桜美林大学 大平 達樹選手「打者の動きを見てのリードを心がけよう」【前編】
桜美林大学入学から2年間は控え捕手に甘んじながら、昨春のリーグ戦途中から正捕手の座をつかみ、秋は打率3割3分3厘、2本塁打、9打点で同大学の初優勝に貢献し、ベストナインも獲得。さらに明治神宮大会でも2試合連続で本塁打を放って準優勝。一躍プロ注目の存在となった大平 達樹捕手。8月のユニバーシアード大学日本代表の一次登録選手にも名前を連ねる大平捕手が成長の筋道を振り返る。
大学2年生までは一般就職するつもりだった
大平 達樹選手(桜美林大学)
捕手・大平の前には最初から大きな壁が立ちはだかっていた。桜美林高校3年生の夏の大会は初戦敗退の悔しさを味わったが、大学でも野球を続けたいという思いを強く持っていた大平捕手は、当時、首都大学リーグで1部に手がかかるところまできていた付属の桜美林大学に進学することを決め、敗戦後も練習を続け、意気揚々と大学野球に足を踏み入れた。だが、隣には強豪・日大三で甲子園にも出場していた同級生の湯本祐基捕手がいた。
「誰が入ってくるとかはまったく考えていなかったです。湯本の存在は高校のときからもちろん知っていましたから正直、きついなと感じていました。実際、湯本はすぐに主力キャッチャーとなって、僕はAチームには入れてもらっていましたけど、なかなか公式戦には出られない。今は頑張ってプロに入りたいと考えられるようになりましたけど、2年生までは一般就職するつもりでいました」
2年生の秋のリーグ戦が終わると本気でポジションを変えることも考えた。しかし、そこからの2年間で別のポジションがどこまでうまくなるかは疑問だと感じたし、なによりキャッチャーへの愛着があった。はじめは決して乗り気ではなかったものの、肩の強さを見込まれて中学2年生の冬から本格的にキャッチャーを始め、高校で工藤 真彦監督にキャッチャーのいろはを学び、勝つことの喜びを知るにつれて扇の要が自分の居場所だと思うようになっていた。
「責任の大きなポジションだけに負けると悔しいですけど、勝ったときの喜びも大きくて、やっぱり楽しいです。高校で初めて公式戦でマスクをかぶったのは1年の秋なんですけど、その試合で勝ったときの嬉しさは今も覚えています。やっぱり、やりがいがあります」
高校時代、まず取り組みに力を入れたのがショートストップ。
「ショートストップは恐怖心があるとうまくならないと聞いていたので、最初は1メートルもないくらいの距離から、ショートバウンドを投げてもらう。それをしっかりとした捕球態勢を作って前に落とす。それを段々と距離を離していって、球も速い球にしていく。それはみっちりやりました」
捕球してから送球に移る際の動きも徹底して体に染み込ませた。
「内野手が練習で使う、板のような平らなグラブがありますよね。あれを持って捕球姿勢で構えて、1メートルくらいの距離でトスをしてもらう。それを、腰を切る感じで右側にはたいて投げる前の形を作る。グラブは右耳に持ってくるような感じです。それを30~50回を、セット数を多めでやっていました。パンッ、パンッ、パンッとテンポ、リズムよくはたいていくのがポイントで、それを続けてから動きにキレが出るようになりました」
そうした技術を先に固めようと考えたのは、配球にじっくりと向き合いたかったからだ。
インコースを使う重要性
大平 達樹選手(桜美林大学)
「工藤監督には、よく『おまえは自分に酔っているだけでバッターを見ていない』と指摘されていました。当時は1球ごとによく球種を変えていたんです。でも、『真っすぐを投げて、次に変化球を投げればバッターは泳ぐわけじゃない』ということを言われて。自分の考えだけで配球を決めるのではなく、常にバッターを見るように言われました。
それで注意するようにしたのはファールだったり、空振りだったり、スイングをしたときの感じから、バッターが何を考えているのかを察知するようにしていました。あと、2ストライクに追い込まれるとバットを短く持ったり、スタンスを広くしたり、スイングが小さくなってファールの質が変わったりするバッターがいるので、そうした変化を見逃さずにバッターの狙いを考えて、その通りにさせないように球を選んでいました。
それと、それがチームで変えているのか、個人でやっているのかというのも見極めます。チームでやっていることなら、基本的には同じ考え方でいいんですけど、個人のときはわからないので一巡目に探っていく感じです。でも、高校時代は本当に配球は悩んでいました。今の高校生たちにアドバイスするとするなら、インコースは勇気をもって使った方がいいということですかね。中に入ると長打があるので僕も怖くて出しづらかったんですけど、ボールになったとしてもバッターは放られると外が遠く見えたりしますし、キャッチャーとしては配球がすごく楽になる。
それはリーグ戦でマスクをかぶらせてもらえるようになって改めて感じます。インコースをどれだけ投げさせられるか。ボールになってもいい場面なら、思い切りついていいよというジェスチャーもしてあげるといいと思います。それが伝わらずに甘く入って痛打されたらもったいないですからね。もしピッチャーにインコースに投げ切れる技術がなくてもインコースに動いてミットを叩いて『ボールでいいよ!』と呼んだりして、とにかくバッターにインコースを意識させるようにすることは大事だと思います」
後編では、千葉ロッテ1位入りした佐々木千隼投手との出会いで学んだことや、今、大平選手が実践しているキャッチングについて語っていただきます。
(インタビュー=鷲崎 文彦)
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