試合レポート

大阪桐蔭vs作新学院

2018.08.06

エースとしての役割を果たした柿木蓮が1失点完投勝利!

大阪桐蔭vs作新学院 | 高校野球ドットコム

 スコアは3対1、試合時間が2時間1分。試合を見ていない人なら単調で盛り上がりに欠ける試合展開を想像されると思うが、実は中身がぎっしり詰まったベストゲームだった。

 作新学院は先発の高山陽成(3年)が1点を先制された2回限りで降板、2番手に左腕技巧派の佐取達也(3年)がマウンドに上がったが、この佐取がストレートの球速が130キロに満たないながら、左右各打者の内角を積極的に攻め、5回を2安打1死球無失点に抑えてしまった。球は遅くても、前肩の開きが遅く、ボールの出所が見えにくいフォームから緩急で散らされ、さらに勝負どころで内角を攻められたら、大阪桐蔭の強力打線でも攻略は難しいということだろう。

 僅差の勝負を決めたのはこの佐取が登板する直前の2回裏だった。先頭打者の5番根尾昂(3年)が1-1からの3球目、99キロのスローカーブをキャッチャー寄りで捉えると、打球は三塁線を破りレフトへ転々とし、根尾は俊足を飛ばして三塁を陥れ、このときの三塁到達タイムが今年、私が計測した中では4番目に速い11.19秒だった。この根尾を7番大阪桐蔭山田健太(3年)の犠牲フライで返し、この1点を大阪桐蔭の先発、柿木蓮(3年)がよく守った。

 柿木は下級生のときからよく見てきたが、私にとってはこの日が一番よく見えた。これまでの柿木がどうだったかというと、堂々とした体格と投球フォームには心が惹かれるものの、ストレートの球速が物足りなかった。この肉体的スケールなら140キロ台中盤から後半は出さなければおかしいのに140キロ台前半、あるいは130キロの中盤から後半が多く、そのスピード不足が自信を喪失したような態度によく反映されていた。

 それがこの日は1回から140キロ台中盤を計測し、その速さが最後まで衰えなかった。もちろんピッチャーの価値は速さだけではない。直曲球のキレやコントロールが最も大事だが、この日の柿木は徹底して緩急を低めに集め、それが見事にコントロールされていた。

 北大阪大会ではポイントとなる準々決勝の金光大阪戦、準決勝の履正社戦に先発したのは根尾で、柿木は背番号「1」を付けているが、実質的なエースが根尾だということは起用法を見れば一目瞭然だった。それがこの甲子園大会では勝負どころの初戦、強豪の作新学院戦の先発を任されたのは柿木だった。その起用法に応えようという気持ちはストレートの速さや低めを突く辛抱強い姿に現れていたと言っていい。

 この接戦を決したのは8回裏である。先頭の1番宮崎仁斗(3年)が四球で歩き、2番がバントで送って1死二塁としたあと、2死後に打席に入った4番藤原恭大(3年)が鋭く捉えた打球はライト前に飛び、これを右翼手が後逸する間に二塁走者に続いて打者走者の藤原も生還して、勝負を決する3点目が入った。

 このベース1周は残念ながら藤原が一塁ベースに達したところでストップボタンを押してしまったので計測できなかったが、隣の友人が計測したところによると14.70秒だった。前日の慶応対中越戦でもエラー絡みのベース1周が見られ(中越広瀬航大・1年)、このときのタイムは16.06秒。タイム差1.36秒はいかに藤原の足が驚異的かという証拠である。

 ストップウォッチの数値をもう少し紹介しよう。藤原のベース1周のあとに打席に立った根尾が今度は左中間に二塁打を放ち、このときの二塁到達は7.61秒。また、藤原は6回裏に二盗を決め、このときの二盗に要したタイムは3.28秒。まだある。キャッチャー、小泉の二盗を阻止する二塁スローイングはイニング間の最速が1.87秒だった。どれも見事なタイムばかりで、3対1というスコアを忘れてしまいそうだ。

 

(記事=小関順二

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.13

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在29地区が決定、愛媛の第1シードは松山商

2024.05.14

大阪体育大の新入生に兵庫大会8強の145キロ右腕、金光大阪の1番センター、近大附の4番打者など関西地区の主力が入部!

2024.05.13

大阪桐蔭、山梨学院、慶應義塾…強豪校・名門校の昨年度卒業生はどの進路を歩んだのか?【卒業生進路一覧】

2024.05.14

【春季東京都大会総括】日大三、二松学舎大附など強豪校がノーシードの波乱! 新基準バットでも9本塁打の帝京が驚異の打力で王者に

2024.05.13

【北海道】帯広大谷、遠軽、函館大柏稜が全道大会出場へ<春季全道大会支部予選>

2024.05.08

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.13

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在29地区が決定、愛媛の第1シードは松山商

2024.05.14

大阪体育大の新入生に兵庫大会8強の145キロ右腕、金光大阪の1番センター、近大附の4番打者など関西地区の主力が入部!

2024.05.09

プロスカウトは190センチ超の大型投手、遊撃手、150キロ超右腕に熱視線!この春、浮上した逸材は?【ドラフト候補リスト・春季大会最新版】

2024.05.09

【熊本】九州学院は城北と文徳の勝者と対戦<NHK旗組み合わせ>

2024.04.21

【愛知】愛工大名電が東邦に敗れ、夏ノーシードに!シード校が決定<春季大会>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.04.22

【鳥取】昨年秋と同じく、米子松蔭と鳥取城北が決勝へ<春季県大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?