今年の高校生を代表する右のスラッガーとして注目される井上 朋也(花咲徳栄)。高校通算50本塁打の長打力、強肩が光る三塁守備とそして俊足ぶりも注目をされている。そんな井上の決意を聞いた。
鮮烈デビューも上で活躍するための土台を磨いた
井上朋也(花咲徳栄)
井上のスタートは華々しいものだった。
1年春の県大会、関東大会でそれぞれの大会でも本塁打を放ち、「スーパー1年生」として評された。
ただ岩井監督は「振れる力」を評価するも、1年春から使うつもりはなかった。もともと花咲徳栄は、3年間で長い時間をかけて育成をして、基本的に上級生主体だ。この春で起用するつもりだった上級生が怪我をしてしまった。
そこで井上を使うことになった。予想以上の結果も出ていてたが、岩井監督は冷静な目で井上を評していた。
「波を打つスイングをしていたんです。当時のスイングのままだとレベルの高い投手に苦しむと思っていました。もちろん当時のスイングでも打てたので、直す必要はなかったと思います。でもこう言いました。『プロで活躍する選手は同じ技術のままでは、活躍ができないから、フォーム、技術などを少しずつ変えていくのは当たり前』と話したら、受け入れて、スイングの軌道を行いました。とにかく癖が強い選手でしたから、時間をかけて修正をしていきました」
そして2学年上の野村 佑希(北海道日本ハム)と一緒に練習する機会もあった。そこで学んだのは、外角打ちの練習とタイミングのとり方だ。
「常に野村さんとは一緒にいて、全体練習が終わって、夕食の後にも夜の練習もあるのですが、野村さんとは一緒に練習をして、打撃のことを学びました。いろいろ教えてもらったんですけど、よく教わったのは外角打ちとタイミングのとり方です」
特に外角打ちとタイミングのとり方を両立するために意識していることとして、「前足を円にかくように踏み込んで打っていきます」と語る。こうして自然に外角打ちができるようになったのは、2年夏。昨夏の埼玉大会の所沢商戦では右中間へ弾丸ライナーで飛び込む本塁打を放つ。
その後、甲子園の前に花咲徳栄の3年生たちに宿舎で取材する機会があったが、口を揃えて、「エグかったです」と語る。
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主将に就任し、心身ともに急成長
井上朋也(花咲徳栄)
甲子園では明石商と対戦し、センバツを狙った関東大会では準々決勝で、山梨学院戦に敗れてしまう。さらなるレベルアップへ向けて、ハンマートレーニングと1.2キロのバットを振り続けてきた。
「自分だけではなく、みんな力がついてきて速球投手からも打てる予感があります」
また、2年冬には主将に就任。岩井監督は「中心選手として人間的にも大きく成長してもらうために主将になってもらいました」と中心選手の自覚を促すために抜擢を決めた。
岩井監督は本当にリーダーシップのある選手に行ってもらうか、それとも技術も、ポテンシャルの高い選手の精神的な成長を促すためにあえてやらせることもある。井上の場合は後者だった。厳しい要求をしながら、日々、成長をしていく井上の姿を見て「だいぶ変わりました」と目を細めていた。
井上については何度も取材をしているが、話す内容や、精悍な顔つきを見ると、だいぶ大人になった印象がある。もともとポテンシャルの高い井上を高いレベルで通用するために時間をかけて心身を鍛えていった岩井監督の方針が実を結んでいた。
成長した手応えを掴んで、センバツに臨もうと思ったが、新型コロナウイルス拡大の影響で、センバツが中止。チームは自主練習となった。その中でも井上は自分の進路を意識しながら、そして夏の大会が開催されることを信じ、練習を続けた。
そして夏の独自大会開催が決まり、井上は一層、練習に力が入った。
「夏の独自大会が開催されることを聞いて、モチベーションも上がりましたし、全体で話し合いながらやっていきました」
練習試合再開も7月以降で、ほとんどの練習試合ができず、実戦勘が取り戻せず、2020年、打った本塁打は3本だけ。その1本として放ったのが、[stadium]鴻巣フラワースタジアム[/stadium]で行われた浦和学院との練習試合で美又 王寿からの本塁打だ。
「この3年間で最もとんだ本塁打でした」と振り返るほどの会心の本塁打だった。そのまま交流試合を突入し、148キロ右腕・川瀬 堅斗と対戦したが、無安打に終わった。
「やはり県(埼玉)の投手と比べても良い投手でした。相手バッテリーも交わしにいっていたので、仕留めきれなかったのは実力不足です」
大会が終わり、3年生から考えていた高卒プロへ向けて、練習を始めた。
この頃から3月から木製バットの対応もつかんできた。現在、井上が使う木製バットは890グラム。金属バットよりも少し軽いのだが、木製バットはヘッドが重い。その重さに負けてしまうスイングになることはあった。岩井監督は「ヘッドをうまく抜く方法」を教えたという。なかなか身につかなかったが、夏が終わってから、徐々に感覚を掴み、今では打撃練習で柵越えを連発するという。実際に取材日でも打撃練習を行ったが、レフトだけではなく、右中間方向にも鋭い打球を飛ばしていた。
ドラフトも近づき、井上のもとには12球団から調査書が届いているという。
プロ入りが実現した時、どんな打者になりたいのかを語ってもらった。
「最終的には3割、30本塁打を打てて、『井上が打てなかったら仕方ない』といわれるような選手になりたいです」
2015年から続いてきた6年連続の高卒プロ入りを実現し、さらには大成功を収められる打者になれるか注目だ。
(記事=河嶋宗一)