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履正社高等学校(大阪)「『打倒PL』と『克服法を見い出す』指導の変遷」【前編】

2017.03.28

 2016年・神宮大会王者の履正社(大阪)。明日いよいよ第89回選抜高等学校大会準々決勝を迎える。大会前から、優勝候補筆頭の期待を担っていたが、近年では2010年から甲子園は夏2回出場・春4回出場を果たし2014年春準優勝を果たすなど、いまや全国屈指の強豪に成長した。前編では寺島 成輝(東京ヤクルトスワローズ関連記事)など、キラ星輝く好選手たちを擁した旧チームまでの変遷をたどる。

「PL学園」を超え、つかんだ「全国強豪」

履正社高等学校(大阪)「『打倒PL』と『克服法を見い出す』指導の変遷」【前編】 | 高校野球ドットコム

岡田 龍生監督(履正社高等学校)

 1987年4月から指揮を執る岡田 龍生監督。これまで左の強打者・T-岡田(オリックス・バファローズ関連記事)、2年連続トリプルスリーを達成した山田 哲人(東京ヤクルトスワローズ関連記事)、そして昨年、東京ヤクルトスワローズからドラフト1位指名を受けた左腕・寺島 成輝などスケールの大きい選手たちを育てつつ、履正社を全国屈指の強豪に押し上げてきた。

 ただ、その栄冠は一朝一夕にして成ったわけではない、2006年にセンバツ出場をつかむまでには数々のライバルとの闘いが待っていた。特に大きな壁として立ちはだかったのはPL学園。岡田監督は「打倒PL」を掲げ、切磋琢磨した約20年間を旧懐しつつ、当時のPL学園をこう振り返る。

「彼らの強さは厳しい環境に耐える強さから生まれたものだと思います。全盛期のPL学園はユニフォームから威圧感を感じました。あれはただ練習しただけでは絶対に出てこないですね」
 

 PL学園は全寮制。対して野球部寮がない履正社が限られた時間の中でPLと同種の練習を積んでも差は埋まらない。指揮官はそこに気が付いた。そこでどうしたか。それが今の履正社スタイル「練習の質を追究する」「選手自らが上達するための練習方法を考える」に結び付いたのである。

[page_break:教えすぎず「克服のアプローチを見い出す」指導]

 こうして対極に立った中で対決し、何度も阻まれ、また挑戦する。そんな宿敵・PL学園に対し初勝利を収めたのが2004年秋の府大会のこと。翌年秋に近畿大会準決勝でコールド勝ちしたことが翌年のセンバツ初出場につながった。しかし、2008年にもセンバツ出場を果たす一方で、夏のPL撃破にはさらに時間がかかった。

 2010年夏。ついにその時はやってきた。最上級生となった山田 哲人を中心となった履正社ナインは大阪大会4回戦で延長戦の末、ついにPL学園を破り、そしてそのまま1997年以来2度目となる夏の甲子園へ進み、甲子園でも天理を4対1で破り夏初勝利。その後、PL学園履正社の立場は完全に入れ替わる。

 センバツは20112014年は4年連続出場、そして2014年には準優勝。「打倒PL」の軌跡はそのまま履正社「全国強豪」への成長カーブにつながっている。

教えすぎず「克服のアプローチを見い出す」指導

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ティー打撃の様子(履正社高等学校)

 では、履正社・岡田監督はいかにしてPLを倒す術を身に付けるスタイルを創り上げたのか?指導のキーワードは「教えすぎない」である。指揮官はそのさわりを明かす。

「選手が考えてやる。下手なところは自分で考えて補っていかなければなりません。自分が工夫してやることが大事だと思います」
よって選手たちとの面談で課題は指摘するが、練習の仕方は教えない。

 選手たちは克服のアプローチ法を見つけ出す。それが成就すれば真の実力になる。これが履正社出身選手たちが大学・社会人・プロの世界で数多く成功している秘訣である。
一時的に結果が出なくても、その方針は揺るぎない。2014年夏から甲子園に出場できない期間が続いた時も然りだ。寺島 成輝がエースとなった2015年秋大阪秋季大会準決勝大阪桐蔭3位決定戦阪南大高に連敗。近畿大会出場を果たせなかった時も、岡田監督はあえて考えさせた。

 そして彼らはまずチームの課題を自ら明確にし、目標を定めた。旧主将の四川 雄翔(3年)は現象からアプローチした。
「自分たちは打つ時はみんな打つ。しかし打てない時はみんな打てない。打てない時に誰かがカバーできることができなかったんです。だから秋が終わって僕たちは春の近畿王者を目指すためにスタートしました」

 一方、寺島はチームの技術面からアプローチする。
「打線が打つべきボールを見逃し、見逃すべきボール球に手を出すという悪循環にはまっていました。逆方向へ打つ意識も希薄だったため、この点をチーム全体でしっかりと見直そうという話になりました」

[page_break:チームから個へ。そして再びチームへ]

チームから個へ。そして再びチームへ

履正社高等学校(大阪)「『打倒PL』と『克服法を見い出す』指導の変遷」【前編】 | 高校野球ドットコム

安田 尚憲選手(履正社高等学校)

 チームの課題が明確になれば、次は個の部分。そこには上級生も下級生もレギュラーも控え選手も存在しない。当時、レギュラーとの当落線上。大阪桐蔭阪南大高戦はベンチで戦況を見守った安田 尚憲(2年・三塁手関連記事)も改めて右足をあげた後、踏み込んだ際に大きく開いてしまう癖を持つ自分と向き合う。
 

 秋の公式戦を終えると開きを抑えた打撃フォームに改良。そこを支えるウエイトトレーニングでも上半身、下半身をバランス良く鍛えることを強く意識。結果は春以降の本塁打量産。そして現在の「西日本高校生NO.1スラッガー」につながった。
 

 大黒柱・寺島 成輝に至ってはプロ顔負けの技術アプローチをかけた。

「2年秋には体が横振りになり、開きが早くなった分腕が遅れてしまい、結果的に手投げになってしまって、ストレートが悪くなったと思います。だから、3年春にかけてはグラブを持った右手が体の外側に流れないように意識してストレートを中心に投げ込みました。すると指にかかったボールが随分と増えてきました」
 

 自分たちの課題を明確に理解し、課題を克服するための手法・答えを自分なりに見つけた選手たちが再び「チームのために」集結した2016年春。近畿地区で履正社を止めるものは誰もいなかった。大阪府大会決勝ではセンバツ帰りの大阪桐蔭を破り、近畿大会では2試合続けてコールド勝ち。決勝センバツ王者・智辯学園(奈良)にも6対0で完勝。目標の近畿優勝を難なく達成した。

 それでも近畿大会優勝後、四川は「あと1か月、気を引き締めて準備をしていきたい」と気を引き締めている。勝ち続けてもチームの課題は必ずある。そこを認識し、個人に落とし込み、チームに還元する。サイクルはすぐに夏に向かって回り始めた。
 

 その結果は……。読者の皆さんの方がご存じかもしれない。圧倒的な戦いぶりで夏の大阪を制し、甲子園2回戦では横浜(神奈川)との激戦にもタフに戦い5対1で勝利。3回戦で敗れても下を向かず、いわて国体では集大成の戦いを見せて初優勝。そして寺島 成輝は東京ヤクルトスワローズドラフト1位指名。履正社は見事にチームと個の結果を両立させたのである。

 後編では明治神宮大会優勝をステップに、初の甲子園制覇を狙う現チームの「克服法を見い出す」過程を探ります。お楽しみに!

(取材=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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