Column

成瀬 善久投手(東京ヤクルト)が語る「プロ入り後に大きく生きた横浜高のアドバンテージ」

2015.06.06

 成瀬 善久投手や涌井 秀章投手をはじめ、松坂 大輔投手(ソフトバンク)、筒香 嘉智選手2011年インタビュー石川 雄洋選手(ともにDeNA)、近藤 健介選手(日本ハム)など、横浜高校はプロに数多くの優秀な選手を輩出している。その理由はどこにあるのだろうか。

 成瀬投手と話をしていると、その背景が透けて見えてきた。とりわけ好投手が生まれる理由は、高校時代から「9人目の野手」として高い意識を植え付けられることと関係がある。そうした練習によって技術はもちろん、もっと大事なものを選手たちは手にしているのだ。

本番の試合だけではなく、普段の練習からどれだけ意識を高く持つことが重要なのか、成瀬投手の言葉から伝わってくるだろう。

 「神は細部に宿る」。もともとはデザイン業界から生まれたとされるフレーズだが、繊細なスポーツである野球にも通じる考え方だ。

横浜高の3年間は自分にとって大きなアドバンテージ

――成瀬投手はプロでいろいろ学んだと思います。それを踏まえて、高校生に「こういう練習をしておくといいよ」というアドバイスをください。

成瀬 ピッチングはもちろん、投内連係もすごく大事です。僕が横浜高校に入ってよかったと思うのが、投内連係のレベルがすごく高いんですよ。練習の内容が難しくて、実際にやりながら「こういうことなのか」と理解して。プロに入って初めて投内連係を練習したとき、同級生の新人たちは「これ、どうやるの?」って言っているんですね。でも、僕は全部意味がわかって、違和感なく入れて。改めて、横浜高校ってすごいなと思いましたね。

――横浜高校出身の選手がプロで数多く活躍していきますが、理由があるんですね。

成瀬 ピッチャーだからこそ、だと思いますけど、そういう面って大きくて。たとえば無死、あるいは一死二塁のときにピッチャーゴロが来て、セカンドランナーが飛び出したときに二、三塁間で挟むじゃないですか。普通はサードに行かせないランダウンプレーをすると思います。横浜高校がすごいのは、二、三塁間でランダウンプレーをしつつ、バッターランナーをわざとセカンドベースまで誘うというのがあるんですよ。

――どうやるんですか?

成瀬 わざと二、三塁間で長くランダウンプレーをするんです。ランナーを半分からサード側の方に来させるとセーフになってしまうので、できるだけ半分よりセカンドベース側に寄らせて、サードがセカンドベースに追いかけつつもバッターランナーを見ながらそっちを先にアウトにして、また挟む。すごく頭を使いましたね。

――小倉(清一郎)さんの教えなんですか?

成瀬 そうですね。すごく大変でした。アウトにできなかったり、両方セーフになったら、連帯責任みたいなのもあったし。そういう高度な技術は勉強になりましたね。

――連帯責任というのは走りの練習とか?

成瀬 ちゃんと声を出せとか、ですね。練習終わりのランニングに響いたりするので、みんな真剣にやりますし。技術面はすごく、横浜高校でできてよかったなと思います。プロにもすんなり入れましたからね。むしろ、「高校でやっていたことと、プロも変わらないな」と思えたくらいなので。それは本当に光栄に思いました。

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第97回全国高等学校野球選手権大会
僕らの熱い夏 2015
[page_break:コントロールを鍛えるための方法]

コントロールを鍛えるための方法

成瀬 善久投手(東京ヤクルトスワローズ)

――制球力の話をもう少し聞かせてください。「コントロールをよくするためには握力を鍛えたほうがいい」という話を聞いたことがありますが、成瀬投手はどう思いますか?

成瀬 必ずしも強いから良い、というものではないと思います。たとえば試合終盤になって球が浮き始めてはダメなので、9イニング投げられる握力は必要だと思います。でも、どちらかと言うと、投げるスタミナと走るスタミナが必要だと思いますね。高校のときにはよく走りましたけど、プロに入って改めて「走ることは大事だな」と思いました。それに投げることも大事だと思います。

――投げるというのはキャッチボールに始まって?

成瀬 キャッチボールもそうだし、ピッチングもそうです。コントロールをつけるためには、たとえばキャッチャーが構えたアウトコースにいかに連続で投げられるか。それは集中力なんです。あと、バッターを想定して投げることも大事。ブルペンでいくら投げても、試合で投げられないと意味がないですから。

――ブルペンエースと言われてしまいますね。

成瀬 そうです。できれば実戦で投げて、いろんな感覚を養った方が良いと思います。でも高校生って、プロみたいに毎日試合があるわけではないので、シートバッティングやケースバッティングでいかに養うかだと思います。バッターとの駆け引きがすごく大事だと思いますね。

――意識ひとつで、練習の密度がすごく変わってきますね。

成瀬 はい。僕の中でコントロールがいいなと思うのは、ベイスターズの三浦 大輔さん。本当の意味でコントロールが良い、というのは三浦さんみたいなピッチャーです。僕はちょうどバッターが振りそうなタイミングのときに抜いた球で空振りをとったり、狙ったコースに1球で投げるという意味でのコントロールは良いと思います。でも僕、投げているのはけっこうアバウトなので。

――そうなんですか?

成瀬 アバウトに投げています、意識としては。でも、いざというときに1球でパンって決まることを大事にしていますね。5、6割の力で狙ったところにコントロールするのは、本当に意味がないので。全力に近い球をいかにコントロールして投げ分けられるかが、勝負だと思っています。

――成瀬投手は試合の勝負どころで、右打者の内角にズバリと突けますよね。

成瀬 それも1球でいかに投げ切れるかが重要です。いいコースに投げても、打たれるときは打たれますよね?それって結局、バッターとの駆け引きで失敗しているので。その球を投げるタイミングが失敗していたり、配球の問題になったりするとも思います。

――確かに同じ打者でも、状況次第で投げるべき球は変わってきますよね。

成瀬 それにプロの場合、いろんなバッターがいます。いいコースを打たれて、「うまいバッターだな」と思ったら、「どうやって打ったか、わかりません」という人もいるし。読みではなく、反応で打つバッターもいます。それがプロなんだなと改めて思いました。高校って多分、ヤマを張らないとインコースの厳しい球は打てないんですよ。でも、プロには反応で打てるバッターがいる。もちろん張っているバッターもいます。いろんなタイプのバッターがいるから、ややこしいんですよ。

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第97回全国高等学校野球選手権大会
僕らの熱い夏 2015
[page_break:一軍と二軍の空気感の違い]

一軍と二軍の空気感の違い

 プロ野球選手を目指してきた者にとって、ドラフト会議で指名されるのはゴールではなく、スタートラインだ。2014年には育成選手を含めて104人が指名されたものの、そのうちプロで活躍できるのはほんの一握りにすぎない。

 多くの者は2軍でくすぶったまま、ユニフォームを脱ぐことになる。プロ野球は極めて厳しい勝負の世界だ。
では、1軍と2軍を分ける差はどこにあるのだろうか。高卒4年目の2007年、16勝1敗、リーグ最高の防御率1.81という抜群の成績を残した成瀬投手は、前年、その違いに気づいたことがステップアップへのきっかけになったという。

成瀬 善久投手(東京ヤクルトスワローズ)

――成瀬投手はプロ入り4年目に素晴らしい成績を残します。飛躍にはどんな要因があったのですか?

成瀬 3年目に5勝したんです。1、2年目は1軍に上がれず、「プロに入って、自分はどうなんだろう?」って思っていました。1軍にはそれくらいピッチャーがそろっていたし、自分がファームでそんなに投げていなかったので。正直、ここまで来られるとは思っていなかった部分もあります。

――それは意外ですね。

成瀬 ひとつのきっかけになったのが、3年目の春のキャンプです。そこで1軍に呼んでもらったのが、一番で。そこから野球に対する意識が変わりました。それまでは2軍生活しかしていなくて、地元(栃木県小山市)に帰って「何やっているんですか?」と聞かれても、「野球選手です」と言えなくて。1軍に上がれなくて、すごく恥ずかしいという意識だったんです。

――そんなふうに感じていたんですね。

成瀬 僕の中では、テレビに出た人がプロ野球選手だと思っているので。3年目のキャンプで初めて1軍に呼んでもらったとき、小宮山(悟)さん、黒木(知宏)さん、小林 雅英さんがいました。その人たちの練習態度を見て、「自分もこうなりたい」と思いました。それでだいぶ意識が変わりましたね。「ここにずっといたいな」って。

――同じプロでも、1軍と2軍では相当差があるものですか?

成瀬 全然違うと思います。わかりやすく言うと、2軍はこれ以上落ちるところがないんですよ。1軍って、成績を残せなかったらファームに落ちる。でも、ファームはダメでも、試合に出られないだけであって。1軍と2軍ではメンタルも違うし。

――1軍に行ける人と2軍で終わる人を分けるものは何ですか?

成瀬 みんなプロに入るくらいだから、技術は高いと思います。1軍と2軍を分けるのは、考え方もあるんじゃないですかね。当時の寮長に、「2軍というぬるま湯にいたら抜け出せなくなるから、それだけは気をつけろ」と言われました。でも、最初はまったく意味がわからなくて。

――いつ頃わかってきたんですか?

成瀬 1年間ファームにいて、気づいたんです。いいピッチングをしたら「ナイスピッチ」と言うのがチームメイトなんですけど、悪いピッチングをしても「大丈夫、次があるから」と言われるんですよ。フォローのし合いは、多分1軍よりもファームの方が強いと思います。そこが多分、居心地がよくなってしまう理由なんです。

第4回では、メカニズム的なものについてお話を伺います。

(文・中島 大輔

これまでの記事は以下から
「配球論」
「コントロールの良い投手の条件とは?」

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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