Interview

田淵 一樹(ヤンキース岡山)最速141キロを誇る快速中学生が思い描く高校野球生活

2018.06.11

 2018年に創立8年目を迎えるヤンキース岡山。創設からまだ日は浅いものの、2017年、ヤングリーグ春季大会では見事優勝。岡山県内はもとより、県外の強豪校にも多くの卒団生が進学している。今春のセンバツでも、聖光学院三重の2校のベンチ入りメンバーとしてOBが甲子園の土を踏んだ。

 

 そんなヤンキース岡山を巣立ち、この4月から高校野球に挑む一人の“スーパー中学生”がいる。その名は田淵一樹(たぶち・いつき)という。

 

 2017年のヤングリーグ春季大会では、エースとして全国優勝に大きく貢献。大会MVPを受賞する圧巻の活躍を見せた。更に今年2月に全国放送されたテレビ番組の企画では、現役プロ野球選手と対戦。188cmの長身から繰り出す、最速141キロを誇る中学生離れした快速球、タテに鋭く変化するスライダーを武器に、松田宣浩(福岡ソフトバンク)から見逃し三振を奪ってみせた。今回は田淵投手本人に、これまでの野球人生の振り返り、高校野球への意気込みを語ってもらった。

始まりはソフトボール

田淵 一樹(ヤンキース岡山)最速141キロを誇る快速中学生が思い描く高校野球生活 | 高校野球ドットコム
田淵 一樹投手(ヤンキース岡山)

 兄の影響もあり、小学校1年生の頃からソフトボールを始めた田淵投手。当初は外野を中心に守っていたが、3年時からは投手一筋。「中学では硬式チームでやりたい」という気持ちを抱く。ヤングを中心に、ボーイズ、シニアのチームも複数あり、中学硬式文化が盛んな土地である岡山。多数の選択肢のなかから、ヤンキース岡山を選んだ決め手はなんだったのか。

 「練習や試合を見学するなかで、ヤンキースの選手達の守備がすごく固いなと感じたんです。小学校時代のソフトボールのチームは、守りが崩れて負けてしまうことが多くて、悔しい思いもたくさんしました。そういったこともあって、『ここでエースになって、このバックを味方に投げてみたい』という気持ちが強くなり、入団を決めました」

 

 平日2日、週末土日の週4日を基本に練習を行うヤンキース岡山。専用グラウンドを持っていないという事情もあり、平日は基礎トレーニングに割く時間も多い。地道な練習への取り組みが持ち前の才能をスクスクと開花させていった。

 

 特に力を入れたのがランメニュー。「ダラダラと走らせることはしない」というチーム方針を掲げていることもあり、ダッシュ系のトレーニングに取り組むことが多かった。中学最後の公式戦を終えた後も継続しており、複数のランメニューを組み合わせて、毎日合計5㎞を走り込む。こうしてピッチングに欠かせない“土台”となる下半身を日々鍛え上げていった。

 

 下半身強化に加えて、毎日の入浴時には、手首のトレーニングも欠かさない。浴槽のお湯の抵抗を利用して、「しんどいな、と感じるまで追い込みます」と、妥協することなく、取り組んでいる。

[page_break:「1日5食」の日々 好物は?]

「1日5食」の日々 好物は?

田淵 一樹(ヤンキース岡山)最速141キロを誇る快速中学生が思い描く高校野球生活 | 高校野球ドットコム
キャッチボールをする田淵 一樹投手(ヤンキース岡山)

 現在188cm、70㎏の田淵投手。中学入学時の176cmから10cm以上身長が伸びたそうだ。かなりの長身だが、ユニフォーム姿を見てもまだまだ細身。本人にも自覚はあり、体重を増やすために“食トレ”の意識も強く持っている。

 『お腹がすいたな』と感じたら、すぐに何か食べるように心がけています。お米だけ、肉だけと偏らせることはせず、満遍なく、バランスよく食べるように。今は平均して1日5食は食べています」

 

 一番の好物は「ラーメンが大好き。特にしょうゆラーメンが好きです」と、あどけなさの残る笑顔で語ってくれた田淵投手。最高で替え玉を6玉平らげたこともあるそうだ。体質的に「食べても食べても中々増えないんです」と苦笑していたが、決して栄養面への意識が低いわけではない。今後、成長を重ねるなかで、“爆発的”に大きくなる可能性も十分あるだろう。

 

 続いて、昨年夏に選出された「JUNIOR ALL JAPAN 2017(通称・野茂JAPAN)」についての学び、思い出について話を伺った。

“レジェンド”からのメッセージ

 「最初に野茂(英雄)さんにお会いしたときは、『こんなにデカいんだ!』と身体のサイズに圧倒されました」

 日本人メジャーリーガーとして、礎を築き、圧倒的な結果を残し続けた“レジェント”との対面は強烈なインパクトを残した。その野茂氏から、技術的、精神的両方のアドバイスをもらった。

 「技術面ではフォークについて数多くのアドバイスを頂きました。選抜メンバーに選ばれるまでも投げていた球種の一つですが、握り方、リリースのイメージを教えてもらったことで、より鋭く、落差を出すことが出来ました。フォーク以外にも数多くのお話を頂いて、一番印象に残っているのは『上のステージに進むにつれて、フィールディングの重要度が上がる』という言葉でした。ヤンキースでも『投手の仕事は投げることだけじゃない』と繰り返し指導してもらっていましたが、このアドバイスを頂いてから、より意識をして練習するようになりました」

 “宝刀”フォークの伝授、フィールディングを含めた、投手としての“総合力”を高めることの必要性。大投手の一言一句から多くの陶酔を得た。

 同時に、全国指折りの選手達と共にプレーする場でもあった野茂JAPAN。同世代の好選手達と過ごす日々は田淵投手にどんな影響を与えたのか。

 「最初はいつもと丸っきり違う環境で『やりづらいなあ』という気持ちも少しありました(笑)。慣れてくると、やっぱり力のある選手ばかりですし、投手として投げていても信頼できる。そういったバックを背に投げることが出来たのは良い経験でしたし、練習への取り組み、考え方にも刺激を受けました。あと、選抜チームで一緒にやった選手のなかには、進学先が同じ選手も何人かいるので、そこも楽しみですね」

 特に「同じ高校に行こう!」と示し合せることはなく、自然な流れで同じ進学先になったとのことだが、「知った人がいるのは、やっぱり心強いですね」と来たる高校生活のプラス材料にもなっているようだ。

[page_break:高校野球では「1年秋からエースに」]

高校野球では「1年秋からエースに」

田淵 一樹(ヤンキース岡山)最速141キロを誇る快速中学生が思い描く高校野球生活 | 高校野球ドットコム
田淵 一樹投手(ヤンキース岡山)

 いよいよ幕を開ける高校野球。目標を尋ねると浮ついた様子もなく、真っ直ぐとした目で力強く語ってくれた。

 「第一目標は、とにかく早く高校野球生活に順応して、1年夏にベンチ入りを果たすこと。そして、1年秋にはエースナンバーを奪えるように。最終的にはドラフト指名されるような投手になりたいです」

 

 田淵投手が進学する地域は、強豪校がひしめく“激戦区”の一つ。甲子園を目指すにあたり、立ちはだかるライバルは多い。

 「同地区の強豪、好選手と対戦できるのは楽しみです。実はそれ以上に楽しみなのが練習試合なんです。全国各地の強豪と試合を組んでいると伺っているので、その相手に対して自分の力をぶつけてみたい。甲子園に行くことはもちろん、そういった環境面も含めて進学を決めたので、すごくワクワクしています」

 

 目を輝かせながら、語る表情からは、高校野球生活への不安よりも、溢れんばかりの“期待”が読み取れた。

 現在、最速141キロに到達しているストレートが高校3年間どこまで増速されるか、という点も注目を集める要素の一つだ。しかし、本人に直球へのこだわりについて投げかけると意外な答えが返ってきた。

 「自分としては『とにかく球速!』といった意識はあまりないんです。普段の練習もキャッチボールの段階から、“回転”を意識して投げることが多い。球速よりも“質”を高めていきたいんです。質の良い、回転の良い真っ直ぐを磨いていけば球速は自然とついてくると思っています」

 この日のキャッチボール、ブルペンでも一球一球感触を確かめるように投げている姿が印象的だった田淵投手。高質のストレートを磨き上げ、激戦区での戦いに挑むつもりだ。

 

 ヤングリーグ全国優勝、野茂JAPAN選出、テレビ番組でのプロ野球選手との対戦…。中学野球ラストイヤーは“激動”ともいえる密度で過ぎ去っていった。そんな濃密な時間を支えたのは、「ここで投げてみたい」という衝動から身を投じたヤンキース岡山での鍛錬の日々であることは間違いない。

 強豪でのエース争い、激戦区での甲子園出場、そして3年後のドラフト指名。実直に練習に打ち込んだ自信を胸に、目標へ突き進んでいく。

 

文=井上 幸太

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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