、動いているときに比べて体全体の血液循環が悪くなることは想像できると思います。しばらくの間であれば我慢できるものでも、これが1時間を越え、より長い時間を座わったままで過ごすことは体にとっても大きなストレスとなります。

 移動中は「睡眠時間」と考えて休んでいる選手もいると思いますが、その場合でも体を動かさないことは同じですし、また移動中に寝てしまうと知らず知らずのうちに体勢が崩れて腰や膝などが痛くなることも考えられます。体の大きな選手は特に狭いスペースの中で体を持て余すこともあるのではないかと思います。

エコノミークラス症候群(肺動脈血栓塞栓症)について

 皆さんはどこかでエコノミークラス症候群という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。これは長時間体を動かさない状態が続くと、血液粘度(けつえきねんど:血液の流れやすさの指標)が高まっていわゆる「血液ドロドロ」状態となり、血液中に血栓と呼ばれる血液の塊のようなものができてしまうことで起こります。

 血栓が血液中を流れて肺動脈で詰まってしまうと息切れや胸痛を伴い、重症になると命にも関わってしまうものです。これは飛行機のエコノミークラスの乗客から多くこのような症状が報告されたことからエコノミークラス症候群と呼ばれるようになりましたが、これは飛行機のみならず、体を動かさない状態が長時間続くと起こりうるものです。

 長時間移動によって体が動かない状態を強いられていても、血液の状態をなるべく正常に保つためには適切な水分補給を行うことと、血液循環をよくするために体を動かすことが挙げられます。

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移動中にできること〜水分補給


適切な水分補給を行い、適度に体を動かすことを心がけよう

 電車やバス、飛行機などは温度を一定に保つためにエアコンを常時つけっぱなしにしているため、どうしても空間内が乾燥してしまいます。そのため、知らず知らずのうちに体内の水分が失われ、意識的に水分補給を行わないと軽い脱水状態になってしまうことが考えられます。脱水状態を予防するためにも移動中はこまめに水分補給を行うことが大切です。

 ただし利尿作用のカフェインを含むコーヒーなどはなるべく避け、スポーツドリンクや麦茶、ミネラルウォーターなどを選ぶようにしましょう。特にスポーツドリンクはドリンク内に含まれる電解質成分の働きによって、水分が体内に保たれる割合が高いという研究報告もあります※1。また乾燥した空間ではマスクを装着するようにすると、のどの乾燥を防ぐだけではなく、ウイルス等による感染症対策にもなります。

移動中にできること〜座ったまま体を動かす

 座ったまま体を動かすことも血液循環をよくすることにつながります。座った状態で踵を浮かすカーフレイズであったり、その場で軽く腿上げをすることや足首を回すことなども良いでしょう。座っているとどうしてもお尻の筋肉は圧迫されるので、膝下から先はむくみなどでふくらはぎ全体が張ってしまうこともあります。

 足元で滞っている血液を循環させるためにも1時間に1回を目安に積極的に体を動かすようにしましょう。またバスや車などでサービスエリアでトイレ休憩をする場合は、降りて背伸びをしたり、軽く歩いたりして体を動かすことを心がけましょう。ふくらはぎ等のむくみが気になる場合は着圧ソックスなどを使用することも一つの方法です。

移動中に寝ることのリスク

 朝が早い時間帯であれば移動中に眠気に勝てず、寝てしまったという選手も多いと思います。昼寝程度の短い睡眠であればさほど支障はありませんが、ぐっすり眠ってしまうと脳や体が休息状態になってしまうので、起きてからしっかりと動き出すまでにある程度時間がかかってしまいます。

 その間、ボーッとしたり、自分で動いているつもりでも思うように動けなかったりといったことでケガをするリスクが高くなります。また寝てしまうと体の姿勢が崩れてしまうことも問題です。足を投げ出して骨盤が後傾してしまうと、起きたときに腰が痛い…といったことも考えられます。移動中の座席では骨盤はなるべく立てた状態が理想的ですが、そのためにクッション※2などを利用することも検討すると良いでしょう。

※1)検証!水VSイオン飲料 どちらが効果的?(大塚製薬)

https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/thrombosis/verify/

※2)骨盤を立てた状態をキープできるクッション(ヨックション)

http://www.yokk.jp/kodawari/index.html

【移動中のコンディショニング】
●移動中は体を動かさない状態が続き、疲労を感じることがある。
●長時間体を動かさないと、エコノミー症候群のリスクが高まる。
●移動中はミネラルウォーターなどの水分補給を積極的に行おう。
●1時間に一度は座っていても体を動かすように心がけよう。
●移動中に熟睡してしまうと脳と体が休息モードになってしまう。
●姿勢が崩れてしまうと腰痛につながることも。骨盤を立てて座る意識を持とう。

次回は3月31日に配信予定です!

(文=西村 典子

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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