東京代表の軌跡!キューバ遠征を人生のプラスに!
東京代表は12月15日から日本を発ち、25日までキューバで遠征を行う。スケジュールを詳しく説明すると、現地時間の15日深夜のハバナに到着し、16日は練習とレセプション。17日から5日間連続で試合を行い、その後、ハバナ市内の自由見学が予定されており、試合を戦うだけではなく、キューバの文化を見聞する機会も設けられている。
その遠征が実現するまでの成り立ち、代表発足からここまでの軌跡、選手起用、選手たちの意気込みを紹介していきたい。
キューバ遠征の成り立ち
武井克時 理事長
まずこの遠征は長い時間をかけて行われてきた。武井克時・東京都高野連理事長によると、日本野球協会の前理事長の柴田 穣氏からキューバの実態を聞いたのが始まりだった。その後、武井理事長は柴田氏を通じていろいろな関係者と交流しながらこの事業計画を進めていき、前年、キューバを視察したところ、日本でいえば昭和のような風景が広がっていたという。物資も豊かで、通信機能も発達している現代の日本とは全く違っていた。
武井理事長は高校球児たちに、野球が国技といわれるハイレベルなキューバ野球に触れるだけではなく、日本にはないキューバの文化を見ることで、自身の感性を高めてほしいというのが願いであり、今回のキューバ遠征のコンセプトである。
また2018年は日本人がキューバに移住して120周年。その国家記念事業の一環として、スポーツ庁から正式な認可をいただいて実現しているのだ。
理事長の願いは選手たちにも届いている。主将の生沼弥真人(早稲田実業)はこう語った。
「キューバは日本の高校球児ではなかなか行けないところだと思いますし、キューバと対戦することはめったにないことです。良い経験にしたい」
ちなみに来年まで今の高校1、2年生でキューバと唯一対戦できるのは東京代表のみ。来年の世界U-18ワールドカップの出場権を争うパンアメリカン選手権でキューバは出場条件となる4位以内に入ることができず、出場が途絶えている。
貴重な機会に恵まれた東京代表は実りあるものにしたい。
[page_break:チームを1つに 打線は速球投手の対応が課題]チームを1つに 打線は速球投手の対応が課題
前田 三夫 監督
さて、今回の東京代表がほかの代表と違うのは、セレクションを経て選出したということ。まず今年の5月26日に代表スタッフが発表され、都大会決勝後、代表選手のセレクションを[stadium]ダイワハウススタジアム八王子[/stadium]で行った。前田三夫代表監督は「公平を期するために、同じやり方で選出することになりました。みんなで見て、みんなで選ぼうと思ったんです」と話す。
セレクションには約100名近くの選手が参加し、それぞれの選手がアピール。選考の末、20名の選手が選ばれた。11月23日、初練習となったこの日、前田監督は選手を集めてこう告げた。
「みんな違う環境でやってきたからどうしても違う方向に行きやすい。これは日本代表を経験しているとそうなりやすい傾向がある。だけどそういうのは辞めよう。これからは同じチームなのだから、一緒に行動をしていこう」
チームが1つになることを求めたのだ。実際に選手たちを見ると、1つに動く様子が見えたし、食事会、壮行式の様子を見ても非常に真面目。試合中、ベンチの様子を見ても活気があり、前田監督は「1つになってきた」と手応えを実感している。
左から、小山 翔暉、野村 昇太郎、成瀬 脩人
選手起用はどのポジションが一番適正なのかを考えてきた。例えば打順。実戦形式の練習、練習試合を重ねた結果、1番小山 翔暉(東海大菅生)、2番野村 昇太郎(二松学舎大附)、成瀬 脩人(東海大菅生)の並びである。彼らはコンタクト力が高く脚力が高い。この3人でチャンスを作り、得点をもぎ取る場面もあり、前田監督は「これはハマったね」と手応えを感じていた。
打撃陣の一番の課題は「木製バットへの対応」。これについては各選手が工夫を凝らしながら対応をしている。主将の生沼は「僕は打ちに行く時、ヘッドを入れて打ちに行くのですが、木製は金属に比べてヘッドが重くてしなるので、振り遅れのファールが多かったんです」と語る。
生沼はヘッドを入れながら、インパクトで強く押し込む右打者。ライト方向へ鋭い打球が打てるのが強みだが、逆に木製バットだとそれができなかった。そこで生沼はヘッドを速く回すように心がけた。今では練習でスタンドインできるまでの長打力が身についた。
ただ生沼に限らず、課題にしているのは「速球投手への対応」だ。日本大学戦では最速150キロ・赤星優志など好投手を打ち崩せず完封負け。本番まで状態を仕上げられるかがカギとなる。
[page_break:投手陣の柱は中村と井上!]投手陣の柱は中村と井上!
中村 晃太朗 井上 広輝
そして投手陣の起用法についてはまだ流動的だが、先発の柱となっているのが中村晃太朗(東海大菅生)。二松学舎大附戦では、2回5奪三振の快投。日本大学戦では5回一死まで無安打のピッチング。日本大学戦はオール1年生とはいえ、津原瑠斗(日大三)、峯村貴希(木更津総合)とリーグ戦にも試合出場している選手が多かった。そういう相手を抑えたことはポイントが高い。自信をつけた中村はキューバ相手にも力を発揮することは間違いない。
またクローザー役として期待されているのは井上広輝(日大三)だ。マウンドに上がれば、常時140キロ~145キロ前後の速球を投げ込む。前田監督は長いイニングを投げさせたい意向はあるが、将来性がある投手。井上の起用法を総合コーチを務めている小倉全由監督(日大三)と相談の上、練習試合では1イニング限定。そしてクローザーとして起用することを決めた。
夏の甲子園後、肘の状態が上がらず、自チームでも慎重な起用が続いた井上。12月でも最高気温が25度前後を記録するキューバの気候は井上にとって追い風となるだろう。さらに全試合、デーゲームが予定されており、良いコンディションの元、井上の潜在能力を発揮できれば…。見応え抜群のピッチングを見せてくれるに違いない。
投手陣の仕上がりは全体的に順調。イニング途中のリリーフをこなす伊藤大征(早稲田実業)、脱力ができて球持ちが良いフォームから最速139キロの速球を投げ込む左腕・細野晴希(東亜学園)、常時140キロ台の速球を投げ込む谷 幸之助(関東一)などそれぞれが持ち味を発揮している。
キューバ遠征をプラスに変えたい
選手たちはキューバから何を感じて帰ってくるのか?
最後にこのキューバを自分の野球人生にとってプラスに変えたいと思う選手が多くいる。井上は兄・井上大成(青山学院大)が侍ジャパンU-18代表を経験しており、「自分も兄に続いて日本代表となって世界大会を戦いたい。だからキューバ相手にどこまで自分のピッチングが通用するのか、楽しみです」と、目標の日本代表選出へ向けて燃えている。また谷は米澤監督(関東一)から「何かを感じて帰ってこい」とチームに還元することを期待されている。谷自身、秋は思うようなピッチングができなかった。自分を変えるつもりでこのキューバに臨んでいる。
多くの選手に話を聞くと、レベルが高い選手と一緒にプレーができて楽しく、いろいろ学びたいという声が多かった。
キューバの文化・生活は日本のそれとは大きく異なる。多感な高校球児はキューバの地を踏むことで、いろいろ感じることがあるはず。改めてキューバを経験して選手たちはどんな感想を持つのか、発信していきたい。
(文=河嶋 宗一)