Column

手術件数年間200件、「球数制限はせざるを得ない状況になっている」古島弘三医師 インタビューVol.1

2019.08.13

 今年から球数制限が盛んに叫ばれる年となっている。日本高野連は有識者会議を開催し、議論を行った。ここで球数制限についてどうしても聞きたい方がいる。それが古島 弘三医師だ。古島氏は慶友整形外科病院でスポーツ医学センター長を務め、小学校からプロ野球までの投手のスポーツ障害の治療、手術を担当している。現在、多くのメディアから注目されている古島医師の球数制限論についてお話を伺った。

 まず古島氏は球数制限賛成派の方である。なぜしなければならないのか。その理由はスポーツ医学に基づいた意見で、耳を傾けなければならないものがある。指導者、選手の皆様は真摯に耳を傾けてほしい。

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「球数制限の前に良い投球フォーム」という声に古島医師の見解は? インタビューVol.2


「大会前の追い込み練習はマイナスでしかない」古島弘三医師 インタビューVol.3

松坂、吉田は例外中の例外だと思ってほしい

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古島医師

―― まず先生に伺いしたいのは、野球関連ですと、年間何人くらいの手術を請け負っているのでしょうか?

古島医師(以下 古島) 年間200人くらいでしょうか。以前はもっと多かったです。トミージョン手術だけで年間100件くらいいく年もありました。今は保存治療で柔軟性の強化、投球フォームの修正、必要な部位の筋力強化などでリハビリテーションによって復帰ができるようになってきており手術をしない事も多くなりました。以前と比べてリハビリが進化してきたので、昔と比べたら手術の件数は半分以下になりました。

――なるほど衝撃的な件数で驚きました…。そうなると、今も故障や怪我に悩んで先生に連絡を取る選手は多いんですか。

古島 そうですね、まだまだかなりいます。吉田(輝星)選手のように、短い期間に多くの球数を投げても故障しないケースは何万人に一人ですからね。
 その陰で世間的には見えないところで肘や肩を壊して挫折した、野球を諦めた選手はいっぱいいるわけです。皆さん、それを知らないだけなんです。

――では、吉田選手や松坂大輔選手は例外中の例外だと?

古島 そうです。毎年一人で投げ抜いてこれる選手がたくさんいるわけではないですからね。ただ問題はそれを見本として、球数制限がなくてもいいという考えの人がおります。でもその人たちは医療現場のことは何も知らないんです。

――確かに、プロ、アマチュア限らず、生き残った人をお手本にする傾向があります。またそこで偉大な実績を残した方の意見は強くなるし、影響力も大きい。

古島 そうです。だから吉田(輝星)くんをお手本にしてはダメなわけですよ。
 肘肩の故障でベンチすら入れなかった、大会に出たけど痛みを我慢しながらやった、痛くて最後はパフォーマンスを上げられなくて負けた、こういう選手を含めたら全国で千人単位でいると思います。

――実際に記事などで選手達が手術をしているというのを見ると本当に深刻なんだなと感じます。

古島 それは本当に変えなきゃいけない。好きな野球を続けるために手術しなければならなくなってしまうわけですから。いったい誰が悪いのかと。

[page_break:なぜ球数制限はしないといけないのか?]

なぜ球数制限はしないといけないのか?

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古島医師

――今年は有識者会議が行われたりもしていますけど、本当に制限はかけるべきだと言われていますよね。

古島 本当は今更賛成か、反対かという次元ではないんです。もう球数制限をかけざるを得ない状況まで来てしまったという事です。
 本当は指導者が選手の肩肘を守る、健康を守る立場にいるわけですが、そういう人たちが選手に無理をさせて怪我をさせている。
 そもそも指導者がおかれている立場を良識的に理解していれば、球数制限というルールを作る必要はないんです。しかし方向性がまず「勝つために」という方に傾いているから、「一人の選手と心中する」とか、「この選手が投げなきゃ勝てない」とか言って一人の選手の負担を重くするのでその選手が壊れるわけです。

 そういう考え方を多くの指導者が持っているので、投球制限のルールを作らざるを得ないわけです。

――しかし反対意見もたくさんありますよね。「選手の心情を考えたら…」とか。

古島 選手の心情はもちろん大事です。でもケガをしてしまったら将来後悔します。その責任を指導者は背負えるのでしょうか?ケガしていなかったらプロに行けたかもしれないという選手は山ほどいるのではないでしょうか!?そういう前に指導者が自分の立場を理解して変わって欲しいと思いますね。もしこの選手が怪我したら、この選手の将来はどうなるのか、誰の責任なのかという事になるわけですから。いつ選手の肘肩に痛みが出るかわからないのです。痛みがでたら休めばいいではダメなんです。痛みは下手すれば繰り返すんです。

――反対意見の中には、「球数制限というのはプロに行くようなレベルの選手だけの事を考えたルールであって、全ての高校球児の事を思って考えたルールではない」というような意見もあります。

古島 そういう言い訳もでるでしょうね。なぜそういう意見が出るといえば、皆、勝つためにやってるから。選手たちが勝ちたいと思うのは全然いいです。でも周りの大人がそこにこだわりすぎてはダメなんです。プロになりたいと思って野球している選手はたくさんいます。高校生まで芽が出なかったけれど大学生で急成長してプロに入った選手がたくさんいます。そもそも、小学生はどの子もプロ野球選手になりたいとあこがれていますが、その夢を早くからあきらめさせていっているのが今の野球界の現状です。
 考え方がそもそも変な方向にいっています。

 いかがだろうか。年間野球選手に200人手術というのは、古島医師の執刀数であり、全国の病院、医療センターを含めればもっと多い人数となるだろう。それだけアマチュア、プロの投手たちはスポーツ障害を負っていることを認識しなければならない。認識したうえで球数制限の議論をするべきではないだろうか。
 引き続き古島医師のお話を伺い、球数制限をしなければならない具体的な理由を語ってもらった。

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「球数制限の前に良い投球フォーム」という声に古島医師の見解は? インタビューVol.2


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取材=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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