Interview

社会人野球を代表するホームランアーチスト・今川優馬(JFE東日本)「監督に打撃スタイルを否定されても、自分の信念は曲げなかった」vol2

2019.12.21

 今や社会人野球を代表するスラッガーへ成長した今川優馬。vol.1ではレギュラー獲得に燃えた東海大四時代のお話をお届けしたが、今回は今川の現在のスタイルを作り上げた大学時代のお話をお届けしたい。そのスタイルも苦労を重ねながら築き上げたものだった。

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社会人野球を代表するホームランアーチスト・今川優馬(JFE東日本)「高校通算は2本塁打。レギュラーを必死に目指した3年間」vol1

2年まではベンチ外。選手としてのタイプを変えたコーチとの出会い

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今川優馬(JFE東日本)

 大学野球で飛躍する。
 そんな希望をもって入学した今川だが、上級生、同級生のレベルの高さに押され、大学2年生まではボールボーイか、スタンドでの応援だった。

 「大学野球もそんなに甘くなくて試合に出られるようになったのは3年の春からでした。それまではボールボーイとスタンドで応援する日々で、自分と思い描いた大学野球とは違うと思いましたね。1年生からすぐにベンチに入って試合に出て、もっと練習しないといけないと必死でしたね」

 また今川は6人兄弟の長男で、両親への負担もかけられないということで飲食店も週3、4回のバイトを入れていた。
 「時間は18時~24時前で、たとえば午前中授業だったら、午後に入れるとか、練習が早く終わった日があれば、入れるとか、土日も夕方以降は時間があったのでバイトを入れていました」

 その土日というのはオフシーズンだけではなく、なんとリーグ戦中も入れていたのだ。
 「だからリーグ戦期間中は打点もお金も稼ぐ二刀流でしたね(笑)」と笑うが、実は東海大札幌キャンパス野球部のバイト活動は認められていない。

 「当時の監督は厳しい方で、バレたら野球部はクビでした。だから飲食店のバイトでは、ホールに出るとばれてしまうので、キッチンで皿洗いをひたすら行うバイトをしていました」

 大学4年になり、ドラフト候補となった今川はメディアにも取り上げられ、バイトしていることも明かされたが、4年秋には監督も変わり、その監督は今川家の経済事情を理解して黙認していたというのが実情なのである。

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正面から見た今川優馬(JFE東日本)のスイング

 そういう生活を抜け出すためにも、プロに行きたいと思っていた今川は打撃スタイルをホームラン志向に変えた。それは同大学OBの岩原旬コーチ(札幌ホーネッツコーチ)のアドバイスからだった。

 「コーチの方がしっかりと振ろうという考えの方でした。ヒットを狙うのではなくて、ホームランを狙って、その打ち損じがヒットというスタイルを目指せと多くの選手にいっていて、バットの軌道も少し下に入れたほうが、確率が上がるし、長打も増えるぞとアドバイスをいただきました。初めて聞くようなことばかり、最初は何をいっているんだ、この人と思いましたね」

 今までの教えは左脇を締めて、インパクトまで最短距離で振るというもの。コーチの指導は脇を開けていいものだった。今川はその教えを疑っていたが、コーチの考えを聞くと、なるほどと思い、取り組んでいく。

 「直接聞きに行ったり、マンツーマンで教えてもらいホームランバッターではなかったんですけど、ホームランを打ち始めて、打撃が面白くなってきたんですよね。これはこの打撃を続けてみる価値があるかなと」

 コーチの話を聞いたり、ミゲル・カブレラの動画を見て打撃フォームを修正し、大学2年までオープン戦を含めてホームラン1本しか打たなかったが、徐々にホームランを打てるようになり、レギュラーを獲得した。


全国の舞台で自分の打撃スタイルを発揮!しかしラストシーズンでは..

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横から見た今川優馬(JFE東日本)のスイング

 さらに2017年の大学選手権の東洋大戦ではエース・飯田晴海(現・日本製鉄鹿島)から本塁打を放ち、順調にステップアップしたかに見えたが、実は全国デビューするまでには監督との衝突があった。

 「当時の監督からずっと『その打ち方では全国の舞台では打てない』といわれたんですよね。それでも自分は打撃スタイルは変えたくないと思っていたんですが、試合にも出してもらえなかったですよね。一軍に上がるには二軍戦で打てば使ってもらう機会がありますが、二軍戦で打っても一軍に上がれなかった」

 そういう扱いをされても、打撃スタイルを変えるつもりはなかった。最終目標がプロ入りだったからだ。
 「自分の信念を曲げて、打撃スタイルも変えて試合に出たいかといわれれば、僕もプロを目指していたので、先はないなと思っていました。絶対に貫きたいと思って監督のところに直談判しにいったんです」

 両親には「野球部をやめるかも」と話し、両親からは「そうだよな、納得しないよな。自分の言いたいことを言ってこい」と後押しされて、監督に話をした。

 「そこからいろいろ話すようになりました。僕は監督に『今の打撃スタイルで結果を残す自信があります。試合に出させてください』と話しをして、出してもらうようになり、リーグ戦でも結果を残していきました」

 だからこそドラフト候補として注目された東洋大の飯田から打った本塁打は格別だった。さらに4強入りし、全国4試合で12打数4安打2打点と結果を残したのだった。

 「全国で打てないといわれたので、ホームランを打った時は『どうだ!みたか!』という気持ちでしたね」

 こうして今川は大学3年時に大学選手権・春秋のリーグ戦合わせて4本塁打。高校3年間でたった2本しか打たなかった男が1年間で木製バットで4本も打ったのだ。まさに大化けといっていい進化だった。


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今川優馬(JFE東日本)

 大学4年は勝負の年と位置づけ、春のリーグ戦では5本塁打とさらに成長。再び全国の舞台に臨んだ。プロ入りのためには大事な大会。しかし、チームの不祥事が発覚し、出場を辞退することになるのだ。いきなりアピールの機会が失われたことに、今川含め4年生レギュラーは頭が真っ白になった。

 「何も考えられなかったですし、何も考えたくなかったですね。地方リーグの選手にとって全国大会は重要で、いくら地方で打ってもあまり評価されないんです。だから全国で活躍したい思いは僕だけではなく、他の4年生もそうでした。しかし起こったことは仕方ないですし、取り返しがつかないので、4年秋に頑張ろうと思いました」

 4年秋はリーグ戦で4本塁打を放ち、アピールできることはアピールした。しかし結果は報われず、指名漏れとなった。今川は悔しさを感じながらも、今の実力不足を受け止めていた。

 「自分の中で自信はあったほうなんですけど、守備、走塁含めて全体的に足りなかったと思いますし、素直に受け取れたと思います。悔しい1年になりましたね」

 進路をプロ1本に決めていた今川は、他の道で続けることを決めた直後に、JFE東日本側から誘いがあり、練習会に参加。そして即採用が決まった。

 「JFE東日本の落合監督が東海大出身で、そのつながりで呼んでいただき、決まりました」

 そして今川は落合監督に「今の打撃スタイルは変えません」と伝えた。落合監督の答えはOKだった。
 「落合監督は最初から分かってくれていて、『お前は好きなようにやって 結果を出してくれればそれでいい』といわれて すごくうれしかったですね。僕の偏見なんですけど、社会人野球はいろいろ強制されたりするイメージを持っていました。そうではなく、伸び伸びと自由に個性を尊重してくれるので、本当に良いチームは入れたと本当に感謝しています」

 自分の個性を尊重するチームには入れた今川はJFE東日本から新人離れした活躍を見せることになる。

 vol.2はここまで。vol.3はいよいよJFE東日本での活躍にスポットを当てていきながら、ドラフトイヤーとなる2020年に対する思いを伺っていきます。vol.3もお楽しみに!(vol.3を読む)

(取材=河嶋 宗一

関連記事
◆連載 2020年インタビュー
vol.1を読む⇒社会人野球を代表するホームランアーチスト・今川優馬(JFE東日本)「高校通算は2本塁打。レギュラーを必死に目指した3年間」
社会人野球ベストナインが決定!初受賞のスラッガー・今川優馬(JFE東日本)「来年は打撃タイトルを独占したい」

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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