Interview

田中 瑛斗(柳ヶ浦)「全国未経験投手を変えた『出会い』と『走り込み』」

2017.10.19

 田中瑛斗はドラフト候補として、プロ野球全12球団から調査書が届くほどの注目を浴びるほどまでの投手になった。甲子園経験はない。中学まで続けた軟式野球でも県大会レベルと、目立った成績は残していない。中学のポジションはショート中心で、ピッチャーとしての経験は少なかった。高校入学後。ピッチャーとして自信をどのように身につけてきたのか。そこには選手とコーチの両方でプロ経験のある定岡智秋監督との出会い。独自の走り込みにあった。

投手としての本格的練習は高校に入ってから

田中 瑛斗(柳ヶ浦)「全国未経験投手を変えた『出会い』と『走り込み』」 | 高校野球ドットコム

田中 瑛斗(柳ヶ浦)

 大分県中津市出身。兄の影響で小2から野球を始めた。市内にある中津中でも軟式野球部に所属した。

田中瑛斗選手(以下、田中):中学時代は実績もないし、そんなに目立つ選手ではなかったです。でも、柳ヶ浦なら自分を成長させてもらえると思って選びました。

 そんな田中に手を差し伸べるきっかけを与えたのは定岡智秋だった。田中が中3の時、定岡は九州総合スポーツカレッジでヘッドコーチをしていた。まだ、柳ケ浦高校の監督に就任する前の話だった。

定岡智秋監督(以下、定岡):宇佐市やその周辺の中学生を見てほしいと頼まれました。その時、3人ほど能力の高い子がいました。田中はその1人でした。打つ・投げる・走る。全部が良かった。腕の振りがいいし、ひじの使い方が柔らかかった。

 田中が高1の8月の時だった。定岡は同校の監督に就任することになる。高校入学まで、田中のピッチャー経験は浅かった。

田中:中学で少しだけピッチャーをやったぐらいです。でも、その時に楽しいと思ったこともありました。いずれは、やりたいと思っていました。

 日本ハム在籍時のダルビッシュ有をヤフオクドームで見て、投手への憧れはあった。高校入学後に念願が叶って投手を志した。ただ、そこには難題も立ちはだかる。

田中:経験もなかったので、何の練習をすればいいのか分かっていませんでした。投手としての基本は何も分かっていません。カウントごとに、どんな球を投げたらいいのか。そんなことから教わりました。

 定岡監督から「投げ方の指導は、ほとんど受けていない」という。肘の使い方などの長所を生かしながら、指揮官から「投手のあり方」「練習の取り組み方」を学ぶことになる。

[page_break:143キロ…不整地走が球速と制球につながる]

143キロ…不整地走が球速と制球につながる

田中 瑛斗(柳ヶ浦)「全国未経験投手を変えた『出会い』と『走り込み』」 | 高校野球ドットコム

田中 瑛斗(柳ヶ浦)

 田中の名前が知れわたるようになったのは高2になってからだった。定岡から教わったのは、「走ることの大切さ」だった。プロ野球選手として実績のある定岡は、プロの厳しさを話したという。

定岡:走らないと投手としてやっていけない。プロ野球には化けものみたいな選手がたくさんいます。短距離、長距離を問わず走るメニューを多くしました。

 特に取り組んだのは、不整地走とポール間走だった。特に砂場で行った不整地走は効果てきめんだった。グラウンドの側には約30メートル幅の砂場がある。

定岡:地面の整っていない場所を走り込めば、下半身に力がつくし、投球するときに安定感も出てくる。

 当時の田中は決して練習好きではなかったという。結果を出すことで練習の大切さを痛感する出来事があった。高2・春の大分大会2回戦・藤蔭戦で初登板にして初完封を果たす。その時に球速も143キロを出すことができた。

田中:完封したことで自信を持てました。自分の中ではもっと行ける!と思うようになりました。練習でもボールにキレが出てきたことも分かるようになりました。力強いストレートも投げることができるようになりましたし、変化球も思ったところに投げられるようになりました。

 下半身の粘りが体に染みついたことで、田中の能力はランクアップしていた。

 2年夏の大会前に、スライディングで腰の筋肉を痛めたことで戦線離脱する。そこから体のことも真剣に考えるようになる。当時の体重は60キロ台前半。食は決して太くない。定岡監督からの助言もあって、ご飯とおかずの両方の量を増やす努力をした。

 高2秋の新チームでは、背番号1を付けるエースとなった。さらに投球へのこだわりも深めていく。ダルビッシュの投球を見て変化球を研究するなど、自分でこだわりを見つけた。

田中:監督からは、やらされる練習はなかったと思います。メニューも自分たちで考えて、練習するようになりました。

 質にこだわった。数をこなすだけの20本ダッシュよりも、集中した10本ダッシュのように。練習内容から自分で考えるようになると、野球も次第に楽しくなっていった。

[page_break:ドラフト前のトレーニングの大切さ]

ドラフト前のトレーニングの大切さ

 高3になった田中は順調に成長を遂げた。春の大分大会には146キロ。夏の同大会では149キロを球速に伸ばしていった。「練習の成果が出た」と話すぐらいの自信をつかむようになっていた。ただ、甲子園には手が届かなかった。準決勝の大分商戦では、1対8で敗れて全国への道は途絶えた。

 次の目標は小さい頃から憧れたプロ。心に決めたとき、定岡監督から話があった。

定岡:今からが大切になる。プロに入る選手は夏の大会が終わって期間は短いけど、ドラフトにかかるまでのトレーニングで差が出る。

 田中は監督の言葉を胸に抱いてトレーニングに取り組んだ。ランニング、キャッチボール。ブルペンに入ることもある。基本的なことだけとはいえ、ウエートトレーニングも行った。夏の甲子園をテレビで見ることもあった。

「うらやましいと思ったこともありました」と素直に打ち明ける。ただ、優勝した花咲徳栄清水達也投手を見ながら、シミュレーションすることもあった。
「自分だったら、どのように投げていたか、考えながら見ていた」という。今後の自分のあるべき姿を考えながら試合を見ていた。

 同時に、田中の頭には変わらずダルビッシュの姿があった。モチベーションを高めるために、ダルビッシュのことを考えた。ヤフオクドームのバックネット裏から見た姿を忘れることはなかった。

田中:プロではダルビッシュさんみたいな投手になりたいと思っています。力強いストレートもあれば、変化球で打ち取ることもできる。メジャーで活躍できるためのものは持っている方なので…。

 現在、184キロ、70キロ。夏の大会で8キロ減った体重を、ようやく取り戻したばかりだという。体の線の細さはある。指揮官に言わせれば、その分、伸びしろは大きい。

定岡:まだ投手としての経験が少ないし、期間が短い。使いべりもしていないし、将来性は他の子よりもあると思います。150キロはすぐに出るようになりますよ。

 その隣で聞き入る田中は、心から笑っていた。甲子園には行けなかった。その分、プロでの活躍で定岡監督への恩返しを誓う。

(インタビュー/文・中牟田 康

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