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正しいフォームで投げていても安心できない!物理的ストレスを理解して肘を守ろう!

2016.12.30

正しいフォームで投げていても安心できない!物理的ストレスを理解して肘を守ろう! | 高校野球ドットコム

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。

 野球は競技特性上、投げる動作を繰り返すスポーツです。どうしても投球側の肩や肘に大きな負担がかかりやすく、肩や肘の痛みで練習を休んでしまった選手も少なくないことでしょう。肘関節は小さな関節なので、物理的ストレスに弱く大きな負担がかかりやすいことを理解し、肘を痛めないためのコンディショニングについて考えてみましょう。

正しいフォームで投げても肘は痛くなる

正しいフォームで投げていても安心できない!物理的ストレスを理解して肘を守ろう! | 高校野球ドットコム

正しいフォームで投げていても投げすぎると肘を痛める

 肩や肘を痛める原因はいろいろありますが、崩れた投球フォームや力学的に無理のあるフォームで投げ続けると投球側の肩や肘を中心に痛みを起こしやすいと言われています。正しいフォームというのは人それぞれなのですが(骨格や体力、筋力、柔軟性などに個人差があるため)、なるべく肩関節や肘関節に負担のないポジションで身体全体を使って投げることがよいとされています。

 上半身に頼ったフォームは特に肩や肘を痛めやすいため、地面から伝えられるエネルギーを下半身から上半身に効率よく伝えていくことが、ケガをしにくいフォームであると同時にパフォーマンスにも直結するものではないかと考えられています。ただし正しいフォームで投げ続けていたとしても、疲労によってフォームが崩れてくると当然肩や肘に負担がかかるようになりますし、小さな関節である肘関節は正しいフォームで投げ続けていたとしても限界を超えてしまうとやはり痛みを誘発することになります。

成長期の骨は柔らかく負担がかかりやすい

 整形外科のドクターを中心とした日本臨床スポーツ医学会学術委員会は1995年に「青少年の野球障害に対する提言」として、投球動作の繰り返しによるケガ予防のための提言を掲げています。特に成長期である小学生から高校生にかけては、骨が柔らかく、筋肉が収縮することによって牽引ストレスがかかり、肘だけではなく膝や肩にも大きな負担がかかることが知られています。

●日本臨床スポーツ医学会学術委員会の提言より(一部抜粋)
1)野球肘の発生は11、12歳がピークである。したがって野球指導者はとくにこの年頃の選手の肘の痛みと動きの制限には注意を払うこと。野球肩の発生は15、16歳がピークであり、肩の痛みと投球フォームの変化に注意を払うこと。

2)野球肘、野球肩の発生頻度は、投手、捕手が圧倒的に高い。したがって各チームには、投手と捕手をそれぞれ2名以上育成しておくのが望ましい。

3)練習日数と時間については、小学生では、週3日以内、1日2時間をこえないこと、中学生・高校生においては、週1日以上の休養日をとること。個々の選手の成長、体力と技術に応じた練習量と内容が望ましい。

4)全力投球数は、小学生では1日50球以内、試合を含めて週200球をこえないこと。中学生では1日70球以内、週350球をこえないこと、高校生では1日100球以内、週500球をこえないこと。なお1日2試合の登板は禁止すべきである。

5)練習前後には十分なウォーミングアップクールダウンを行うこと。

特定の選手に過度な投球を強いるとオーバートレーニングにつながり、ケガをしやすくなってしまいます。このため特に投手や捕手はチームに複数いることが望ましく、投球数についても目安の球数を知っておくことが大切です。

[page_break:身体全体の柔軟性を高めること / 肘痛の見分け方とフォームの問題]

身体全体の柔軟性を高めること

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下半身の柔軟性は肩や肘へのストレスに直結する。しっかりストレッチを行おう

 成長期の身体では骨の成長が筋肉に比べて早いため、骨についている筋肉は伸ばされた状態で動いています。この筋肉の力が強くて、骨の付着部が弱い場合は骨が引っ張られて剥離骨折を起こしたり(膝のオスグッド、分裂膝蓋骨など)、骨膜炎を起こしたりすることがあり、筋肉の柔軟性が低い状態であれば関節可動域(関節の動く範囲)が狭いということになります。

 高校生になると小中学生のような柔軟性の低さは改善されてきますが、練習量が増えることによって疲労がたまりやすくなり、やはり柔軟性が低下してくることになります。肘が痛くなるとどうしても肘のケアやコンディショニングをメインに考えて対応することが多いと思いますが、肘への対応と並行して下半身を中心としたストレッチを行い、柔軟性を改善させることが非常に重要になってきます。

肘痛の見分け方とフォームの問題

 投げ始めたときに肘に痛みを感じていても投げているうちにだんだん痛みが軽くなってくることがあります。このような場合はウォームアップを入念に行うことで肘関節やその周辺の筋肉が温まって血行が良くなり、スムーズな動作が出来るようになったと考えられます。ただし、ジンジンとした痛み(炎症症状)や投げ始めから投げ終わりまで一貫して肘に痛みがある場合は、投球動作を中止してRICE処置などを行い、スポーツ整形外科等を受診して医師の診察を受けるようにしましょう。

 肘周辺部や指先までを意識したストレッチを行い(参考コラム:「肘痛のメカニズムとストレッチ方法」を参照)、下半身の柔軟性とあわせてケアをしていくようにしましょう。

 肘は小さな関節であること、過度な投球ストレスには弱いことなどを考慮するとともに、身体全体のコンディショニングもしっかりとチェックしながら、肘痛を予防していきましょう。

【物理的ストレスから肘を守る】
●崩れたフォームは肩や肘に負担をかけやすい
●正しいフォームで投げていても、投げすぎると肩や肘を痛める
●成長期の骨は柔らかく、牽引ストレスによって剥離することがある
●下半身の柔軟性が低下すると、その影響で肩や肘を痛めやすくなる
●投球始めから最後まで肘の痛みが続く場合は、早めに医療機関を受診する
●肘周辺部だけではなく、身体全体のコンディションを常にチェックしよう

(文=西村 典子

次回コラム公開は1月15日を予定しております。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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