Column

県立白岡高等学校(埼玉)【後編】

2016.01.09

 前編では自主性を促すために、ポイント制を使った取り組みを紹介してきました。後編では最後の夏に向かう3年生の様子を描きます。

グラウンド練習再開後からチームが1つにまとまる

平塚 裕樹前主将(県立白岡高等学校)

 5月のゴールデンウィークも後半に差し掛かった頃、3年生はグラウンドに戻る事を許された。
「みんなボールが使えるとなって、活気が戻りました」(平塚 裕樹前主将)

 それに並行してミーティングも毎日、続けられた。
春季大会の反省も含めて、チームの欠点を出し合いました。それで、夏に向けてウィークポイントを一つずつ潰していったんです」(永島 一樹投手)

 これは新チームが結成されたばかりの時には考えられなかった事だった。
「新チームができた当初はメンバーの個性が強くて、全然、チームにまとまりがありませんでした」(平塚前主将)

春季大会までは、相手が言った事を素直に受け入れられずに『こっちには自分の考えがあるよ』っていう雰囲気があったんですけれど、走るだけで野球ができない状況を経て、一人ひとりが相手の意見を素直に受け止められるようになって、良くないところは直すようになっていきました」(谷中 壮樹投手)

 また、普段の学校生活についても見直す事をミーティングで決めた。「挨拶などの当たり前の事をしっかりとやるようになりました。自分は勉強が苦手なんですけれど、勉強への意識も変わったと思います」(荒井 魁斗捕手)

「日頃の学校生活もきちんとするようになってから、野球面でもグラウンドに出てからの集中力が変わってきて、練習の質が良くなりました」(谷中投手)

 野球を取り上げられ、ただ走ることしかできなかった期間は選手の心を鍛え、チームに一体感をもたらした。
「練習試合で誰かがミスをしても、他の選手が『カバーしてやるから』って声が掛かるようになりました」(永島投手)
「それまでと比べて、打撃面も守備面もチームが線のように、しっかりと繋がったと思います」(矢部 陸哉遊撃手)

 その後、5月中旬以降の練習試合では、ほとんど負けなかったという白岡。「本当に粘り強くなりましたね。練習試合で7点差を付けられて負けていたゲームを、9回表に10点を取って逆転勝ちした事もありました。『負けたくない』『諦めない』という選手の気持ちが試合の中で何度も表れるようになっていたので『精神的にたくましくなったな』と感じました」(鳥居 俊秀監督)

 こうして迎えた夏の埼玉大会。チームはベスト8を目標に掲げていたが、鳥居監督には自信がなかったという。「公式戦で1勝するのはたいへんな事なんだと、この1年間味わってきていたので、保護者が開いてくれた激励会で『勝てる自信は3%しかない』と本心を話したら会場がシーンとなってしまいました(笑)。ただ、一方で『1つ勝てば、行ける』という思いもありました」

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[page_break:心の成長が夏の躍進につながった]

心の成長が夏の躍進につながった

対談風景(県立白岡高等学校)

 1回戦川越南戦、初回に満塁のチャンスをつぶしてしまい鳥居監督の脳裏には『今回もダメなのか』という思いもよぎったが、打線が10安打8得点と奮起。投手陣も谷中、永島の完封リレーで7回コールド勝ちを収めた。「『初戦で負けたくない』という思いが強くありましたが、1点、2点と取っていくうちに、以前とは違ってベンチの雰囲気や選手の表情がすごく良くなって、春季大会とは違うと感じました」(谷中投手)

 これで波に乗った白岡。「大会の前半は上位打線が打てずに下位打線が打っていて、後半は下位があまり打てませんでしたが上位が打ってくれました。試合ごとにラッキーボーイも現れましたね」と、鳥居監督が話すように、誰かが打てなかったりミスをしたりしても、他の選手がそれを上回る活躍でフォローし、勝ち上がっていった。

準々決勝埼玉栄戦は5点リードしていたのに自分が打たれて負けそうになったんです。でも、打線が逆転してくれて、自分と交代してマウンドに立った谷中がその後を抑えて勝ってくれました。自分はダメだったけれど、周りのチームメイトがカバーしてくれて本当に感謝しています」(永島投手)

 そして、準決勝浦和学院戦。鳥居監督は「試合前から選手に向かっていく姿勢があったので『これなら対等に戦えるかな』と感じていました。試合では、チームで一番足が速い大木 翼(3年)が臨時代走で出る機会があったんですが、そこで盗塁を決めて1番・鳥海 昌悟(3年)のシングルヒット1本でホームに返ってくる事ができた。そういう運にも助けられました」

 その後も4番・矢部の2本のタイムリーで追加点を挙げた白岡。投げては谷中が完投し4対1で勝利した。キャッチャーの荒井は「谷中は絶好調で腕の振りが全然、違いました。特に追い込んでからのカットボールが良いコースにしか来なくて、ボールに気持ちが乗っかっていました」

 決勝花咲徳栄戦は2対5で敗れ、甲子園出場はならなかったが、9回2アウトから満塁のチャンスを作った粘りは見事だった。
「試合後、本庄第一須長 三郎監督とお話をする機会があったんですけれど『勝ちに行くと勝てないんだよ』と言っていただいて、『確かにそうだな』と思いました。決勝の舞台は2度目(08年・上尾以来)だったのですが、勝つのは難しいですね」(鳥居監督)

 振り返ってみれば、まさに波乱万丈だったといえる白岡だが、夏の埼玉大会準優勝という素晴らしい結果を残した要因は、選手の心の成長に他ならない。そして、その裏側には、選手の自主性を促す様々な工夫があった。甲子園出場という悲願は今年のチームへと引き継がれたが、現主将の福島 大斗(2年)選手は「先輩たちの集中力を見習って、まずは春の県大会に出場してシードを獲得したいです」と話す。もちろん白岡では今後も選手の自立心を養う為に、目標数値を設定したトレーニングやノーサインでの練習試合や紅白戦が続けられていく。こうした取り組みが花開いた時、白岡はさらに上のステージへと進んでいくだろう。

(取材・写真:大平 明


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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