こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
季節はめぐり、心地よい気候となってきました。皆さんはどのように過ごしていますか。場所によってはまだまだ自粛を余儀なくされる地域、少しずつ日常生活を取り戻しつつある地域等さまざまですが、学校生活が始まっているところもあることでしょう。まずは感染しないようにリスク管理をしっかり行いつつ、部活動についても再開できる日が早くくることを心待ちにしています。今回は野球選手らしい体つきについて考えてみたいと思います。
野球選手はお尻が大きい?
低い姿勢での構えを繰り返し、股関節周辺部の筋肉が発達する
よくプロ野球選手を見て「お尻周りが大きい、ガッチリしている」といった表現をされることがあります。これは野球の競技特性によるところが大きいと考えます。その理由について3つ挙げてみましょう。
1)地面に足を着いた状態から動き出すことが多い
多くのスポーツが地面に足を着いた状態で動作を行いますが、野球の特徴的な動きである「投げる」「打つ」「走る」といったものも例外ではなく、地面からの床反力を得て、その力を体幹や上肢に伝えることでプレーが成り立ちます。大きなパワーを生み出すためには下半身の筋力が必要となってくるため、お尻周りを始め、下半身の筋力強化を行うと筋肉は太く、大きくなります。
2)片足支持の場面でブレないようにバランスを取る
ピッチングやバッティングなどを考えてみると片足でバランスをとる瞬間が何度もあります。そのとき体がふらつかないように支えるのが、お尻の横側に位置する中臀筋をはじめとする筋肉群です。「股関節に体重をのせる」という言い方をされることがありますが、片足の状態でも重心位置が安定し、力のロスが生まれないように踏ん張ることによって、より安定したパフォーマンスにつなげることができます。
3)低い姿勢で構える時間が多い
特に内野手で顕著ですが、守備機会では腰の位置を落としてボールを下から見るように指導されることが多いと思います。これは腰の位置が高くなってしまうと手前にきたボールの変化についていけず、エラーをしやすくなることや、一歩目の動作で素速く動くために必要な地面の床反力を利用しにくいことなどが考えられます。腰の位置を落とす=お尻の位置が下がった状態でその姿勢をキープするためには下半身やお尻周りの筋肉を鍛える必要があります。
こういったことから野球のパフォーマンスアップにつなげるために、ウエイトトレーニングにおいてスクワットを行ったり、ランジ動作や片足でのスクワットを行い、股関節周辺部の筋力アップをはかります。もちろん技術練習においても必要な動作を反復しているうちにお尻周りの筋肉が発達して、大きくなるのは自然なことと考えられます。
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肩関節の可動域に変化が見られる
図1 立位での肩関節内旋・外旋の測定(2nd ポジション。一般的には外旋90°、内旋70°)
お尻の大きさとともに野球選手に見られる特徴的な体の変化として、肩関節可動域(関節の動く範囲)が挙げられます。肩関節可動域の内旋・外旋を測定するための方法は3つ(1st ポジション、2nd ポジション、3rd ポジション)ありますが、一般的な人と比べ、野球選手は肩関節の内旋可動域が低く、外旋可動域が大きくなる(いわゆる腕がしなる状態)傾向があります(図1)。これは投球動作を繰り返すことによって、腕を常に前に振り出す動作を繰り返すため、肩の後方部にあるローテーターカフ(棘下筋、小円筋など)や関節包などの柔軟性が低下することがその一因として挙げられます。
また投球動作によって上腕の骨頭部が肩の前方に位置する大胸筋や小胸筋などによって引っ張られ、その牽引ストレスによってやや前方に移動してしまうといった変化も見られることがあります。野球の動作を繰り返す中で適応した体の変化ともいえますが、このままの状態で投球を続けると肩の傷害につながることもあるので注意が必要です。
腕のしなりを意識しすぎず、まずは肩関節の内旋可動域を改善させよう
肩関節の可動域を改善させるためには、練習後、入浴後など体の温まっているタイミングでストレッチを入念に行うようにしましょう。特に内旋可動域を改善させるように意識します。ときどき「腕を大きくしならせたい」と外旋可動域を意識してパートナーストレッチを行う選手がいますが、外旋可動域を意識しすぎると上腕骨頭が前方へとシフトし、投球動作のバイオメカニクス(フォームなど)に影響を及ぼすことがあります。内旋可動域が改善してくると、自然と外旋可動域も広がっていきますので内旋可動域の改善から始めていきましょう。
このように野球での反復練習やトレーニングによって、野球選手はその動作が行いやすい体へと変化していきます。中には「お尻が大きくなってジーンズが履けなくなった」という選手もいましたが、今までできなかったプレーができるようになったり、パフォーマンスアップにつながったりするものであるとポジティブにとらえることが大切です。
【野球選手らしい体つき】
●野球選手は「お尻が大きい」と言われることが多い
●地面に足を着いた動作、片足でのバランス維持、低い姿勢での構えなどでお尻の筋肉が発達する
●技術練習の繰り返しやトレーニングによっても筋肉は太く大きくなる
●投球動作によって肩関節の内旋可動域が低下しやすい(外旋は大きくなりやすい)
●腕をしならせるための外旋可動域よりも内旋可動域を優先的に改善しよう
●野球を行うことによって野球選手らしい体つきへと変化する
(文=西村 典子)