高校1年から騒がせた超高校級右腕・中森俊介の知られざるラストイヤーの取り組み【前編】
2020年の高校野球界を牽引してきた明石商・中森 俊介。最速151キロの速球に加えて、多彩な変化球を駆使し、相手打者を翻弄。完成度という尺度でみればナンバーワンと言ってもいい。
10月26日に開催されるプロ野球ドラフト会議でも1位指名が有力視される中森だが、オフシーズンから現在にかけて目の前の課題と向き合い続けてきた。
課題の柔軟性も今では160度まで開脚できるように
中森俊介(明石商)
中森がこれまで課題としてきたのは、柔軟性だ。肩甲骨周りや股関節といった部分が固く、オフシーズン中はチューブトレーニングをしてインナーマッスルの強化をしつつ、肩甲骨周りの柔軟性を高めようと取り組んできた。
冬が明けてからの成果を聞くと、「チューブトレーニングはやっていましたが、あまり実感がわいていないんです」と一言。その一方で下半身の柔軟性には一定の効果を感じていた。
「入学時は110度くらいまでしか開かなかったのですが、風呂上りや暇な時があれば開脚をやっていたおかげで、160度くらいまでは開脚が出来るようになりました」
投球における効果までは実感はできていないが、目に見える成果は現れた。中森は「柔らかいことは大事だと思っていますので、これからも継続していきたいです」と今後も取り組んでいくことを話している。
しかしそれは投球フォームのポイントについて語ったコメントからも、柔軟性が今後も重要な要素になってくることが見えてきた。
「ピッチングもバッティングも回転運動で力を発揮するものなので、足を挙げる時は捻ってパワーを溜めています。上半身は真っすぐキャッチャーに向かっていって、最後にパワーを指先に伝えられるように大事に考えています」
だからこそ、上半身と下半身の連動性は、中森にとって大事なポイントであり、連動性を高めるためにも柔軟性は外せないファクターとなってくるのだ。
最悪の状況から最善を尽くす
中森俊介(明石商)
3月からの選抜に向けて身体も絞りながらキレを出していき、「良い状態でした」と順調に準備は進んでいた。ピッチングに関しても、連動性を意識した下半身重視のフォームで4度目の甲子園への万全を期していた。だが、新型コロナウイルスの影響で大会は中止。さらには練習もできず、中森は実家に帰省をした。
この期間、中森は夏の暑さの中でも投げられるように、もう一度身体づくりを再開。自重トレーニングを毎日取り組み、1日の食事も7食に増やした。特に、たんぱく質を1回の食事にどれだけ摂取するかをポイントにした。
「1回の食事で摂取できる量には限界があったので、ささみを3、4食入れるなど、1回の食事ではなく細かく分けてたんぱく質を摂取するようにしました」
並行して地元の同級生とも練習をするなど、体力も技術もさらにレベルを上げてきた。
「自粛期間もしっかり取り組んできたことで、どれくらいのピッチングが出来るか楽しみでした」と期待で胸を膨らませてグラウンドに戻ってきた。
しかし、いざ試合に入ると打ち込まれて失点。連投してもボールが走らない。
「プロ一本のつもりでしたが、大学も意識して悩みました」と苦しむ時期があった。だが、その原因は期待したが故に起きたピッチングスタイルの変化だった。
「傾斜を使った投球や試合勘もありますが、ストレートで押してしまうことが多かったです。でもこれまでのピッチングを振り返ると、変化球を駆使しながら緩急を付けて打者の雰囲気を見てタイミングを外す。これが自分のスタイルでしたので、それを貫こうと思ったんです」
この時は狭間監督が語っていた「最悪の状況から最善を尽くす」という言葉も胸に刻み、自分の強みを再確認。チームの勝利のために最善のピッチングをすることを再び決めた中森は、最後の夏に挑む。
チームは順調に勝ち残り、大会最終日の5回戦・神戸第一の前に延長戦の末に4対5で敗戦。リリーフで登板をしたが、白星を掴むことができなかった。
「3年生全員が大会に出られるチャンスで、そこまで0点で繋いで全員が出られたのは自信になりました。ただ、最後は詰めが甘いといいますか、勝ち切れない何か課題があるんだと思います」
今回はここまで。次回は甲子園交流試合での桐生第一戦。さらには、中森投手が駆使する球種のコツまで迫っていきます。
取材=田中 裕毅