Interview

驚異の約210グラムのスパイクは軽いだけではない、元高校球児が企画担当したスパイクは画期的

2023.08.21


NPBの世界にいる数多くの契約選手へ用具を提供しているのはもちろん、アマチュア選手たちにもあらゆる画期的な道具を販売しているスポーツメーカー・ミズノ。野球人に向けて新たな道具を開発している日々を送っているなか、この夏に新しい金具スパイク・ライトレボゼロ2を販売することになった。

最大の特徴は軽量感。ミズノ史上最軽量となった約210グラム(27センチ片方を対象)を誇る。その象徴として、ベロには青く輝くミズノのランバードマークがついている。

高校時代の悔しさが生み出したミズノ史上最軽量スパイク

近年、スパイクの人気が回復傾向にあったそうで、そのなかで今回のライトレボゼロ2が販売されたことで、「多くのお客さんに購入いただいており、近年にない結果が出ている」と企画担当者・鈴木康平さんは嬉しそうに話す。
結果が出ているからだけではない。

鈴木さんは高校野球に青春時代をかけてきた元高校球児。母校はこの夏、栃木代表として甲子園に出場した文星芸大附でプレーし、投手として日々、汗を流していた。中学生の頃、甲子園で活躍していた文星芸大附の姿に憧れて強豪校の門を叩いたが、順風満帆ではなかった。

肘を故障し、思い切ってトミージョン手術を受けて何とか復活してベンチ入りしたが、甲子園には手が届かず。鈴木さんは肘をケガしたこともあり、大学では野球を継続せずに勉強に力を注いだ。当時のことを懐かしそうに振り返るとともに、悔しさがこみあげてくるようだった。

「秋は2年連続で優勝しているのに、センバツがかかった関東でいつも負けました。かといって夏の大会も優勝できない。どうしても甲子園に行けなかった。だからこそ甲子園に対する思いは強いかもしれないです。甲子園の存在の大きさとか、最後の夏の一発勝負にかかっている重さとか、よくわかっているつもりです」

甲子園にあと1歩で手が届きそうな場所にいながら、その1歩が遠い。一発勝負の難しさ、負けることの悔しさも身をもって体感している。時間は経ったが、鈴木さんは元高校球児の先輩だからこそ、本気で甲子園を目指している球児たちをサポートしたい。そんな思いを込められた一足こそ、今回開発されたスパイク・ライトレボゼロ2である。

軽さだけではない、ミズノ史上最軽量スパイクにある2つの機能

最大の特徴は、約210グラム(27センチ片方を対象)になった軽量感だ。手に取ればわかる驚きの軽さだが、企画担当の鈴木さんが強く推したいのは、もっと別のところにある。

「現在の野球スパイクの業界は軽量戦争といっていいほど、軽さが重視されている世界です。高校野球であれば、なおさら軽さが求められている要素で、ミズノも力を注いでおり、今回のスパイクも、その一環です。
しかし高校野球は一発勝負の世界で、負けたら全て終わるところもあるので、一歩でも先に、0.1秒でも速く動くために、このスパイクがあります」

ただ軽いだけでなく、0.1秒でも速く動く。そのためのライトレボゼロ2なのである。

どんな工夫を凝らして、理想を実現させたのか。
まず変わったのは、足へのフィット感だ。ライトレボゼロ2はミズノ史上最軽量を誇る。軽さを実現するということは、その代償で耐久性など別の部分で課題が出てくるわけだが、「実際は変えていない」とほとんど変更していないと語る。

使っている素材や物量はほとんど同じだが、フィット感を高めるために必要な素材を適したところに施すように設計を見直した。結果、より立体感を実現させたことでフィット感を高めることに成功。厚みなどを変えることなく、プレー中も含めて高いフィット感に仕上がったことで、動きやすさや軽さを感じやすいスパイクが生まれた。

また、走りやすさも追及した。軽さを実現するために、ミッドソールのクッション材は踵部分だけに採用。同時にインソールには陸上やランニングシューズなどでも使われる「ミズノエナジー」を採用。このインソールを使っていることもあり、踵までしかクッションがないものの、地面からの突き上げを軽減することに成功した。

加えて、靴底そのものの剛性が以前に比べて高まったことで反発力が高いため、爆発的な一歩を実現。切り返しの動きの時も硬さがあるからこそ、しっかりと動き出せるようになった。

大事な一戦で強く、速く一歩を踏み出せるように

軽さだけではなく、強度やフィット感といった手に取っただけではわからない、目で見ただけではわからない細かい部分まで追求して実現させた鈴木さん。「軽さとは相反する要素を実現する必要があり、その部分には本当に苦労した」と少し苦笑いを浮かべた。

企画担当という立場上、全体の動きを把握しながら、発売まで進めなければいけない。スパイクの生産は海外に拠点があるため、打ち合わせを何度も重ねながら進めた。「海外を含めれば5000人近くいる社員の中で、唯一の野球スパイクの企画担当ですから、重責ですよ」と責任の大きさも凄まじかった。

加えて、今回のスパイクは軽さを求めながら、フィット感や反発力を改善。スパイク全ての性能を底上げしようとした。当然壁が多かった。
「労力であったり、素材や工程が増えたりするので、原価が高くなると、現場からは『もっと安くて売れるように努力してほしい』とか、『ふざけるな』などの声もありましたよ」

それでも一切妥協することなく、むしろ球児たちのために、これまでにないようなスパイクを誕生させた。そこにはもちろん現場の意見もあるが、何よりも悔しい思いをした高校野球3年間の青春があり、同じ思いを今の球児たちにさせたくない、という先輩球児の願いがあるからだ。

このスパイクはコンセプトの通り、公式戦で0.1秒を速くするために誕生した。だから試合、特に大事な公式戦の時に履いてほしい、と鈴木さんは願っている。

まもなく夏の甲子園が終わり、全国のチームが今度は秋季大会、その先に繋がっているセンバツに向けて第1歩を踏み出す。その1歩を強く、速く踏み出したい選手は、ミズノのランバードマークが青く輝く、史上最軽量スパイク・ライトレボゼロ2を手にとってはどうだろうか。

この記事の執筆者: 田中 裕毅

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