Column

帝京出身の監督が伝え続けてきた「這い上がる精神」。狭山ヶ丘が地区予選初戦敗退から真の下剋上を果たす。

2020.12.02

 今年の埼玉独自大会で快進撃をつづけ、初優勝を飾った狭山ヶ丘(埼玉)。しかし半月後に開幕した地区予選では初戦敗退を喫した。捲土重来を期する選手たちの想いに迫る。

自分たちには基礎固めしかない

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初戦敗退の悔しさを語る小山 秀斗主将

 「同じミスで負けているんだよ。今も同じミスだよ。
それが出ているんだよ。試合のプレーに!」

 シートノックに選手たちのミスが続くと、小山 秀斗主将が強く選手たちを引き締める。また練習後にも小山は選手を呼び出して話し合う。まるで小山が選手の上司のような関係だ。

 その姿勢に帝京出身の平澤 智太郎監督も「先頭に立つ選手の理想像はチームメイトの欠点、ミスに対して目をつぶってはいけないものだと思っています。小山は前チームの主将・正高(奏太)をしっかりと見ていて、指摘が出来る選手」と全幅の信頼を置く選手だ。

 小山は地区予選敗退の悔しさを忘れられない。初戦の県立川越戦では味方のエラーや、拙攻、投手がコントロールを乱すなど、2対4という2点差以上に内容の悪さが目立った。

 「誰よりも秋の大会にかけていて、勝ちたかったんですけど、結果は負けてしまって悔しくて、応援してくださった方、監督さん、先輩方に申し訳ないことをしてしまったなと気持ちの整理がつかなかったです」

 県立川越戦の試合後の様子は、夏の大会が終わったような悔しがりだった。そこから小山を中心にミーティングを重ねた。野球面、生活面に甘さがないか、とことん話し合った。

 まず狭山ヶ丘ナインが見直したのは攻守の基礎だ。月並みの言葉かもしれない。狭山ヶ丘を取材したのは秋の大会が終わった1週間後。練習試合を含め1勝もしていなかった。同時期に狭山ヶ丘の公式戦と強豪校の公式戦を見る機会があったが、投球、守備、打撃と基礎的な部分が大きく劣っているように感じられた。無論、その重要性は狭山ヶ丘の全選手が理解をしている。

 狭山ヶ丘はキャッチボールから時間をかけて行う。内野手は素早い持ち替えから実戦を意識して投げる。投手は実戦に近い状態で、しっかりと投げて、胸元に強いボールを投げる。このサイクルを繰り返し行う。

 そしてシートノックは1つ工夫を凝らしている。ノックを観ると、全員グラブを横向きで捕球しているのがわかる。これは一見、逆シングルで捕球する練習に見えるが、捕球態勢を整える練習だという。主将の小山が説明する。

 「秋の大会を振り返ると、腰が高くなってしまって、ボールを落とす事が多かったので、それが負けにつながるので、基礎の形にして、ボールに対して目線を低くすることを心がけています。この練習は外野も行います」

 もちろん逆シングルではない姿勢で捕球するノックもあるという。この形のノックは例年どおり行われており、この夏、独自大会で優勝したチームもこうした基礎の積み重ねから堅い守備を築いていた。

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1番になるには、相応の練習量と意識改革が必要

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トレーニングに励む狭山ケ丘ナイン

 練習の最後は素振り。これも締めとして、短いものではなく、時間をかけて素振りを行う。

 それぞれが黙々とやっている。取材日では、フリー打撃を行わなかったが、ある狙いがある。

 打撃フォームを矯正する中で、フォーム固めは素振りが一番の練習と捉えており、矯正中の過程でフリー打撃をやってしまうと、間違ったフォームで打ってしまい、身につかない。そのため黙々と素振りを行う。この時間に平澤監督が介入することはない。孤独に打ち勝ってスイングをすることが求められる。この過程は今年のレベルだからではない。去年の先輩たちから継続している取り組みである。

 「3年生のチームもそうだったんですけど、基礎からしっかりとやってきましたからね。それなくして勝利はないです。
昨年も2年春から背番号1の清水という投打の柱がいましたが、まだ昨秋は粗さもあり、ちぐはぐしていたところがありましたし、基礎をしっかりと叩き込んで、あの夏の躍進があると思います」

 こうした地道な取り組みで選手に求めているのは「2度とあんな負け方はしたくない。絶対に這い上がっていく」というメンタリティだ。

 平澤監督は自身の野球人生を重ねながら、選手たちにそのメンタリティを教え込んでいる。平澤監督は杉谷 拳士(北海道日本ハム)と同じ世代の選手だが、実力は当時の学年16名の中で「最下位の選手」と自覚をしていた。

 それでも必死に努力を重ね、2年秋に背番号14を獲得したが、秋では都大会ベスト8に敗れた。

 「早く負けると、2年生は落とされても冬の練習で前田監督さんからも突き放される。それでも負けず、這い上がる2年生たちがメンバーに残っていきます。ただ私の立場はずっと危ういままでした。監督さんから呼び出された時、『次(落ちるの)はお前だからな』と言われていましたね」

 メンバー外の危機。そこから平澤監督が考えたのは1つの行動にも神経を研ぎませることだった。

 「練習1つにしても、自宅に帰ってからの素振りなど行動1つに神経を研ぎ澄ませました。前田監督さんに突き放されるような言われ方をすると、チャンスはあまりない状況で、あまり見てくれていない。それでも突如と訪れた小さいチャンスをものにするには、準備は常にするしかありません。その結果、背番号4を獲得することができました」

 平澤監督は自身の例に出しながら、今のチームに求めているのはなんとしても這い上がるために、小さいことでも神経を研ぎ澄ませて行動ができるか。それが上位チームを破る一歩となる。

 「一番以外、2位も最下位も同じだと思っています。もちろん最終的には1校しか残りませんが、一番になるために、どこよりも練習をして、どこよりも高い意識で練習をする。そういう過程を大事にしていきたい」

 最後に小山に意気込みを語ってもらった。

 「本当に強いチームを目指して、勝てるチームを作っていきたいので、その中で自分は捕手をやらせてもらっていますが、バッテリーが強くなれば、チームが勝てることを教わっています。まずはバッテリーが強くなって、チームの雰囲気を作り、打線がつないで点が取れれば、勝てると思うので、そういうチームを作って優勝します」

 狭山ヶ丘ナインは常に這い上がる気持ちを持ち続け、2021年、甲子園がかかった第103回大会で真の下剋上を果たす。

(取材=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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