Interview

吉田 正尚選手(オリックス・バファローズ)「自分が持っているパワーを最大限伝えることができるか?」【前編】

2016.10.11

 身長173センチ。プロ野球選手としては小柄な体つきながら、豪快なフルスイングから放たれる長打力でファンを魅了する吉田 正尚選手。ルーキーイヤーの今季は開幕スタメンを勝ち取るも、4月末に腰痛を発症。長期離脱を余儀なくされたが、8月中旬に復帰すると本領を発揮し、閉幕までの約1か月半でプロ初ホームランを含む、10本塁打を記録した。

 球団の新人としては実に47年ぶりとなる4番の座もシーズン最終戦で経験。来季以降のさらなる飛躍が期待される若き和製大砲のバッティング論に迫るべく、オリックス・バファローズの本拠地、[stadium]京セラドーム大阪[/stadium]を訪れた。

体のパワー面で優位に立てた時期は1度もなかった

吉田 正尚選手(オリックス・バファローズ)

「よろしくお願いします!」
ホーム用のユニフォームを身に纏い、インタビュールームに現れた吉田選手。「高校野球ドットコム、存じてます!」とのっけから嬉しいことを言ってくれる。ルーキーとは思えぬ、威風堂々とした佇まいが印象的だ。

「小学生の頃から同学年の中で身長が真ん中よりも後ろになったことは一度もないです。常にその年齢の平均身長で推移してきた感じで、野球の世界に限定すると、いつだってやや小柄の部類に入ってしまう。体のパワーという面で優位に立てた時期は一度もないですね」

 ところが長打力に関しては「小学生時代からあったほうだと思う」と吉田選手は話す。
「自分よりも体が大きくて、いかにも力がありそうな選手と比べても、ことボールを飛ばすことに関しては自分のほうが上、というケースが珍しくなかったんです。『力の伝え方、力をインパクトに集中させるコツのようなものを自分は生まれつきもっているほうなのかな?』という感覚は小学生の頃からありました」

 体が大きく、筋力のある選手が必ずしもボールを遠くへ飛ばせるわけじゃない。裏を返せば、体が小さくても全身の力をきちんとボールに伝えることができれば大きな選手よりも飛距離を出すことだってできる。小学生の段階でこの事実を実感できたことが、「バッティングにおけるパワー」というテーマを考察する上での礎となった。

「筋力という意味でのパワーはあるに越したことはないと思うので、準備作業の一環として、筋力アップは図ります。ただし、そのパワーはきちんと使いこなせないと持て余す結果になってしまう。一番大事なことは、そのパワーをどう使うか。いかにして自分がもっているパワーをインパクトの瞬間に最大限に出力できるか。そのことを常に考えながらバッティングと向き合ってきた気がします」

[page_break:吉田 正尚の「トップ論」]

吉田 正尚の「トップ論」

青山学院大時代の吉田 正尚選手(オリックス・バファローズ)

 以前、「フォーム面ではトップを作った際の手の位置を大事にしている」と語っていた青山学院大学時代の吉田選手のインタビュー記事を目にしたことがある。「プロとなった現在もその考えに変化はありませんか?」との問いを投げかけたところ、「トップはバッティングにおいて不可欠な準備段階。変わらず大事にしています」という答えが即座に返ってきた。

「インパクトポイントまでの距離をしっかりとれるよう、後ろの大きい、深いトップを取ることを意識しています。トップからインパクトまでの距離が長い方がバットを加速するための距離を確保できるため、強いインパクトにつなげることができる。ためを作って手を後方に残せる分、キャッチャー寄りのポイントで打つことも可能になりますし、ボールの見極めもよくなります」

 打撃における理想のトップの位置は、「投球動作の際のトップの位置をイメージすると手に入りやすい」と吉田選手は続けた。
「自分は左打ちなので、左投げの選手がボールを投げる際のトップの形がバッティングにおける理想のトップの位置だと思っています」

 気を付けているのは「トップの際に手が背中側に入らないようにすること」だ。
「手が背中側に入ると、背番号が投手に見えるくらいに過度に体をねじってしまうことにもつながりますし、顔の向きもずれてしまう。バットもスムーズに出なくなってしまいます。トップを作る動作は弓矢をひく動作によく例えられますが、弓矢は背中側ではなく、キャッチャー方向に引くことが大事。そうすることでいいバッターが共通して備えている、広い懐も手に入れることができると考えています」

[page_break:常識を疑った先に見つけたもの]

常識を疑った先に見つけたもの

吉田 正尚選手(オリックス・バファローズ)

「子どもの頃から『バッティングは奥が深い』と感じていました」と話す吉田選手。バッティングに対する探究心は少年時代から相当強かったようだ。

「よくパソコンで動画サイトを見たり、野球雑誌を読んだりしましたね。しょっちゅうバッティングのことを考えていましたし、いいかもしれないと感じた練習法はどんどん試していました。そのかわり一回試してみて、これは違うなと感じたことは、指導者に言われても聞き流すようにしていました」

 野球界で常識とされていたことに対しても疑問を投げかけるタイプだった。吉田選手はひとつの例を挙げた。

「昔から日本の野球界では『バットは耳のそばからインパクトに向かって上から最短距離で叩け!』という指導法が根強いじゃないですか。ぼくも小学生時代から『バットは最短距離で!』『後ろは小さく!』と言われ続けてきたので、それが打撃における常識だと思っていました。でも中学生になった頃、『投球を点ではなく、線でとらえやすくするためにも、最短距離で上から叩くのではなく、後ろを大きくして、ややアッパー気味にバットを入れたほうが確率も上がるし、インパクトまでの距離が取れる分、ボールも飛ぶんじゃないのかなぁ?』と考えるようになったんです」

 疑問を感じていた時期に、当時ヤクルトに在籍していた青木 宣親選手(現マリナーズ)が自身の打撃論を語ったスポーツ番組がテレビで放映されていた。

「その番組の中で、青木選手は『投球のラインに長くバットを入れるためには、上から最短距離で叩くのではなく、後ろが大きいイメージでスイングした方がいい。そのほうがミート率も飛距離もアップする』といった内容の打撃論を展開していたんです。すごく合点がいきましたし、自分の考えは間違ってはいないと思うことができました」

 吉田選手は「といって、上から振り下ろす大根切りのような最短距離のイメージのスイングがダメというわけじゃないんです」と続けた。
「高めの速球など、大根切りのイメージでスイングした方がとらえる確率が高まるケースもあるからです。変化球ひとつとってもいろんな変化の仕方がありますし、スイングの種類がひとつだけではなかなか思うような結果は残らない。バッティングの確率をトータルで上げるためにも、数パターンのスイングを使い分けるべき、というのが自分の考え方です。ちなみにぼくはミートポイントに至るまでのスイング軌道を3パターン持っています」
 

 後編では吉田尚選手が最後に語ってくれた3パターンのスイング軌道。そして高校球児へメッセージをいただきました。

(文=服部 健太郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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