県立中部商業高等学校(沖縄)【前編】
内省と指摘でチーム力を高める
6月9日(火)に行われた第97回全国高校野球選手権沖縄大会抽選会において、初戦は27日(土)に[stadium]北谷公園野球場[/stadium]・第2試合で沖縄向陽と対戦することが決まった中部商。彼らにとっては沖縄大会初参加から50年目のメモリアルイヤーでもある。
過去に2002・2004年と2度、夏の甲子園出場を果たし、4名のプロ野球選手も輩出している名門は、昨秋九州大会ベスト8、春の県大会準々決勝敗退を糧に、どのような気持ちで日々の練習を取り組んでいるのか?4人の選手と宮城 隼人監督にお話を伺ってきました。
前編では「内省」と、あえて行う「欠点指摘」によってチーム力を高める様子を追います。
名将2人とOBたち、輝かしい50年の歴史
宮城 隼人監督の声に耳を傾ける県立中部商業高等学校ナイン
1965年、全国高等学校野球選手権沖縄県大会に初出場した中部商。1983年に初のベスト8進出を果たすも、翌年から10年間白星に恵まれなかったが、2人の名将が強豪校へと変えていく。
1993年から監督を務めた神谷 嘉宗氏(現美里工監督)が97年にベスト4へ進出させると、2001年には準決勝で沖縄水産を破り初の決勝進出(準優勝)。神谷氏が育てた選手たちを引き継いだ上原 忠氏(現糸満高監督)が翌年、同校初の優勝へと導き念願の甲子園初出場。さらに上原氏は2004年にも2度目の甲子園への切符をもたらした。
またプロ野球人も多く輩出。2003年卒の糸数 敬作(亜細亜大-日本ハム)、2005年卒の金城 宰之左(広島)、2007年卒の屋宜 照悟(国士舘大-JX-ENEOS-日本ハム)、2010年卒の山川 穂高(富士大-西武)、そして今年のドラフトで上位指名確実と目されている現:富士大エースの多和田 真三郎(2012年卒)(2013年インタビュー)も中部商OBである。では、山川・多和田を指導し、今年4年目を迎える宮城 隼人監督は、どのような指導を行っているのだろうか?
「内省」を繰り返すことで「今」が生まれる
宮城 隼人監督(県立中部商業高等学校)
「良い点はそのままに、さらに自分たちが良いと思うことを足してみようということを、僕は毎年続けていますので、これが6年間続いたわけですよね。悪い点がシェイプされ、良い点が加えられてきた、凝縮されたのが今の形かなと思っています」
選手・チーム育成への確固たる哲学があると思いきや、宮城 隼人監督からは意外な第一声が発せられた。事実、中部商は毎年、少しずつ改善が図られる練習によって着実に力をつけてきた。
一例を挙げれば中部商では新チーム発足時に監督が口を出すことはない。まずは選手達に「なぜ夏に繋がらなかったか」を考えさせ、選手達自らの力で気づき、悪かった点を排除させる。徹底した内省により、選手達自身も自分自身、そしてチームと向き合ってきた。
内省は実際の練習に取り組む際も、選手たちの思考の中心部にある。
「色々な指導がある中で、とにかくやってみて、それで自分に合わないなと思ったものは無理に取り入れる必要はないと。自分にあったものをギリギリまで求めていきたい。それが試合でのパフォーマンスに繋がり勝利に繋がると思います。
自分の投球で言えば、今まで自分は、本番で思い切り投げるために体を休める傾向があったんです。でも、4月から新しく赴任してきた洲鎌弘樹先生から『逆にブルペンで納得いくボールがくるまで調整してからマウンドに上がった方が良い』というアドバイスを頂いて、やってみて自分に合っているのが解ったので、今はその方向で取り組んでいます」
このように語るのは、NPBスカウトからも注目を集める本格派・最速146キロ右腕の前田 敬太(3年)とのダブルエースを形成するアンダーハンド・伊波 和輝(3年)。そして一方の前田も内省に日々取り組んでいる。
「宮里コーチから『軸足を強く蹴ることが大事だよ』という指導を受けて、ボールの質も速さも変わりました。さらに洲鎌先生からは力を温存する方法を習いました。
これまで自分は1番から9番まで全員に全力で向かっていたのですが、それでは終盤スタミナが切れてしまう。調子の良い打者や力のある打者には全力で、調子が普通や悪そうだなという打者には、打たせて取るということでピッチングが楽になりました」
投手だけではない。宮里 豊コーチからの指導で、昨年7月に俊足を活かし右打者から左打者へ。昨秋九州大会では1番・遊撃手として出場した稲福 祐志郎(3年)も内省を重ね急成長を遂げた1人である。
「左打者になった最初はフォームが分からず苦しみました。でも、チームの左打者などに具体的に教えてもらい、結果自分の足を活かすことにも繋がりました。さらに洲鎌先生には守りのことで、守る前の心構えの準備や声かけの大切さを教えてもらいました」
このように多くを吸収し、その中から取捨選択する力が中部商の選手たちには身についている。
前向きな「欠点指摘」の構図
左から伊波 和輝選手、前田 敬太選手、稲福 祐志郎選手、知念 琢朗選手(県立中部商業高等学校)
そんな彼らの内省を頼もしく思いながら、宮城 隼人監督は過去6年間とは異なる3年生たちの行動にも気づいている。
「これまでの先輩たちのパターンだと、この時期は調子がそこまで悪くない。むしろ良かった。彼らは真逆ですよね。だから今、必死で練習に身が入っていますね」
確かに昨秋は沖縄県大会優勝。九州大会でもシードとなった2回戦で鹿児島城西(鹿児島県2位)を延長11回7対6でサヨナラ勝ちし、ベスト8に進出。九州大会を制し今年のセンバツにも出場した九州学院(熊本県1位)に0対6と完敗した準々決勝で接戦を演じていれば、センバツ初出場のチャンスも少なからずあった。
が、優勝大本命で臨んだ春季県大会では豊見城に2対3で敗れ準々決勝敗退。県大会3位以上が対象となる夏の沖縄大会シード権の座も逃した。
背水の陣で臨む最後の夏。だからこそ選手達は、キャプテン根保 飛翼(捕手・3年)を中心に何でも言い合える仲になっている。気が抜けている選手がいれば、喧嘩の一歩手前まで厳しく言い合うことも珍しくない。
実際、選手たちのインタビューでは、遠慮なく互いの欠点を指摘し合う場面も見られた。では、稲福 祐志郎と左翼手・知念 琢朗(3年)の掛け合いに耳を傾けてみよう。
稲福
「琢朗(知念)は、バッティングでは凄く頼れるけど、だからこそ守りでも、みんなをもっと安心させるようなくらい頑張ってくれたら、チームもより結束すると思いますね」
知念
「祐志郎(稲福)は、チームのリードオフマンとして出塁率をもっと高くしてもらわないといけない。守りでもショートという要のポジション。攻撃陣も内野陣も強くひっぱってくれる彼の夏に期待しています」
1つしかないマウンドを争う伊波 和輝と前田 敬太の場合はさらに顕著だ。
伊波
「自分が抑えられないときも前田くんが抑えてくれるので『頼りになるヤツだな』と。でもその逆で、彼が打たれている試合では自分が抑えてやる。持ちつ、持たれつですね(笑)」
前田
「伊波はサイドを活かしたピッチングがすごい。練習試合では『打たれちゃえ』と思ってしまうほど……あ、もちろん冗談ですよ(笑)。
そのくらい、調子がいいときのピッチングは凄い。彼に負けたくない気持ちが、秋の自分のピッチングに繋がりました。良いライバルです」
ただ、そこには一切の憎しみはない。共に甲子園に行きたい仲間であり、ライバルであるからこそ、要求し合う。これが2015年・中部商を前に進める原動力となっている。
(取材・文=當山 雅通)
後編では勝利へのルーティン。そして11年ぶりとなる沖縄大会制覇、甲子園出場への意気込みを語って頂きます!