Column

秋山 翔吾「何度も殻を破り、超一流へ成長した」

2018.05.15

 2015年に日本プロ野球(NPB)におけるシーズン最多安打記録となる216安打をマーク。17年には「2017ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」の侍ジャパン代表に選出され、3試合に先発し打率.300を記録。さらに、昨シーズンは打率.322で自身初の首位打者を獲得するなど目覚しい活躍を見せている秋山 翔吾選手(西武)。その秋山選手が八戸大(現:八戸学院大)に在籍していた際、監督として指導にあたっていたのが、現在、明秀日立高(茨城)で打撃コーチを務めている藤木 豊氏だ。

最初の出会いは高校3年の夏

秋山 翔吾「何度も殻を破り、超一流へ成長した」 | 高校野球ドットコム
秋山 翔吾選手(埼玉西武ライオンズ)

 藤木氏と秋山選手の出会いは06年夏のこと。親交のある横浜創学館高(神奈川)の森田 誠一監督から受けた一本の電話がきっかけだった。「森田監督から『横浜創学館で一番の選手を預けたい』と連絡をもらったんですが、それが秋山のことだったんですね。それで、まだ一度も見たことがなかったのに『是非、お願いします』と答えて、夏の神奈川大会へ足を運んだんですが、そうしたら秋山が足首を捻挫していたんですよ。それも靭帯を損傷する重度のもので、足を引きずりながらプレーしていたんです。

 当時の秋山は既にプロのスカウトから注目される存在だったんですけれど、ケガの影響もあって、打てない、守れない、走れないという状態だったんです」。結局、この年のドラフト会議では指名漏れとなった秋山選手。しかし、藤木氏は好印象を持っていたという。「身長は180cm以上ありましたし、ユニフォーム姿が映えて見えました。顔は『ウナギイヌ』みたいでしたけれどもね(笑)。それからお母さんにもご挨拶させていただいたのですが、とても厳格で礼儀がきちんとされている方だったので、このお母さんにしつけされてきた選手なのだから『なんとしても欲しい』と思いました」

 こうして八戸大に進学した秋山選手。1年時から1番打者としてプレーし、春・秋連続でベストナインを獲得する活躍を見せた。「すごい努力をする選手でしたね。本当に見たことがないくらい。多少のケガなら『痛い』なんて言うこともなかったですし、黙々と練習をしていました」。しかし、2年春からは調子を落としてしまい3年春には打率.226まで成績が落ち込んだ。「右投左打の打者特有のダメな腕の使い方をしていたんですね。具体的に言うと、テークバックで2度、腕を引いてしまっていたんです。一度、腕を引いているのに、もう一回引いてしまうものだから、それでタイミングがずれてしまう。これを修正するのには時間がかかりましたね。左利きで左打ちならバットを押し込むイメージで一気にスイングできるのですが、右利きなのでどうしても力の強い右腕主導でバットを引くようなスイングになってしまっていたんです」

[page_break:藤木氏の打撃指導で打撃開眼]

藤木氏の打撃指導で打撃開眼

秋山 翔吾「何度も殻を破り、超一流へ成長した」 | 高校野球ドットコム
大学時代の恩師・藤木 豊氏

 そこで、様々な方法を用いて、バッティングフォームの修正を図ったという。「いろんな動きをさせたのですが、そのなかの一つにバスターで打つ練習がありました。バントの構えからスイングする時の軌道で一気に腕を後ろに引いて、戻しきったところですぐに打ちにいくように指導したんですが、それまでの秋山はバットを二度引きしていたためにトップの位置が定かじゃなかったんですね。それで、この打ち方でトップを意識させるようにし、同時に腕を後ろに残しつつ下半身は打ちにいかせて『割り』の感覚も掴めるようにしました」

 この「割り」の感覚を手にしたことで、バッティングの内容は変わっていった。「よくスイングの基本として『後ろは小さく、前は大きく』という言葉が使われていますよね。でも、私は前を大きくするためには、振り子のように後ろも大きくしなければいけないと考えているんです。秋山も元々、後ろが小さいスイングをしていたのですが、そのせいでスイングがボールの勢いに負けてしまい、どん詰まりの打球でゴロが多かった。だから、様々なバッティング練習を通して『割り』を身に付け、力強いスイングができるように指導していったんです」

 3年秋は打率.353をマークし復調を遂げた秋山選手。そこで藤木氏は、プロ入りに向けて大事な年となる4年への進級を前に面談の時間を取った。「大学を卒業した後の進路について話したんですが、秋山は『プロに行きたい』と言うんですけれど、全然、目立つ選手じゃなかったんですね。大学ジャパンの合宿には1年の時から7回全部呼ばれたのに1回も代表に選出されなかったくらいで、能力やセンスはあるので数字は残すんですが、試合を決めるここ一番の場面で勝負弱かったし、プレーヤーとして周りを惹きつけるような魅力がなかった。

[page_break: ドラフト指名時と最多安打前のエピソード]

ドラフト指名時と最多安打前のエピソード

秋山 翔吾「何度も殻を破り、超一流へ成長した」 | 高校野球ドットコム
秋山 翔吾選手(埼玉西武ライオンズ)

 だから、『お前の目指すところは、そんな甘っちょろいところじゃない。この1年はチームのことも大事だけれど、プロに実力を認めさせるための品評会になるんだから』と言って、覚悟を決めさせたんですね。憧れじゃダメなんです。そうしたら、グーっと目の色が変わって、『プロに行きたい』じゃなくて『プロになります』と宣言したんですよ」。こうして迎えた4年春のシーズンは打率.486。最多打点となる14打点も挙げた秋山選手の姿を見て、藤木氏は「プレーヤーとして華が出てきた」と感じていたという。

 そして、その秋のドラフト会議。チームメートの塩見 貴洋投手が楽天にドラフト1位で指名を受けるなか、秋山選手の名前は挙がってこなかった。「2位指名が終わった時、獲得に熱心だった球団からも声が掛からなかったので、『秋山の指名はないかもしれない』と思いましたね。本人は『何位でもいいから、プロへ行きたい』と言っていましたが、私は下位指名でプロへ行くよりは社会人でさらに技術を磨いて評価されてから行った方が良いとも考えていましたから。

 でも、半信半疑になっていた時に会見場の方からウォーと歓声が上がったんですね。それでインターネットの画面を見たら『西武3位 秋山 翔吾』と表示されていて、あの時は嬉しかったですね。監督時代に8人の選手をプロへ送り出していますが、秋山の指名が一番、印象に残っています」

 プロ入りの夢を叶えた秋山選手は西武に入団するとルーキーながら開幕スタメンに名を連ね、その後も順調に成長。15年にはNPBのシーズン最多安打記録を更新した。「日本記録に並ぶまでの数試合はプレッシャーで調子が悪かったんですよね。かなり悩んだと思うんですけれど、そんな時に電話が掛かってきたんで、『どれだけのプレッシャーがかかっているのかはお前以外、誰にも分からない。だから、そのプレッシャーを楽しめとは言わない。そのままシビれて、やったらいいんだ。でも、どうせ自分なんかって弱気な気持ちにはなるな。こんなチャンスは二度とないかもしれない。日本記録を狙えるのはお前だけなんだから、狙いに行かないでどうするんだ。まずはトライすることだ』と、伝えたんです。そうしたら、5打数5安打ですよ。

 彼はプレーヤーとして大きなカベを乗り越えて、超一流になったんですから。あの時は嬉しかったなぁと、当時を振り返る藤木氏。そして、昨シーズンは念願の首位打者も獲得した秋山選手に対し、「もう一度、シーズン200安打を打ってほしい」と、話す。「彼はフォアザチームの気持ちが強く、個人の記録にはあまりこだわっていないのですが、今、脂が乗っていますし勢いもあるので、是非、達成してほしいですね」。秋山選手のことを「自慢の教え子」と語る藤木氏だが、その立派な教え子は今後も多くの活躍を見せ、自慢話を増やしてくれることだろう。

 

(取材・文=大平 明

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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