日本一の下克上が起こった三重の夏を振り返る

白山の選手たち

　今大会の甲子園出場校の中で、「日本一の下克上を果たした」と言われたのが三重大会の三重白山だった。1960（昭和35）年に創部し、過去の最高成績は79年のベスト8。夏の大会は07年以来10年連続で初戦敗退を継続している、いわば弱小校であり高校野球でいえば無名校である。13年に上野から異動した東拓司監督が就任した時は部員が5人しかおらず、グラウンドも荒れ放題という状況だったという。そんな中から、東監督が選手勧誘も含めて徹底して取り組んでいった中で少しずつ力をつけ始めていったということである。だから、「今年の三重白山は連敗記録をストップできそう」なくらいの期待の声は上がっていたようだ。

　そして、大会初戦は四日市南に10対3というスコアで、まさかのコールド勝ちとなった。さらに、2回戦では東監督の前任校上野にコールド勝ち。三重白山がこうしてチームとしては歓喜の2勝を挙げている間に、大会は本命視されていた春のセンバツ4強の三重が松阪商に初戦敗退。昨夏の代表校で今春も県大会を制した津田学園も四日市に敗退。

　さらに3回戦では三重白山が最速150キロの豪腕田中法彦君を擁する強豪の菰野に4対3で競り勝ち、下剋上の始まりとなった。「ここから先はすべて自分たちよりも上」という意識で戦った三重白山は準々決勝では暁に4対3でサヨナラ勝ち。準決勝でも海星に終盤追い上げられながらも6対5。その間に、本命とも目されていた東海地区大会準優勝のいなべ総合が松阪商に1対8の8回コールドで敗れている。

　さらに決勝では三重白山が、強豪をなぎ倒してきた松阪商に対して5回に大量6点を奪って試合を有利に運び、「甲子園なんて、想像すらしていなかった」ことだったのが現実のものとした。ほとんどの、甲子園出場を目指す野球部では当たり前に保有しているバッティングマシンもないという中での甲子園出場。

　この三重白山の躍進は、間違いなく県内の多くの学校にとっては、励みになったはずである。

文＝手束仁