Column

県立鳴門高等学校(徳島)「春夏甲子園王者を下した 鳴門流『自然体ゲームプランニング』」

2016.10.10

 この夏、徳島県勢として初の5年連続となる夏の甲子園出場を果たした徳島県立鳴門高等学校。甲子園では開幕戦で佐久長聖(長野)を下し、2回戦センバツ王者・智辯学園(奈良)に競り勝ち、3回戦では盛岡大附(岩手)に打ち勝ってベスト8。準々決勝では惜しくも明徳義塾(高知)に敗れたが、「希望郷いわて国体初戦での作新学院(栃木)相手の大逆転勝利・3位含め、2016年後半の日本高校野球界に大きなインパクトを残したことは間違いない。

 では、彼らはなぜ春夏甲子園王者を下す快挙を演じることができたのか?今回はその原動力となっている「自然体ゲームプランニング」を分析していきたい。

分業で概要伝え、細部は任せる「ゲームプランニング」

県立鳴門高等学校(徳島)「春夏甲子園王者を下した 鳴門流『自然体ゲームプランニング』」 | 高校野球ドットコム

鳴門の選手たちへの「ゲームプラン」伝達者・福本 学コーチ(左)と橋本 治男コーチ(右)(県立鳴門高等学校)

「まずはビデオを見る。その上で相手の特徴を見て『こういう風に攻めていけ』ということは伝えます。勝敗はそれができるかどうか、ですね」

 森脇 稔監督が話すように、鳴門のゲームプランニングは極めてシンプル。とはいえ、その裏側には綿密な調査がある。打者の傾向や、甲子園2回戦智辯学園戦で大いに活かされた過去の練習試合データ等がベースだ。

 智辯学園の場合で言えば、今年5月21日に両校は鳴門市招待試合で対戦(智辯学園5対3鳴門)。「鳴門市招待試合では河野(竜生・3年・左投左打・174センチ72キロ・鳴門第二中出身)が結果的に抑えていた(失点は初回のみ・6回2失点)し、なによりも相手が嫌がっていた」。このデータを最大限に活かしたことがセンバツ王者を倒すことにつながっている。

 攻略の概要を伝えるのは指揮官。そこからもう1つ突っ込んだ部分を伝えるのはコーチの仕事。打撃担当の福本 学コーチが企業秘密のさわりを明かす。
 

「ウチは1・2番に対する相手投手の攻め方を重要視しています。1番の日野(洸太郎・3年・遊撃手・右投両打・167センチ62キロ・藍住町立藍住中出身)と2番の鎌田(航平・3年・二塁手・右投左打・180センチ72キロ・上板町立上板中出身)ですが、ここへの攻め方を見れば、全体に対する攻め方が見えてくる。1人1人の攻め方からトータル的な攻略を考えます」

「1・2番で様子・出方を探る」は野球の定石であるが、裏返せば相手投手の傾向が判明するのも1・2番の時。鳴門はそれを逆利用するのだ。

 一方、鳴門では投手の相手打者攻略法は他校とは一線を画す。「まずは4番の攻略から。一番厳しいボールを投げるように言っています」と話すのは投手担当の橋本 治男コーチ。また、橋本コーチは第一打席で「ビデオで見たものの確認」を行い、そこから攻略法を探っていくことも指示している。

[page_break:「チャレンジャー精神」と「研究」が功を奏した甲子園]

 もう1つ。鳴門には県大会レベルから詳細に相手校の分析を行う部員がいる。旧チームで言えば三塁コーチを務めていた斎藤 龍之輔(3年・外野手・右投右打・175センチ71キロ・鳴門市第一中出身)。彼がリーダーとなって作成した相手校データは、史上初の5連覇へのプレッシャーがかかっていた徳島大会の勝負どころで効果を発揮した。
 

 その上で、試合中に技術・体力・メンタルが発揮できれば勝つ。それが鳴門の勝利への方法論だ。事実、甲子園でも智辯学園戦や盛岡大附戦では「行け!」の一言で指揮官は選手たちの背中を押した。

「ただ、実際にプレーをするのは選手ですから。特にバッテリーの配球は『試合中に自分で感じたもので修正しろ』と言っています」と細部は選手に任せていることを示唆した森脇監督。では、今度は「希望郷いわて国体」に備え、汗を流していた主力選手たちに聞いてみよう。

「チャレンジャー精神」と「研究」が功を奏した甲子園

県立鳴門高等学校(徳島)「春夏甲子園王者を下した 鳴門流『自然体ゲームプランニング』」 | 高校野球ドットコム

右から手束 海斗・佐原 雄大・鎌田 航平・日野 洸太郎・河野 竜生(県立鳴門高等学校)

 登場頂いたのは河野、佐原 雄大(3年・捕手・177センチ89キロ・右投右打・徳島ホークス<ヤングリーグ>出身)、鎌田、日野。そして旧チームキャプテンの手束 海斗(3年・中堅手・172センチ81キロ・右投右打・鳴門市立大麻中出身)の5名。まず、高校通算40本塁打の4番・キャプテンの手束が最後の夏を思い出し、佐久長聖戦での大会第1号のごとく口火を切った。

徳島大会ではチームが受けて立つ雰囲気だったので、そこをチャレンジャーの気持ちにすることに気を遣いました。でも、甲子園に入ってからはみんな格上だったので、チャンレンジャーの気持ちを忘れず、ガムシャラに向かっていく感じでした」

 気持ちの乗った状態で入った聖地。その中でも「野手陣は相手投手のクセを見つけたり、配球の入り方を見て、まずはチームで狙い球を決める」(手束)ことを毎回のミーティングで徹底した。例えば智弁学園戦・センバツ優勝投手の村上 頌樹(3年)対策は「チェンジアップに合わせたら打てない。ストレートに合わせて初球から振っていく」だった。

 では、バッテリーはどうだろう。自衛隊を志望している日野と共に、国体を最後に野球から離れる高校通算14本塁打の5番・佐原がキャッチャーマスク視点で語る。
智辯学園で言えば、序盤は初球からストライクを取ることを心がけました。特に3番の太田 英毅(2年・二塁手)と4番の福元 悠真(2年・右翼手)に対しては他の打者とは違う攻め方をして。終盤は相手が焦っていることが分かったので、ボール球に手を出してくれて楽になりました」

「ツーシームをボールになってもいいから厳しいコースに投げたら、相手が振ってくれました」。最速145キロ左腕・河野がすかさず補足を加える。この配球が逆転劇の礎となった。

[page_break:普段の練習の積み重ねが「自然体ゲームプランニング」へ]

 守備ポジショニングはさらに試合中の流れを大事にしている。
「捕手から出るサインとコースを見て一歩目の切り方を決める」鎌田と、「バットのスイング軌道を見て一歩目の方向性を切る」日野が組む二遊間に「1打席目はだいたい。打者の傾向を見て2打席目以降のポジショニングを決める」(手束)を中心とする外野手が連動。 

 ここで得た自信は「ビデオを見たら相手投手はよかったし、打ち合いになるとは思わなかった」と全員が口をそろえる中「楽しくやろう」をテーマにした盛岡大附戦での11安打11得点に結び付いた。

普段の練習の積み重ねが「自然体ゲームプランニング」へ

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ロング走にも笑顔があふれる3年生たち(県立鳴門高等学校)

 とはいえ準々決勝春季四国大会の再戦となった明徳義塾戦では今まで通りではいかなかった。
「春の四国大会で明徳義塾に敗れている(2対3)コンプレックスが特に攻撃面であったと思う。河野が3点に抑える十分な出来だったのに、緩い変化球が打てなかった。秋も(済美<愛媛>)の前に初戦敗退。四国で勝てないことで意識が出たと思う」

 指揮官が振り返る。「智辯学園と比べてコンパクトに振ってきた」河野が明徳義塾に4回までに3点を失い、「徳島大会のような受けて立つ形になってしまった」(手束)打線も3安打。知り過ぎる相手にどう戦うか。それらの課題は新たにキャプテンに就任した冨士 佳資(2年・一塁手・右投左打・168センチ68キロ・徳島ホークス<ヤングリーグ>出身)後輩たちに引き継がれることになった。

 それでも3年ぶりベスト8入りの栄光が揺らぐことはない。では最後に聞こう。鳴門にとって「ゲームプランニング」とは?

「でも実際、ウチのチームは全く考えてないですよ。試合前のバッティングでもピッチングマシンのスピードやスライダーのキレを出すくらい。甲子園は練習試合と一緒の感覚です」と話した手束をはじめ、「リラックスしかしていなかった。楽しむだけでした」(河野)「リードも徳島大会から特に変えたこともないです」(佐原)と、彼らからは 「いつも通り」の言葉が並ぶ。そこで浮かんだのは森脇監督の言葉である。

「ウチはノックをしない。限られた時間の中で総合的な練習から生きた打球を捕る」
すなわち練習は実戦と連動するもの。この積み重ねが鳴門流「自然体ゲームプランニング」を生み出す原動力なのだ。

「それこそ、楽しむしかない。甲子園より楽しむ」と誓い合った「希望郷いわて国体」では夏の甲子園王者・作新学院を破る3位で最後を締めた鳴門。秋季徳島県大会初戦で選手9人の穴吹に敗れ、長い冬を過ごすことになった後輩たちに、進むべき道を指示した3年生たちは、それぞれの場所で今度は人生のプランニングを考え、歩んでいく。

(取材・文=寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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