一球の怖さを思い知り逆襲を期す「福岡の横綱」 九州国際大付(福岡)
2014年から3年連続で夏の甲子園に出場するなど、福岡県の高校野球を牽引し続けている九州国際大付。昨年は2年生エースだった下村海翔を中心に、春季九州地区大会で優勝を果たし、その力は健在であることを全国に示した。
だが優勝候補と言われる中で迎えた、第100回選手権北福岡大会と秋季九州地区大会はいずれも敗退し、2016年の夏以降は甲子園の地に届いていない。
今回は、九州国際大付の楠城徹監督と主力選手の話を交えながら、第100回選手権北福岡大会と秋季九州地区大会の敗因、そして夏に向けた課題に迫っていく。
2018年に味わった二つの敗北
九州国際大付野球部
新チームは、屈辱的な敗退からのスタートとなった。
第100回選手権北福岡大会2回戦で、九州国際大付は若松と対戦した。4対0と優位に試合を進めていたが、最終回に若松打線に捕まりまさかの5失点。土壇場で逆転を許した九州国際大付は、そのまま4対5で敗れ、早すぎる夏の終わりを迎えたのだった。
「自分が最後のバッターとなりましたが、あの試合は完全に雰囲気に飲まれました。
あの試合に出場していたのは、下村(海翔)と葛城(陸)と自分の3人で、試合に出場し自分たちが一番悔しさを分かっています。新チームでは、その悔しさをチーム全体で話して、あの負けを忘れないようにしてます」
そう語るのは、主将を任される中川壱生だ。夏大会の敗因は他でもなく、油断があったことにある。中川は新チーム結成当初から、秋の大会では、どんな相手でも一生懸命にプレーをすることをナインに伝え続けてきた。
また元プロ野球選手であり、西武ライオンズのスカウトや編成部長としての経験も持つ、楠城徹監督も痛感させられるポイントが多くあったと話す。
主将の中川壱生
「立ち上がりや最後の締め、9回に最後の一つのアウトを取る難しさを痛感しました。多くの方がわかっていることと思いますが、自分の中では再確認させられ、選手たちもそのことを実感したと思います」
「野球の怖さ」を十分すぎる程に味わった九州国際大付だが、そんな中で迎えた秋季大会では、今度は「一球の怖さ」を痛感されられる。
秋季福岡県大会を2位で通過した九州国際大付は、秋季九州地区大会の1回戦で宮崎代表の日章学園と対戦した。
2対2の同点で迎えた2回裏、九州国際大付は二死から失策で出塁を許すと、それを皮切りに連打を浴びて4点を奪われた。その後の追い上げも届かず、九州国際大付はまたしても有力と目される中で敗退を喫したのだった。
チームの主砲である葛城陸も、秋季大会の敗退を振り返って唇を噛みしめる。
「一つのエラーから大量失点に繋がってしまって、そのミスをみんなでカバーし合うことも出来ませんでした。一つのミスに対する怖さを痛感しました」
打撃の「原点」を携えて春季大会へ臨む
バット使ったトレーニングを行う九州国際大付の選手たち
2018年に経験した、二つの大きな敗戦を踏まえて、楠城監督は「打つ気」と「一球の大事さ」の二つをより強く指導していきたいと強く語る。そして楠城監督は、この二つをバッティングの「原点」と表現する。
「原点とは、打つ気構えであったり、一球を大事に見逃さないで打つという、打席に立つ前の『心』の部分です。バッティングの原点で、もう一つ足りていないと感じています」
また楠城監督のこうした話を受けて、チーム内でも「戦う気持ち」の部分で議論を交わすことが多くなったと主将の中川は語る。
「チャンスをピンチと思ってしまっている選手がいたと思います。夜にミーティングもするのですが、2年生(新3年生)はもう夏しかチャンスは無いから、1日悔いが無いようにとミーティングで毎日言うようにしています」
フリーバッティングを行う九州国際大付の選手たち
ここ10年間で、6度の甲子園出場を誇る「福岡の横綱」は今、苦しみの中にいる。春季大会開幕まで早くも2週間を切っているが、主将の中川は最後の夏に向けて並々ならぬ思いを秘める。
「自分たちは甲子園を逃して、周りの方の期待に答えることができていません。今の段階からしっかり追い込んで、夏に甲子園に行くためだけに毎日やっていきたいと思います」
その思いは、チームを率いる楠城監督も変わらない。最近2年間は夏の甲子園を逃しているだけに、2年間の敗因を振り返りながら夏の戦いを見据える。
「どんなピッチャーと、どんなチームと対戦しても、自分たちの力を発揮できるような質の高い練習をしていかないと、取りこぼしが出ると思っています。そのことは、この2年間で痛いほど味わいましたから。その辺の課題を、選手も我々スタッフも明確にしてやっていきたいなと思います」
チーム全体が、戦う集団へ変貌を遂げつつある九州国際大付。とまずは春季大会でその真価を見せる。
(文・栗崎祐太朗)