Interview

阪神タイガース 大和選手「自慢の守備は地道な壁当てから始まった」

2016.04.01

「高校時代から自分の一番の強みは守備だと思っていました」
[stadium]甲子園球場[/stadium]内の一室で行われたインタビュー。今回の特集テーマが「勝ち取れレギュラー!自分の強みを磨く」であることを知った阪神タイガース・大和選手は落ち着いた低い声でそう言った。

 鹿児島・樟南高校時代は1年生からショートのレギュラーの座を獲得。その足掛かりとなったのは、得意の守備力を評価されたことだった。
「試合終盤に守備固めで出場するところからスタートして。少しずつスタメンで出る割合が増えていった感じです。打撃はそんなにたいしたことなかったので、守備力が平凡だったら1年生から試合に出ることはなかったでしょうね」

「壁当て」が育んだ自慢の守備力

大和選手(阪神タイガース)

 非凡なる守備力を身につけた背景を訊ねたところ、大和選手の口からは「壁当て」というワードが返ってきた。
「小学校の頃から壁当てを毎日のようにやってました。練習というより遊びの延長の感覚。漠然と壁に投げるのではなく、的を定め、そこをめがけて投げる。そして、壁に当たって跳ね返ったゴロを捕り、投げ返す。ひたすらこの繰り返しです。『どうすれば正確に捕球することができるか』『どうすれば捕球から送球までの動作をもっと素早く行えるか』といったことを考えながら、来る日も来る日も一人で壁当てに没頭してました。その積み重ねの中で、スローイングと捕球力がセットで向上していった感じです」

 中学時代に所属していた鹿屋べイスターズ(ボーイズ)の休みは週に1日しかなかったそうだが、チームの活動とは別に壁当てはほぼ毎日行っていたという。
「高校のグラウンドのベンチ裏にも壁当てができる場所があったので、高校時代も壁当てはしょっちゅうやってました。自分の守備力を築き上げたのは間違いなく日々の壁当て。壁当てをしてなかったら、きっとプロにも入れていないと思う」

 2005年度高校生ドラフトで阪神の4巡目指名を受け、高卒でプロの世界に足を踏み入れた大和選手は、自慢の守備力を買われ、1年目からファームのショートのレギュラーの座を獲得。ルーキーイヤーの2006年に大和選手の遊撃守備を初めて目撃した。その流れるような美しい所作に強い衝撃を受けたものだった。阪神のファームの本拠地である[stadium]鳴尾浜球場[/stadium]の近くに住んでいることもあり、暇さえあれば大和選手の守備を目当てに球場へ足を運んだ。時間がない時は試合前のシートノックだけを見て帰ることもあったが、それだけで十分、目の保養になった。確実性と美しさを兼ね備えた守備力は18歳にして、間違いなく一軍トップクラスだった。

強みを生かし呼び込んだ初の一軍昇格

「僕がプロに入団したとき、一軍のショートのレギュラーは当時プロ3年目の鳥谷さんインタビューが既に絶対的存在として君臨していましたからねぇ」

 ルーキーイヤーから3年連続でウエスタン・リーグの犠打王に輝いた大和選手。ファームの不動の遊撃手の座は手に入れたものの、一軍の絶対的ショートとして全試合に出場し続ける鳥谷 敬選手を押しのけてレギュラーに収まるイメージは一向に湧かなかった。
「正直、ショートとして一軍のレギュラーを狙うのは現実的には難しいなと感じていました。ファームの首脳陣もそれは感じていたようで、セカンドもできるようにと、ウエスタンのゲームにセカンドで出場する機会も設けてくれましたね」

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[page_break:未経験の外野守備を強みに変えるために]

 得意の守備力と俊足、バントの技術を買われ、一軍初昇格が成ったのはプロ4年目の2009年。起用は主に代走、二塁の守備固めだったが、一軍に必要なピースとしてこの年、66試合に出場。高校時代同様、強みを生かす形で一軍定着の基盤を作り、その後、試合に出ている時間を少しずつ伸ばしていった。
「代走や守備固めで出た後、打席が回ってくることがある。そういう機会が積み重なることで苦手なバッティングも少しずつ一軍投手のレベルに対応できるようになっていった」

 強みがあることが、苦手な要素を克服しうる機会を生んでくれる。そんな理想ともいえる流れに乗る形で、大和選手は自身の総合力を向上させていった。

未経験の外野守備を強みに変えるために

大和選手(阪神タイガース)

「一軍の出場試合数を増やし、レギュラーに近づくためには外野もできた方がいいだろうなと。内野をやってるだけじゃ状況はいつまでたっても変わらないと思ったんです」
2010年の秋季キャンプでは、自ら外野の練習を志願したという大和選手。翌2011年に一塁守備を経験した大和選手は、内外野全ポジション経験している。

 不慣れな外野ですら一軍レベルでこなせてしまう能力に驚いたものだが、聞けば「2011年のシーズンは外野フライに対する怖さがものすごくあった」という。
「内野のフライというのは上から落ちてきますが、外野フライは見え方が全然違うんです。『ちゃんとフライが捕れるのかなぁ』という恐怖と戦いながら外野を守っていました」

 外野フライへの苦手意識を克服するため大和選手が取り組んだのは「数多く打球を捕る」こと。ノックよりもフリーバッティングなどの「生きた打球」を数多く受けることで、恐怖心を取り除いていった。
「同じ打球でも正面で捕ったり、逆シングルで捕ったり、あえて体から離れたところでとったりと、いろんな捕り方でフライを捕る練習もよくやっていました。そうすることで、目測を誤ったり、体勢が崩れた時でも捕球できるという安心感が生まれますし、自分に合った捕り方もだんだんわかってくるんです」

 外野をやり始めた当初は、「スタートをわざと遅らせ、フライを捕る練習もよくやった」と語った大和選手。その練習の狙いを次のように説明してくれた。
「内野手の場合、打者が打った瞬間に打球に素早く反応してスタートを切るじゃないですか。ずっと内野をしていた僕はその癖がしみついているので外野で守っていても打った瞬間にスタートを切ってしまう。でもそれが、後ろだと思った打球が前に落ちたり、前だと思った打球が伸びて頭を越されたりするミスを誘発している面もあった。

 コーチからは『外野は慌ててスタートを切らなくても捕れる打球が多い。そういう打球は、スタートを早く切ることよりも、打球の質をしっかりと見極めた上でスタートを切ることを優先させた方が目測を誤るようなミスは減らせる』と言われ、わざとスタートを遅らせてフライを捕る練習を提案してくださった。その練習のおかげで2012年からは自信を持って外野フライと向き合えるようになりました」

 2012年には128試合に出場し、待望のレギュラーの座をセンターで獲得。2014年には外野手としてゴールデングラブ賞を受賞した。2013年には454打席で打率.273、2014年は481打席で打率.264を記録。苦手だった打撃面の成長も数字に反映させ、レギュラーの座を守り通した。

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[page_break:失敗を恐れぬ試合中のトライが強みを呼び込む]

失敗を恐れぬ試合中のトライが強みを呼び込む

大和選手(阪神タイガース)

 2012年に17盗塁、2013年には19盗塁をマークしている大和選手。その盗塁力はプロの世界で生き抜く上で欠かせない大きな武器だが、プロ入団2年目まではファームの年間盗塁数は一桁に過ぎず、「盗塁力が強み」と称せるような選手ではなかった。
「実は高校時代は盗塁に関する技術を追求したことがなかったんです。ピッチャーが動いたら走れる、という単純な意識の中で盗塁を敢行していただけ。スライディングも今にして思うとベース際での勢いが弱く、改良の余地は多分にあった。プロに入ってからも足が速い割には盗塁が下手という印象を首脳陣に与えていたと思います」

 大和選手によれば、盗塁力の変革シーズンは年間14盗塁をファームで記録したプロ3年目の2008年だった。
「3年目のシーズンが始まる前に、当時、ファームの守備走塁を担当していた中村 豊コーチに『せっかくいい足持ってるんだからもっと盗塁数増やそう』と提案され、話し合った結果、年間の目標盗塁数を15個に設定することになったんです。そのためには今までの意識じゃ無理。まずはちゃんとピッチャーの癖を見る意識を持つところから始めなさいと。以来、盗塁に対する探求心に火がつき、ベース際で勢いを落とさない強いスライディングの練習などもするようになった。最終的には目標に1個足りない14個でしたが、盗塁力がぐっと高まったシーズンでした」

「プロ入り当初はバントも苦手だった」と回想する大和選手。「当時の立石 充男野手総合コーチが失敗をしてもいいからと、試合の中でどんどんトライさせてくれたことが大きかった」と続けた。

「『今日は三塁側へのバントをファウルになってもいいからラインぎりぎりに狙ってやってみよう』といった具合に毎回試合前にテーマを決めていたんです。仮に失敗しても怒られることなく、試合の中でいろんなことにどんどん挑戦させてくれたことがバントの上達につながっていった。試合の中で決まるとものすごく自信がつきますし、その成功体験が次の成功を呼んでくれる感覚があった。

 バントを練習の中で100本練習することも大事ですが、試合の中での1本の成功体験の方が成長のスピードを助長してくれることも多々ある。指導者サイドが、選手に失敗を恐れさせることなく、いかに試合の中でトライさせてあげられるか。選手の強みを形成する上で、指導者の我慢強い姿勢は欠かせないような気がします」

 部屋の時計の針がインタビュー終了時刻をさした。最後の質問として、大和選手に今シーズンの自身の抱負を訊ねた。

「数多く試合に出ることだけです」

 決意に満ちた強い眼が目の前にあった。

(文=服部 健太郎


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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