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声だけでベンチに入った選手。比護涼真(現・関東学園大)から見える木更津総合の強さ

2020.03.03

 2000年以降の千葉県をリードしてきた木更津総合。夏7回、選抜2回と戦国千葉において圧倒的な強さを見せてきた。そこには五島卓道監督の手練手管な手腕がある。

 五島監督はチーム作りで大事にしていたのは、野球の実力以外でも魅力になるものがあれば、チームの大事な戦力として考えて、ベンチに入れていたことだ。その1人が2018年主将の比護涼真(関東学園大)である。千葉大会、甲子園でも声の大きさが話題になった選手だ。

声だけでベンチに入った選手

声だけでベンチに入った選手。比護涼真(現・関東学園大)から見える木更津総合の強さ | 高校野球ドットコム
優勝旗を受け取る比護涼真

 比護について「まさに声だけでベンチに入った選手ですね。2年生からベンチ入りしていますけど、甲子園4試合で試合に出なかったのはあいつだけじゃないかな」と笑う。

 入学した経緯について青山茂雄部長が詳しく語る。
「比護のお姉さん(奈保子さん)が1年生でレギュラーになり、ソフトボール日本一になったんです。走攻守揃った素晴らしい選手でした。それで、比護の母さんは木更津総合を高く買っていて、ある日、母さんが『先生、弟も木更津総合にいかせたい』といって、実力を見るために彼が所属する中学にいくことになったんです」

 ちなみに比護の姉・奈保子さんは在学時代、1年生で日本一を経験し、東京女子体育時代は日本代表に選ばれ、今年から実業団・シオノギ製薬でプレーするほどの実力者。当然、その姉の弟だから実力者かもしれない。青山部長は横須賀市立常葉中まで見に行った。結果は…不合格だった。

「うちでは厳しい実力だと思い、お母さんに断ったんです。また結構遅い希望で、寮の空きもないと。だけどお母さんが『それならば、通うから!』というんです。そうじゃないよ!と(笑)」

 しかし比護家の熱意に押され、自宅通学という条件で、入部を認める。毎日横須賀市の自宅から通った。帰りは毎度24時前後になったという。それでも比護はめげずに通い続けた。五島監督も「実力は本当に厳しいと思いました」と青山部長と同じ感想を持ったが、他にはない武器を持った選手だと気づいた。それは「声」だ。

「いつも大きな声をしていて、遠いところからでも比護が声を出しているのがすぐに分かる。

 また気が利くし、チームの雰囲気を変えられる選手。必要な選手だなと思い、ベンチに入れることを決めました」

[page_break:比護の魅力]

比護の魅力

声だけでベンチに入った選手。比護涼真(現・関東学園大)から見える木更津総合の強さ | 高校野球ドットコム
校歌を歌う木更津総合ナイン

 まさに「声」だけを評価されて入った選手。これは五島監督は他の強豪校ではベンチ入りしていない選手だと説明する。

「もっと実力主義のチームでしたら入っていない選手でしょう。でもうちは野球の実力以外も大事にしています。チームメイトへの気遣い、また野球以外の部分でチームにとってプラスアルファになるものがあれば、戦力としてベンチに入れるのがうちの方針です。だから今の選手たちに言うんです。『お前ら比護ほど声出していないじゃないですか。私は声をしっかり出していけば、ベンチに入れるよ』と」

 野球に限らず、スポーツの世界は大きな声を出すものだが、その中でも比護の声や内面的なものは五島監督が認めるものだったのだろう。主将としての比護について五島監督は「本当に気が利くし、選手に対しても厳しく言える選手で、指導者としてはありがたい選手だった。だから彼が主将として指標になる」と振り返る。

 2018年の木更津総合は、日本代表入りした野尻幸輝(法政大)、山中稜真(青山学院大)などハイレベルな選手が揃っていた。そういう中で比護のような選手を認めたのは、木更津総合は野球以外の内面的なものを大事にしている表れである。

 卒業後、比護は関東学園大に進むが、ここでも比護らしいエピソードを五島監督が語ってくれた。

「指定校推薦が決まっていたので、野球部にも入部ができます。だからセレクションを受ける必要はないのですが、あいつは受けに行くんです。行く必要はないのに(笑)。そしたら、野球部の監督から入学式の総代だったと思いますが、何か役割を与えられて、お前やれといわれて、『はい!!』といったそうです(笑)」

 比護に限らず、木更津総合の選手たちは人間味あふれた選手が非常に多い。それは五島監督をはじめとしたスタッフたちが選手1人1人の個性を尊重しているからだろう。

 表向きでは野尻、早川隆久(早稲田大)のような主力選手に注目が集まるだろう。だが、その中でチームを支える裏方がいる。その両輪を大事にするチーム作りにより、木更津総合は千葉県でも圧倒的な成績を残すチームとなった。

記事:河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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