「どんな場面も0点に」NPB最速160キロ左腕の原点 エドウィン・エスコバー(横浜DeNAベイスターズ)
「男は黙って投げるだけ」
8月3日の読売ジャイアンツとの試合後、ヒーローインタビューのお立ち台に上がった男の一言に、横浜スタジアムのファンは熱狂した。同点に追いつかれた8回表、なおも無死二塁と逆転のピンチでマウンドに上がり、見事に中軸を抑え込み、その裏の勝ち越しにつなげた試合だった。
NPB最速160キロ左腕として、優勝争いを繰り広げる横浜DeNAベイスターズのブルペンを支える、エドウィン・エスコバー投手の快速球の原点に迫った。
160キロの原点となった砂浜ランニング
笑顔のエドウィン・エスコバー(横浜DeNAベイスターズ)
父のホセ氏を始め、一族から多くのメジャーリーガーを輩出しているベネズエラの野球エリートの家庭に生まれたエスコバー。一族の中には昨年メジャーデビューを飾り、ナ・リーグ新人王にも輝いたロナルド・アクーニャJr.もいるというのだから驚きである。
そんな野球一家で育ったエスコバーは、当然のように野球を始め、17歳だった2009年にマイナーからプロのキャリアをスタートさせた。やはり当時から球は速かったのだろうか。
「プロに入る前、小さいころはスピードガンがなかったので正確なスピードはわかりませんが、プロに入ってから速くなりました。プロ入りした頃は91,92マイル(146~148キロ)くらいで、150キロは出ていなかったですね。
メジャーで投げていたころは94,95マイル(151~153キロ)くらいでしたが、ここ数年でそれが安定して出るようになりました。さらに去年くらいから155キロ以上が出るようになり、今年に入ってからさらに速くなって、MAX160キロが出るようになりましたね。」
今でこそ圧倒的な速球で並みいる打者たちをねじ伏せているエスコバーだが、その基礎を作り上げたものとは何だったのだろうか。
「僕は高校生の年代の頃は、ランニングを一番多く行っていました。海が近い街に住んでいたので、砂浜を走っていましたね。短距離・長距離両方です。
まずは5分間ほどアップで軽く走って、ダッシュや、アジリティ(瞬発)系のトレーニングをやるんです。タイヤを引っ張るトレーニングもしましたね。あとは、ウェイトトレーニングをやっていました。これらのトレーニングで下半身が鍛えられました。
もし今、その年代に戻れるとしたら同じトレーニングをすると思いますし、日本の高校球児のみなさんにもオススメしたいです。近くに海や砂浜がない場合は、階段ダッシュが良いと思います。僕はこの球場(横浜スタジアム)の階段をダッシュするのが好きで、よく走っています。下半身強化につながりますので。」
横浜スタジアムの階段を走る…といえば、浮かんでくるのは「ハマの番長」こと三浦大輔投手コーチだろう。現役時代はとにかくランニングをしている映像を目にすることが多かった投手だ。タイプが違う投手ではあるが、往年の名投手と、NPB最速左腕が取り入れているトレーニングだけに説得力がある。
「速い球を投げるためには、メンタル面ではとにかく速い球を投げたいという気持ちが大事。テクニカル面では、自分の身体に合ったフォームで投げ、腕をしっかり振ることです。
やっぱり人によってフォームが合う、合わないはあります。しかし、その人に合ったフォームというのが必ずあるので、自分に一番合ったフォームを探すことが大事ですね。」
プレッシャーを意識し過ぎず、一球一球に集中する
エドウィン・エスコバー(横浜DeNAベイスターズ)
今季は登板数もさることながら(9/11終了時点でセ・リーグトップの68試合)、勝っている場面、同点の場面、ピンチの場面と、場所を問わずに投げているエスコバー。準備も難しいだろうが、自身はどう感じているのだろうか。
「どんなシチュエーションでも、勝っていても、同点でも、負けていても、同じように準備することが大事だと思いますし、どの場面でも行けるように準備しています。
どんな場面でも自分は同じ責任を持って、0点に抑えるという気持ちを持ってマウンドに上がっていますし、チームから行けと言われたところで行くという気持ちでいます。また、腕を振って抑えるという気持ちで準備しています。」
ピンチの場面での登板が多いエスコバーだが、どんなことを意識しているのだろうか。「ピンチの場面ではどうしてもプレッシャーを感じてしまうと思いますが、それをあまり意識せずにやれるかが大事です。あとは一球一球に集中して、打ち取ることに専念する」。
ピンチであることを意識し過ぎず、目の前のタスクに集中する。このあたりに、プレッシャーに打ち勝つためのヒントがあるのかもしれない。
取材日にはちょうど夏の甲子園が行われていたが、エスコバー自身も日本の高校野球はよく観ていると話す。
「高校野球を観ていて思うのは、プロ野球と同じような熱さというか、勝負に徹している印象がありますね。初回から、ランナーが出たらバントで進めたりして、1点を大事にしていますよね。プロ野球と同じような雰囲気でやっているように感じます。
高校球児のみなさんには、栄養管理と、ランニングにウェイトトレーニングをすることを心掛けてほしいですね。僕は食事からタンパク質が多いものを摂ることを心掛けています。ごはんと一緒に、お肉など、バランスよく食べることです。
ウェイトトレーニングでは、下半身や両脚、体幹のトレーニングが大事です。また、遠投をすることも大切ですし、細かいことを言うと、チューブトレーニングなどで腕周りの筋肉を鍛えることが、速い球を投げるには大事なことです。
僕からのメッセージとしては、これらのことを意識して、毎日毎日、練習に励んでいってもらいたいですね。」
最後に高校球児へのメッセージを残し、インタビューを終えたエスコバー。その顔にはマウンド上で見せる凛々しい表情とは違った、柔和な笑みを浮かべていた。
インタビュー当日の夜。横浜DeNAベイスターズは広島東洋カープに2対4で敗れ、7月9日から守ってきた2位の座を明け渡してしまった(9/11現在は2位)。この試合でも、2点ビハインドの8回から登板したエスコバー。
「どんな場面でも0点に」という言葉通り、2回無失点、2奪三振に抑えてみせた。
(記事=林龍也)