Column

つくば秀英高等学校(茨城)

2016.05.11

 江柄子 裕樹(巨人)、山田 大樹(ソフトバンク)、塚原 頌平(オリックス)、野澤 佑斗(ソフトバンク)と、近年、プロ野球界へ立て続けに投手を送り出している、つくば秀英高校(茨城)。今年も長井 良太とOBの中塚 駿太(白鷗大)の2投手がドラフト候補と目されているなど、好投手の育成に関して高い実績を誇る同校では、投手陣にどのような指導を行っているのだろうか。

調子が良い状態で臨むための基本的な調整方法

ランニングの様子(つくば秀英高等学校)

 つくば秀英森田 健文監督はこう話す。
「ウチは練習場に十分な広さがないので、砂を敷いたトラックを走るのとブルペンでの練習がメインになります。でも、この環境だからこそ、140キロを超えるストレートを投げる投手が生まれてくるのだと思っています」

 つくば秀英の練習場は内野のノックができるくらいの広さのグラウンドを中心にして、右側に外野のノックなどを行う細長い長方形のグラウンド。手前にウエイトルーム。奥に打撃練習などを行う屋内練習場とブルペン。そして、左に前述のトラックがある。

「実戦練習は週2回、市内のグラウンドを借りてやっているのですが、それ以外の日は、ここで練習しています。冬場、投手陣の練習は約200mのトラック5周×3本を4分の設定で走ってから始めました。そのあとキャッチボールをしたら、すぐにブルペンに入って投球練習。練習場所が狭いからこそトレーニングとピッチングに特化した練習ができているんです」(森田監督)

 こうしたトレーニングを地道に積み重ねている、つくば秀英の投手陣。今春の公式戦を前にしても、一週間前までは特別な調整はしなかったという。エースの長井投手は「普段通り、ランニングを多く取り入れた練習をずっとやっていて、大会まで一週間をきったところから疲れを抜きながら、ピッチャーの投球に欠かせない瞬発力を刺激するような練習を増やしていきました」

 地区予選の初戦に登板した赤司 太一投手と黒田 佳吾投手も長井投手とともに前日は同じメニューをこなしたという。
「体のキレを良くするために、ダッシュ系の練習を多く組み込んで準備をしました。以前はランニングだけで体のキレのことは考えていなかったのですが、中学時代にこのやり方をコーチに教わってからは、ずっと続けています」(赤司投手)

「昨年の秋くらいから、調整でダッシュをするようになりました。普段は長い距離を走っていて遅い動きに慣れているので、ダッシュをして速い動きに体を慣れさせておくのが良いと思います」(黒田投手)

 今後も森田監督は「投手陣はそれぞれ自覚を持って日々の練習に励んでいますし、ピッチングコーチも見てくれているので、私からは細かい事を言わずにある程度は任せていくつもりです」と話す。

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 ただ、明らかに調子を落としている投手に対しては「気分転換も兼ねて、一週間、ピッチングを全くやらせずに徹底的に走らせます。いわゆるミニキャンプですね。そうやって、もう一度、体を作り直してからブルペンに入れます。高い意識を持っている選手は、きちんと頑張って戻ってきてくれますね」(森田監督)

 また、疲れは残さないような工夫もしている。
「夏の連戦が続いた時は水風呂に入らせます。子供用のプールに氷を入れて水をはり、10分×2セットで腰から下を冷やします。下半身の張りをとることで疲労も回復しますし、懇意にしている病院では氷嚢を入れたパックを使ってアイスマッサージなどもやってもらっています」(森田監督)

数多くの速球派投手を育てたメソッドを紹介!

柔軟体操をする選手達(つくば秀英高等学校)

 その日の疲れは、その日のうちにできるだけ取っておく。それでも故障者は出てしまうものだが、ケガを抱えている選手には練習に戻る予定日を紙に書かせて、できるだけ早く復帰する意識をつけさせておくという。

「もちろん医師の診断を無視することはできませんが、『痛みがなくなれば大丈夫』と言われているのに、痛みがなくなっても次の診断まで練習をしないというのではもったいない。その点、ウチには野球経験者のトレーナーがいるので、彼に診てもらって、できるだけ休む期間を短くするようにしています。練習ができないというのは本当にもったいないですし、体を元の状態まで戻すのにも時間がかかりますから」(森田監督)

 また、つくば秀英といえばピッチャーの球速が速いことで知られているが、チームにはボールを速くするためのメソッドが存在している。

「以前、監督をされていた沢辺 卓己さんという方がいらっしゃって、その方が投手の育成にものすごい情熱を傾けていて、その研究の中から編み出されたものなのですが、ボールを投げるのに筋肉が必要ならばボディビルダーが一番速いボールを投げるはずです。でも、実際は岩隈 久志投手(マリナーズ関連記事)や岸 孝之投手(西武関連記事)のような細身でも150キロを投げることができる。

 なぜなのかといえば、体の軸が小さく鋭く回っているからなんです。右投手の場合、投球モーションに入ったら左の肩甲骨をはがすように内側に入れ、体を開かないまま体重移動をしていって、投げる瞬間に左の肩甲骨を右の肩甲骨にぶつけるようなイメージで体幹を鋭く回す。そうすると腕は自然と振れるんです。その時、下半身はどう使うかというと、まず上げた左足は右の股関節に入れます。

 この時、股関節が球体であることをイメージして、その球体を一度、上に引き上げてからうねらせるようにして左足を踏み出して投げるんです。左の骨盤を右の骨盤に乗せていくような感じですね。ウチの投手志望の選手には、入部した時にこのフォームを教えます。もちろん、全員が理解できるわけではありませんし、身に付くまでに時間がかかる選手もいますが、2年の夏くらいまでに理解できた選手は伸びていきますね」(森田監督)

 こうして体の使い方が上手くなると、自然とつくべきところに筋肉がついていく。

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[page_break:短期間で数多くの速球派投手を生み出したのは確かな理由があった]

短期間で数多くの速球派投手を生み出したのは確かな理由があった

森田 健文監督(つくば秀英高等学校)

「よく良い投手はお尻が大きいと言われますが、左足を上げて右の股関節に入れる時は右のお尻の筋肉を使うんですね。そして、投げたら、今度は左の股関節に入って、左のお尻に負荷がかかるんです。だから、この投げ方をしていると、大殿筋が大きくなっていくわけです。良い投手のお尻が大きいのはランニングをしたからではなくて、良い投げ方をしているからなのだと思います」(森田監督)

 また、シーズンオフにはOBが練習場を訪れ、良い見本を見せてくれるという。
「塚原や中塚が来てくれたんですが、キャッチボールの時、全然、力が入っていないのにすごいボールが行くんですよ。部員たちにとっては目指している理想のボールを見せてもらっている訳ですから良い勉強になっていますし、そのあとのトレーニングに打ち込む意欲も掻き立てられます。こうやってオフシーズンになるとOBが戻ってきてくれるのはウチの良い伝統ですね」

 当然、トレーニングをすることで体力や筋力をつけることも必要だ。
「この冬はピッチング練習と縄跳びを組み合わせて練習させていました。二人一組になって、10球投げたら、縄跳びを100回跳ぶという運動を交互に行って、これを多いときは20セット。つまり、投げ込みを200球と縄跳びを2000回やらせたのですが、やはりスタミナがついたと思います」

 さらに、練習場のすぐ近くに寮があるため、食事もすぐに摂ることができる。
「トレーニングをしてから30分間はゴールデンタイムと呼ばれ、その間に食事をすると体が大きくなると言われていますが、ウチはユニフォームのまま行き来することができるのでタイミングを逃さずに食事ができます。以前、同じような力を持った投手が2人、入部してきたことがあったのですが、一人は寮で、もう一人は通いでした。通いの部員も補食としておにぎりを持ってきていましたが、この2人には体格に差が出てしまったので、やはり米だけではなくおかずも含めた食事を摂った方が体は大きくなると思います」

 理論、トレーニング、体格……、短期間でプロ野球の投手を多数、生み出したのには、それだけの理由があったのだ。

 一方で、つくば秀英はいまだ甲子園に出場した経験がない。夏に向けて森田監督は「6月の一週目くらいまでは様々なトレーニングで体に負荷をかけ、そこからジョギングなどで疲労を抜いていけば自然と大会に向けてピークになると思います。夏は負けることができませんから投手陣は長井中心で回すことになると思いますが、長井はもちろん、野手陣も全員が自覚を持って戦うようにチームを促していきたいと思います」

 夏のつくば秀英の戦いぶりに注目だ。

(取材・文/大平 明


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【5月特集】大会から逆算した投手調整方法

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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