Column

仙台育英の野球ノート【後編】 「ノートが変わらないと、何も変わらない」

2015.10.01

 前編では、今夏の甲子園準優勝した仙台育英が取り組む野球ノートについて、佐々木 順一朗監督や、グラウンドマネージャー本田 雄太くんに語っていただきました。後編では、実際に選手たちが野球ノートをどう活用してきたのか?また、書き続けることで変化したことなどを中心に紹介していきます!

1ページの半分は自分のこと、残り半分はチームのことを

 佐々木 順一朗監督は「最終的に小論文を書けるようになってほしい」と話していたが、3年生は今、実際に小論文と向き合う時間が増えている。
「小論文は自分の考えを述べなければいけません。自分自身のことはほとんど書いていないので、周りを見て感じたことを文章にするという力は、小論文を書く時に役立っているなと感じます」

 仙台育英の秀光中等教育学校時代から「野球ノート」を書き続けてきた。
「日課として、毎日、必ずやることをやり通せたというのは、今後、何かをやる上でも大きな力になると思います。野球と関係のない場面でも自分の中の引き出しになると思います」

佐々木 良介選手のノートには名言やニュース、読書の感想なども書かれている。

 不動の「5番・一塁」だった佐々木 良介は「文章能力がなくて……。作文も得意ではなかったので最初は難しかったですね」と振り返る。1年夏までは、その日、その時、あった出来事を並べているだけで1ページの半分に満たない日もあった。1年夏からは1ページの2/3以上を書くように心がけ、2年夏、自分たちの代になってからはガラリと変えた。

「先生に言われてきたのが『自分のことだけを考えていてはダメだよ』ということでした。1ページをタテ半分に分けて、半分は自分のこと、半分はチームのことを書くようにしました。どうしても、プレーしているので自分の反省が多く出ます。その上で、チームが1日でどう変化したのかが勝利につながると思ったので、半分ずつ書くようにしました。内容は、ノートを見た時にその日の出来事がわかるように書いていました。

 例えば、試合の日はどうやって点数をとったか、(佐藤)世那2015年インタビューがどうだったか、とか。そして、改善するためにどうすればいいか、ということを書いていました。自分の調子がいいとか、悪いとか、そういうことではなく、チームのスキをいかになくせるかが大切だと考えていました」


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・9月特集 野球ノートの活用法
・2015年秋季大会特設ページ

 『野球ノートに書いた甲子園3』 特設ページ

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[page_break:三塁コーチャー・佐々木啓太の人間味あるノートとは?]

三塁コーチャー・佐々木啓太の人間味あるノートとは?

 3年間、書き続けてきた中で「印象に残っているページは?」と問いかけると、「ほとんど、印象に残っています」とキッパリ。

「できるだけ、先生から言われたことを逃さないようにして聞いています。先生、雑談が多いじゃないですか。そういうのも自分のことにつなげて書くようにしているので、どのページを見ても、その日のことが分かるようになっています。これからにも活きていくと思います。文章力はだいぶ、向上したと思います。お陰で、小論文を書いていても困らなくなりましたね。考えられるようになってから、文章を書くことが苦にならなくなりました。1、2年の頃は思っていても、どう表していいか分からないことがありましたが、そういうこともなくなりました」

 佐々木監督が「人間味がある」と評価したのが、二塁の控え、主に三塁コーチャーとしてチームを支えた仙台育英佐々木 啓太の「野球ノート」。1年生の頃のノートを見返し、「やっぱり、自分のことしか書いていませんね」と笑った。
「工夫をしたつもりが失敗したこともありました。1年3月からは今と同じ書き方ですね。次の2年6月からのノートは、間違わないで書いてみようと思い、シャープペンではなく、ボールペンで書くようにしました。自信をつけたいなと思いました。ノートからも自分にプレッシャーを与えたいなと思って(笑)」

2年生の萱場 和樹選手

 佐々木啓も学年が上がるにつれ、自分のことよりもチームのことを書くことが多くなったという。
「書き続けて、達成感がありますね。文章力もついたと思います。今、進路で小論文を書いていますが、活かされていますね。自分で考えるというのは簡単そうで難しいので」

 では2年生はどんな工夫をし、これからも記していくのか。

萱場 和樹
「チームがどうよくなるか、そのために自分はどうすればいいのかを中心に書いています。小学校の時から書くことは好きで、中学の時は個人的に日記のようなものを書いていたので書く習慣はありました。人生、大人の方が長いので、大人になって見た時に思い返せるかなと思ったんです。得意分野だったので、高校に来て、書く量も増えました。

 1年生の頃は自分のことばかり書いていましたが、先生から『自分のことばかり考えていては、チームは勝てない』と言われ、チームのことも書くようになりました。書き方としては、強調したい部分や良かった部分は赤線を、悪かったところは青線を、どうすれば良くなっていくかという部分はオレンジ色で線を引いています」


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[page_break:新チームを引っ張る2年生たちの取り組みを一挙紹介!]

新チームを引っ張る2年生たちの取り組みを一挙紹介!

2年生の須藤 隆斗選手

須藤 隆斗
「野球ノートを1冊、書き終わった時に読み返して、この日がこうだったなと思い返せるように意識しています。その日の風景を思い浮かべられるように、感じたことを書いています。1年生の頃は自分のことばかりでした。最初は書くことが大変でしたが、段々と慣れてきて、習慣になりました。先生から『野球ノートを読み返した時、どんな1日だったか思い返せるような野球ノートじゃないと意味がない』と話してもらい、1年生の途中から書き方を変えました。

 ノートに書くことで考えがまとまります。萱場のノートを見せてもらったのですが、<今日のNo.1選手>という項目を作って、この人が周りのために1番、動いていたとか書いていました。周りを見ることを大切にしているんだな、そういうのが大事なんだなと思いました。大きく周りを見るようにもなりました」

2年生の細谷 啓貴選手

細谷 啓貴
「提出するものなので、字を綺麗に丁寧に、相手が見やすいように書くよう心がけています。また、黒色ばかりだと見ていてつまらないと思うので、パッと開いた時に見たいなと思える色使いをする工夫をしています。見開いた時に一色だとワンパターンで飽きてくると思うので、クロスする感じで色分けもしています。内容は、自分のことはあまり書きません。チームとしていい方向にいくためにという思いで書いています。

 最初の頃は幼かったなと思います。野球を辞めた時に見返して、こんなにやっていたんだなと思えるノートにしたいなと思って変えました。隙間をなくして、項目も増やしました。先生から、2年生は黄色信号が出ていました。そんな学年を変えたかったので、<2年生>という項目を増やし、反省と良かったこと、明日どうするかを書くようにしました。雰囲気、声、学校生活……。書くことで、課題がはっきり見えました。野球ノートは生きていく上で財産になると思うので、いいノートにしていきたいと思います」

2年生の三浦 雄大選手

三浦 雄大

「先生からは『見返した時に鮮明にその時の映像が浮かぶように』と言われているので、それを意識して書いています。また、見返した時に為になるというか、一度学んだことからまた学べるようなノートを書きたいなと思っています。こういうことを思ったんだなとか、その時の考えが浮かびますね。これまでもチームのことは書いていましたが、グラウンドマネージャーになり、一人ひとりにも着目していった方がいいかなと思うようになりました。

 テレビを見て凄いなと思ったり、本で印象に残ったりしたことを書くこともあります。これからチームに活かしていけそうだなということですね。野球ノートは、その時の自分を映し出してくれる鏡ですかね。大切にしてきましたし、これからも大切にしていきたいです」

 日々の「野球ノート」で“書く力”“考える力”“感じる力”を身に付けている仙台育英の部員たち。感性を育てていく中で、選手たちも強く育っていった。来年もまた、甲子園の舞台で躍動するために。 仙台育英ナインは、グラウンドの中だけでなく、グラウンド以外の生活も含めて、常にひたむきに取り組み続ける。

(文・高橋 昌江


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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