Interview

茂木栄五郎「長打をより多く打つ。それが自分の生きる道だった」【前編】

2018.05.19

 東北楽天ゴールデンイーグルスが誇る左の強打者・茂木栄五郎桐蔭学園‐早稲田大を経て、2015年ドラフト3位を受けて、東北楽天ゴールデンイーグルスに入団。プロ1年目から117試合に出場し、7本塁打を記録。昨年は17本塁打を放ち、年々、本塁打数を伸ばしている。171センチ75キロと決して野球選手としては大きくない茂木がなぜ本塁打を量産できる打者になったのか?その理由は意識の変化にあった。

数値は超俊足。それでも長打力を重視した理由

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インタビューに答える茂木栄五郎選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 茂木栄五郎(楽天イーグルス)を初めて見たのは桐蔭学園時代の2011年春の神奈川大会、慶応高戦だ。その第1打席で内野ゴロを放ったときから「足が速い選手」という認識が植えつけられた。そのときの一塁到達タイムは4.21秒。私が俊足の基準にする打者走者の各塁到達タイムは「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12秒未満」だから、高校時代の茂木は十分俊足と言ってもいい。そのランクが早稲田大に進学するとさらに上がった。

 1年時の一塁到達タイムの最速はバントのときが3.95秒、バント以外のときが3.91秒、大学3年時は二塁打のときの二塁到達タイムが7.89秒、4年時は三塁打のときの三塁到達が11.41秒までアップした。そして2016年の楽天イーグルス1年目、4月19日のオリックス・バッファローズ戦を東京ドームで見たとき超弩級のタイムをこの目で目撃した。

 第1打席のバントのときが3.94秒、第3打席の遊撃ゴロのときが3.89秒というのが一塁到達の最高タイムで、第4打席に右中間を抜ける二塁打を放ったときの二塁到達はあっと驚く7.21秒だった。それまでの14年間、野球観戦のたびにストップウォッチで計測してきた中で二塁到達の最速タイムで、おそらく当分抜かれない記録だと思う。それくらい〝超弩級″のタイムなのだが、そういう〝スモールベースボール″目線のプレースタイルがインタビューの冒頭からやんわりと否定された。

 私が「意識して技術を頭に入れて野球に取り組み始めたのはいつ頃からになりますか」と聞くと、茂木は「大学3年から4年になるときにバッティングを大きく変えようと思って練習に取り組みました」と答え、さらに「大学3年まではヒットを打ちに、というか高い率を求めてというか、ヒットの延長線上で長打が打てたらいいなと思ってやっていたんです。でも大学3年から4年にかけてプロを本格的に目指すことになったときに、足が特別速いわけではないですし、盗塁もバンバン決められるわけでもないので」と言ったのだ。

 このときの言葉を最後まで紹介すると、「何でアピールできるかといったらやっぱり打撃で、その中でも長打力が必要だなというふうに自分で感じました。率を残すのもそうなんですけど、打球を遠くへ飛ばすということをテーマにおいて練習に取り組むようになりました」と続いた。

 茂木の目から見ればそれ以降も取材は淡々と続いていたように思えるかもしれないが、「足が特別速いわけではない」という発言は非常に重く私の胸にこたえた。ストップウォッチが示した特別速い脚力を後回しにしてまで取り組んだ「打球を遠くに飛ばす」バッティングとはどういうものなのか、ここから本格的に紹介したいと思う。

[page_break: バッティング動作で大事なのは「遊び」]

バッティング動作で大事なのは「遊び」

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茂木栄五郎選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 長打を飛ばすということは、「打つポイントが前になるということなのか」と聞くと、茂木は「よりヘッドが効くようにというか、打球に強いバックスピンをかけられるように練習で取り組むようにしました」と言った。以下、一問一答形式でしばらく続けたい。

―― 芯を食うのではなくて、ちょっと下にバットを入れるという感覚になるんですか

茂木栄五郎(以下、茂木) そうですね。ボールの芯をたたき過ぎると無回転で飛んでしまうことがあるので、ボールの少し下に入れて、ヘッドをそのときに同時に効かせて、よりバックスピンをかけて遠くへ飛ばす練習はすごくしました。

―― 試合を見ていてよく思ったのは、打ちに行く前、テークバック時にバットが遊ぶというか、人によっては余計な動作だと言われると思うんですけれども、ヘッドがちょっと遅れることになりますよね。それは気にならなかったんですか

茂木 正直ちょっと無駄な動作が多いなと感じることもあったんですけど、その遊びがないとヘッドがより効いてくれません。
 自分みたいな体型でボールを遠くへ飛ばすには、バットの遊びがないと打球が飛んでいってくれないのかなというふうに感じていたので、そこは少し割り切って、打球をより飛ばすために、そこは仕方ない部分なのかなというふうに思って練習していました。

―― 僕は打者走者の走塁をストップウォッチで計っていて、茂木さんは一塁到達も二塁到達も三塁到達もほとんど速いんです。もう完全に一般レベル以上。だったら足で生きようかなと思うのが普通だと思うんですけど

茂木 でもやっぱり上には上がいるというか。

―― 早大の同期、重信(慎之介。早稲田大-巨人)みたいなタイプには足ではかなわないということですね

茂木 はい。やっぱりプロとなったらそこが速いといわれるレベルなのかなというふうに思ったので。あとは小さい体ですけど長打も狙えば打てるような気はしていたので、そこをもう少し練習で取り組めば十分打撃でも勝負できるんじゃないかなと感じていたので、よりそこの技術、長所を伸ばしていこうと決めて練習に取り組みました。

 

―― タイミングを取るというのは、自分の中では重要になるわけですか

茂木 一番重要なところかなと思います。タイミングがある程度合っていればヒットゾーンに打球が飛びますし、芯じゃなくてもヒットは打てると思うので。よりタイミングが合ってしっかりボールの下に入ったときには長打、最高はホームランですけど、そういった打球が増えてくるのかなと思います。

―― 具体的にはステップを静かに出すという感じですか

茂木 そっと着きたい気持ちもあるんですけど、ピッチャーに入っていくということが僕の中では重要なところなので、そこまで静かに着くというよりは、逆にちょっと力強く踏み込んで、踏み込むと同時にボールを打ちにいくというか。バットをトップの位置から一発で出したいので、そういった部分では少し踏込みは強くなっているんじゃないかなと思います。

―― もし高校時代(17歳)の自分に言葉を贈れるとしたら何と言いたいですか

茂木 強く振ることだと思います。やみくもにブンブン振るのではなくて、タイミングを合わせて強く振る練習というか、そういうのをもっとしておけばよかったなと思います。

―― 高校のときはただ強く?

茂木 もう強く振ることだけを考えてやっていたので。

――「十分に体が割れない状態で振っていたという感じですか」

茂木 はい。ちょっと力任せに振っていたときもあったので。金属だったら全然大丈夫なんですけど、木だとより芯に近いところで打ったり、タイミングよく振らないとヒットにならないので。

 前編はここまで。後編は引き続き、一問一答形式で茂木選手の打撃理論に迫ります。そして茂木選手の転機となる人物との出会い、運命を変える一言も伺うことができました。お楽しみに!

文=小関 順二

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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