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神宮大会に登場した大学3年生投手たちは逸材揃い!急成長の背景を探る

2017.11.16

 神宮大会の醍醐味というのは新チームで初の頂点を目指す高校野球、学生野球最後の大会で白熱した勝負を見せる大学野球を両方みられるところだが、大学野球は非常にレベルが高い。大人の肉体へ移行する大学生のパフォーマンスはくぎ付けとなった。その中で、今年は大学3年生の好投が光り、来年のドラフト候補として期待できるものだった。そんな大学生投手たちを紹介していきたい。

優勝した日体大のWエース 技の松本 剛の東妻

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左から松本航、東妻勇輔、鈴木翔天

 37年ぶりの明治神宮大会優勝の日体大。その原動力となったのは松本 航(3年・明石商)と東妻 勇輔(3年・智辯和歌山)のダブルエースだ。今大会は2人だけ投げて、失点がわずかに1失点。これほど強力なダブルエースは今後、神宮大会の軌跡を振り返る上で語り継がれるだろう。

 まず松本。明石商時代から県下屈指の本格派右腕は今や大学球界を代表する右腕へ成長した。ストレートは最速150キロだが、「スピードのこだわりは捨てた」と語るように、140キロ前半のストレートは回転数が高く、低めへズバリとコントロールできる術は、大学生とは思えない。スライダー、ツーシームを内外角へ投げ分け、打たせて取るピッチングを見せる。そのピッチングが実現できたのは、投球フォームによる修正と意識の変化だ。侍ジャパン大学代表に選出された善波 達也監督(明治大監督)から投球フォームの指導を受けた。

「軸足の使い方ですね。僕は軸足が外回りする癖がありました。軸足の使い方を教えてもらい、エネルギーロスが少なくなり、そしてリリースの感覚もつかんできました」

その結果、ストレートの制球力だけではなく、ツーシームもマスター。投球の幅を大きく広げることに成功した。そして自分自身のピッチングの軸も決まった。「打たせて取ることを意識しました。今までは三振を取りたい気持ちが強かったのですが、それで甘く入ったボールを打たれることが多かったんです。でもバックの守備がいいですし、もっとナインの守備を信じようと思って」

三振を取りたい欲がなくなったことは松本の本来の持ち味を引き出した。それが強打の九州共立大、東洋大打線を計1失点に抑える投球を見せた。大学生屈指のスターターとして来季は多大な注目されることになりそうだ。

 技が目立つのが松本ならば、東妻 勇輔(3年・智辯和歌山)は剛のピッチングで勝負する投手だ。170センチの小柄ながら、ステップ幅が狭いフォームから繰り出すストレートは常時145キロ~150キロの速球で押す。ミットに突き刺す勢いのストレートは、実に素晴らしく、九州共立大戦では3.2回を投げ、9奪三振の快投を披露。さらに決勝戦では、先発として登板し、2安打完封。先発でも常時140キロ後半を維持する平均球速の高さに加え、130キロ台の縦横のスライダー、フォークを織り交ぜるパワーピッチングは今年の出場チームでは太刀打ちできなかった。

 高校時代の最速は144キロ。ここから152キロまで速くなった背景として2年春以降のトレーニングが大きい。2年春のリーグ戦後、東妻は肩、ひじの炎症のため、戦列と離れていた。そこで取り組んだのがウエイトトレーニングだ。2年秋のリーグ戦まで投球練習をすることなく、身体を作った東妻は一変した姿を見せる。コンスタントに140キロ後半の速球を投げる投手にまで成長していたのだった。

同じ3年生の松本は良きライバルであり、良きお手本である。負けたくない気持ちはありながらも1人の投手として松本を尊敬している。
「僕よりも勝っていますし、投球術など僕にはないものを松本は持っている。投手として尊敬するとともに、負けたくない気持ちがありました」
松本も1人の投手として東妻を信頼している。「先発として投げるときも、東妻がいるから、思い切って投げることができますし、なんとしても完投しなきゃという気持ちはないですね」と心理的負担を軽減させ、松本の好投を生んでいるのだ。東妻の課題は150キロを投げる能力を持ちながら力み過ぎてしまう欠点があった。決勝戦は力みが取れたピッチングで完封。大きく成長を見せた大会となった。来季のドラフト候補として期待されるが、「今のままではプロにいくことはできない」と慢心することなくレベルアップを誓った東妻。今や2人とも来年の大学球界を代表する投手となった。エース争いをめぐって今年以上のピッチングを見せることができるか注目をしていきたい。

[page_break:大観衆で投げる楽しさを知り投手に専念。そしてブレークした鈴木翔天]

大観衆で投げる楽しさを知り投手に専念。そしてブレークした鈴木翔天

 続いて紹介したいのが富士大学の鈴木翔天(3年・向上)だ。 最速149キロの速球、落差鋭い変化球を武器に三振がとれる本格派左腕である。向上高校の時はピッチャーとレフトを兼任。エースには明治大学で活躍する高橋裕也がいた。その鈴木が ピッチャーとして続けたいきっかけになったのが3年夏の決勝戦・東海大相模戦だ。
この試合で先発した鈴木は打ち込まれてしまったが 打たれた悔しさはもちろんあるが、 大舞台で投げられた喜びの方が大きかった。
「あの大観衆の中、投げられたのは本当に楽しかったですし、プロではこういう舞台で投げられるんだと思うと、大学では投手として挑戦したい思いに変わりました」
大学に進むと、体づくりの成果もあり、最速149キロ左腕へ成長。求めているのはストレートのベース盤での強さ。強いストレートを投げるために、多和田真三郎(埼玉西武)からボールをつぶすようにリリースする方法を学び、140キロを超えるだけではなく、回転数の高いストレートを投げ込むことができた。一学年ごとに成長した鈴木は今秋のリーグ戦では完全試合も達成。全国レベルの左腕として注目されるよういなっていた。迎えた全国大会。大阪商業大戦では4.2回を投げて9奪三振の快投。しかし東洋大戦では3回を投げて4失点と悔しいピッチングに終わった。鈴木は「負けたのは悔しいですが、まだ全国で勝てる投手になるには足りない部分が多いとわかった試合でした」と改めて自分の課題を感じていた。今度は強豪リーグのチームに勝てる投手になれるのか、注目をしたい。

 また左スリークォーターから140キロ中盤の速球とスライダー、チェンジアップで創価大を完封するなど決勝に導いた道都大の福田俊(3年・横浜創学館)、真上から振り下ろすフォームで、最速147キロのストレートと130キロ台のフォーク、120キロ台のチェンジアップで翻弄する大型右腕・島内 颯太郎(3年・光陵)、唸るような140キロ後半の速球で、創価大戦でアウト5つのうち4三振を奪った関西大の山本 隆広(3年・桜宮)も、172センチながら馬力の大きさが光る右腕だった。そして準決勝で敗れたが、最速152キロ右腕の東洋大・甲斐野 央(3年・東洋大姫路)も187センチの長身から振り下ろす角度ある速球は素晴らしかった。プロを意識できる投手が多く、今大会の大学の部は見所が多かった。大学3年間で急成長した投手たちの取り組み、意識の高さは学ぶことが多いはずだ。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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