Column

札幌龍谷(北海道) 寺西直貴監督の「二つの物差し」【後編】

2020.02.14

 秋に札幌支部予選を制し、昨夏準優勝の札幌国際情報を破り、全道大会でベスト4まで駆け上がった高校がある。その高校こそ寺西直貴監督率いる、札幌龍谷である。

 札幌龍谷の今チームの魅力と、札幌龍谷の今までの歩みを紐解いていきたい。

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札幌龍谷(北海道) 寺西監督就任時は貸しグラウンドを転々と【前編】

2つの「物差し」を操る

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寺西直貴監督(札幌龍谷)

 寺西監督の指導の魅力の1つに「物差し」を巧みに操れることがある。あるときは「物差し」を固定し、あるときは大胆にスケールを変えるのである。

 その一例を紹介したい。

 寺西監督の指導者への第1歩は、北海でのコーチ時代に遡る必要がある。全国レベルのチームの指導を体験したことは、寺西監督にどのような財産をもたらしたのか?

 「部員も120人程いてトップ選手もうじゃうじゃいるんです。このぐらいの技量の連中が集まれば[stadium]甲子園[/stadium]を行く!これなら負けない、負けるとしたら運が悪い時だけ。力では絶対負けない。という物差しですよね。尺度ですよね。それが1年目ではっきり焼き付けました。そして、その裏付けを僕はノートに書いたんです。」

 そう、全国レベルの「物差し」を寺西監督はこの時期に手に入れたのである。

 一方、その「物差し」に対して、もう一つの寺西監督のフレキシブルに変化するもう一つの「物差し」である。個々の選手に対してはそれぞれ別の「物差し」をもち個別に選手と向き合っている。それこそが、苦労を重ねた時代から今までの指導経験の賜である。

 「僕就任した年が30歳になる年でした30より35、そして 37、40と年を追うごとに、こんな僕ですけど蓄積が多少ありますよね。それが一番大きい部分かなと。生徒との接し方とか、問いかけ方、伝え方、叱り方の変化を感じていました。20代はハチャメチャでしたから。引き出しが増えてたその数と選択ですよね。どれをチョイスするか」

 この深みこそが、状況によってスケールを変えることができる「物差し」につながるのである。固定した「物差し」とスケールを伸縮自在に変える「物差し」2つの物差しを絶妙に操れることが、寺西監督の凄さである。そしてこの変化自在の「物差し」は、選手に対してだけでなく、戦略にも現れる。

 それを裏付けする面白いエピソードを1つ紹介したい。

 寺西監督が就任してから20年近く札幌龍谷は大会でスクイズをしたことは1回しかない。そんななか昨秋の支部予選で札幌龍谷はスクイズを5回決行した。

 「戦い方のチェンジですね。打てないからやらないといけない。勇気」

 これは寺西監督の言葉だが、この本質は今までの戦い方にとらわれない、変化自在の「物差し」を持つという点につきる。

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飛び抜けた選手がいなくても勝てる強さ

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本間晴希(札幌龍谷)

 今年の札幌龍谷にはサイドからの好投手、本多駿樹、そして好打者・本間晴希と注目の選手がいる。ただ、しっかりと固定した「物差し」を持つ寺西監督の目から見ると、まだまだ足りない部分があると感じている。

 「足りないところを埋めていく作業ですね」と寺西監督は語る。

 ただ、足りないところを埋める作業だけで、強豪校に追いつけるだろうか?そこに対して寺西監督はもう1つの答えを導いた。

 「足りない部分を埋めるためには、徹底した反復です。それでも(寺西監督の物差しで比べると)まだ差はあります。できる子達が劣っているとことは何かと考えたです。トップ級の選手は何でもできるもんだから安心レベルが高いと思うんです。でも些細な注意力って劣っている子も多いと思うんですよ。何でもできちゃうからからですよね。スキル以外のこうところを軽視してる子が全国的に多いと思うんですよ」

 そう、札幌龍谷は些細な注意力でその差を埋めることにしたのである。

 その些細な注意力は靴紐の縛り方、締め付け具合まで及ぶ。その細かい気遣いで、物差しの差を詰めるのである。

 寺西監督の指導について、チームの主力である本間晴希は、

 「たまには厳しいんですけども、すごくいろんなところに目が配れていて選手1人1人を見てくれていると僕は感じています。細かく指導してくださいますので自分が指導されて大きく変わることができるような存在です。 自分もちょっとのところには気づけるようになりたいです」

 と語るように、明確な「物差し」から足りない部分を徹底的に埋める作業と、そして些細な点に気付ける力の重要性が常に伝えられているのがよく分かる。

 そんな札幌龍谷を象徴するようなプレーが、秋大会で見られた。準決勝で白樺に敗れ試合。前半にアピールプレーをして、札幌龍谷はアウトをとっている。白樺のランナーが一塁ベースを蹴り二塁に向かうときに、一塁ベースを踏み忘れている、つまり空過を札幌龍谷の本間は見逃さなかったのである。ベンチからの指示でもなく、自身で審判にアピールしアウトにしている。この小さな気づきこそ、寺西監督が求めている札幌龍谷の戦い方なのである。

 試合に敗れたが、このワンプレーを寺西監督は高く評価している。突出した選手がいなくても試合に勝つために必要な些細な注意力が発揮されたからだ。これこそが、寺西監督の目指す、札幌龍谷野球なのである。

 再度、本間のコメントに戻りたい。

 「周りに目を配れることがプレーにつながると言われているので、 チームメイトにもそうですし、練習でも周りに目を配るようにしてます」

 そう寺西野球は着実にチームに浸透しているのである。

 北海道の厳しい冬が終わり、春がやってくる。監督の意図を理解した札幌龍谷が冬を超えどのような変化を遂げているのか楽しみにしたい。

(記事=田中 実

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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