高校軟式日本一から大学準硬式に転向、そして甲子園のマウンドへ——。関西学院大・水渉夢の“サクセスストーリー”
水渉夢投手
11月14日に甲子園で開催される全日本大学準硬式野球東西対抗日本一決定戦甲子園大会。大学準硬式にとって初めてとなる甲子園での大会。歴史的瞬間は刻一刻迫っている。
硬式に比べると知名度の低い大学準硬式だが、興味深い特徴がある。その1つがダイバーシティな選手の経歴だ。
「軟式出身でも活躍できる」ことを証明する活躍
甲子園出場の実績がある選手から、地方大会で敗れた選手。ケガで満足にプレーできなかったり、高校時代は軟式野球をやっていた選手がたちも大学準硬式を選んでいる。
今回の西日本選抜の1人、水渉夢投手(関西学院大=4年)も高校までは軟式でプレーしていた選手だ。
水は手元で伸びる最速139キロのストレートが持ち味の速球派左腕。4年生の春のリーグ戦では最優秀防御率をはじめとしたタイトルを獲得した。大学準硬式界ではトップの存在である。
ただ、準硬式球の構造は硬式球と同じ。使う道具は全て硬式用であり、体に当たった時の痛みも硬式球と遜色ない。水も入学当時を振り返り、「初めて投げる時は軟式球よりも重たかったので、その時は投げるのが怖かったですね」と苦笑い。やはり順応するまでには苦悩したようだが、「軟式出身でも準硬式で活躍できる」と自信をもって語る。
高校1年生の冬から始まったサクセスストーリー
水の野球人生を振り返ってみよう。
中学時代、水は控え選手で外野の守備要員で投手でもなかった。しかし、当時のチームの監督の誘いで、高校軟式の名門・中京の門をたたいた。
そんな水の野球人生が変わったのは、1年生の冬だ。成長期が訪れ、身長が伸びて身体が大きくなった。おかげでプレー全体に力強さが生まれ、メキメキ上達。2年生の夏には主力選手まで成長を果たす。そして新チームから監督の打診で、投手に挑戦する。
経験はほとんどなかったが、楽天・林優樹投手を参考にしたフォームがハマり、上半身と下半身が連動したフォームを覚えた。球速こそ120キロほどだったが、高い制球力を武器に、わずか7か月ほどでエースに。そして最後の夏は日本一に輝き、胴上げ投手になった。まさにシンデレラストーリーだ。
チームメイトの支えが2度目の覚醒へ
中京の監督からの勧めで、水は大学準硬式の世界に足を踏み入れることになる。中京の先輩が準硬式に進んでいたため、「存在は知っていた」が、詳しいことは知らなかった。だから初めて準硬式球を手にした時は「重かった」と違和感しかなかった。
苦悩も続いた。初登板となった1年生の秋こそ最優秀防御率を受賞したものの、続く2年生の春は打ち込まれて結果を残せずに壁にぶつかった。やはり活躍するのは簡単ではなく、厳しい現実を突きつけられたが、水は周りに恵まれた。
「チームメイトの池端(航洋)が凄い向上心の持ち主で、色んな情報を収集するんです。それを教えてもらうことが多いんですが、なかでも下半身主導で体重移動することを教わったんです。おかげで指先に100%の力を伝える感覚がわかって、球速が伸びました」
成長のきっかけをつかんだ水。その後の球速帯の変化が以下の通りだ。
2年生春:123キロ
2年生秋:130キロ(+7キロ)
3年生春:133キロ(+10キロ)
4年生春:139キロ(+13キロ)
※()の数字は2年生春から比較
フォーム改善により、課題だった球速を伸ばした水。大学準硬式でもトップ選手の成り上がり、「立てるとは思っていなかった」という甲子園に立つ権利を勝ち取った。
14日の試合に向けて、「140キロを計測したいですし、完璧に抑えたい」と話す。これが実現した時には、「軟式出身でも、大学準硬式で成長して活躍できる」と伝えることが出来るはずだ。
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