県立岐阜商業高等学校 高橋 純平投手【前編】「152キロを生み出した環境、出会い、過程に迫る」
大会注目度ナンバーワンと呼ばれる高橋 純平投手。1年春から最速145キロを記録。その後も順調に成長を遂げ、昨秋の東海大会では最速152キロを記録。秋の大会では、防御率0.47と抜群の安定感を示した。そして解禁明けの3月8日の飛龍戦では最速152キロを計測し、順調にステップアップしている。
その成長の秘訣は、1日1日目標を持って取り組む姿勢と高橋を大きく成長させる出会いもあった。それを含めて、ここまでのプロセス、彼が考える技術論、選抜へ向けての意気込み、最終的にどんな投手になりたいのかを余すことなく語ってくれた。
球速が一気に伸びたのが高校1年春
高橋 純平投手(県立岐阜商)
小学校2年生から野球を始めた高橋 純平。学校が終われば、父・康二さんと毎日、練習を行うほどだった。そこでいつも欠かさず行っていたのが肩甲骨のストレッチだ。
「キャッチボールの前にいつも行っていたんですよね。それが影響したかはわかりませんが、肩、ひじの関節の柔らかさには自信があります」
また高橋は、肩、ひじで大きなケガがない。今思えば、このストレッチが大きなものとなっている。
そんな高橋だが、まだ中学1年生の時は、外野手だった。投手をやり始めたのは最上級生になってから。その時から肩が強く、速球投手だったが、本人曰く「球が速いだけでキレがなく、よく打たれていて勝てない投手でした」と振り返る。
実際に球速が伸び始め、さらにキレが出てきたのは高校に入学してからだ。
「Aチームに入ることができて、意識の高い先輩たちと一緒に練習をしてきました。練習量が増えたのはもちろんですが、効果的な練習がたくさんできたことで、一気に球速が上がりましたし、今振り返ると、一番球速が速くなった時期だと思います」
高橋の2歳上には、2013年選抜ベスト8入りへ貢献したエース藤田 凌司(2013年インタビュー)がいた。高橋にとって藤田との出会いはとても大きかった。藤田から学んだものは何だろうか。
「力まないフォームで投げることですね。凌司さんは球速も速い投手ではないのですが、力みがないフォームからキレのある速球を投げる。僕の場合、何でも力んで投げていた。『力』を入れる意味が、全く違っていたんです」
では力みというのは、具体的にどこに入っていたのだろうか。
「上半身の力を抜いて、下半身を中心に回転して投げていくことを意識しました。実際に春の県大会から出させてもらって、力んで投げてはダメだ!というのを体で覚えました。そこから遅い球でもコースにしっかりと投げることができていたので、打ち取るコツを覚えていました」
投球のコツを覚えるのと同時に、球速が145キロまで伸びた高橋は1年夏からベンチ入りを果たす。順調ともいって良い滑り出しだったが、ここでアクシデントが起こる。左足の甲を疲労骨折してしまうのだ。
ケアの意識を高めた疲労骨折
だが大会直前のケガのため、ベンチ入りの変更はできなかった。この時のケガを振り返って高橋はこう語る。
平成26年度秋季東海地区大会 準決勝・いなべ総合戦の高橋 純平投手(県立岐阜商)
「3年生に本当に申し訳ないと思いましたね。僕が入ることで、上級生1人はベンチに入れないです。それで自分は何もできない。とにかくこの夏は雑用を一生懸命頑張った記憶があります。今までの行動を振り返ると、自分の体に対してケアを全くしていなかったですよね。疲労骨折の原因はふくらはぎが硬くなりすぎて、筋を引っ張っていたのが原因で、毎日の練習で自分の体がついていなかったからです。でもこのけがで、ケアにしっかりと取り組むようになりました」
1つのけがで、ケアに対する意識を高めた。ストレッチを欠かさず行うようになった高橋は2年になってからケガをすることなく、プレーができている。そして高橋のストレートのスピードはさらに増していき、夏の時点で150キロ近くまで伸びた。しかし岐阜大会準決勝で敗れ、甲子園を逃す。この時の投球を振り返って高橋は
「スピードだけで抑えることができたので、あの時は、スピードだけで抑えようと力んでいた時期でしたね」と1年生の時にできていた投球ができなくなっていたことに危機感を覚えた。
「それまで相手を見て、余裕をもって投げることができたのですが、あの時の相手は、甲子園にいった大垣日大。相手を意識しすぎて力んでしまったんです。普段からコーナーに投げ分ける意識があればと思いましたね。もう一度、力まずにしっかりと投げようと考えました」
再び原点に立ち返ることになる。
力まず投げるコツ
高橋 純平投手(県立岐阜商)
8月、高橋が求める「力まず投げること」について大きな味方が加わる。それが新しく投手コーチに就任した太田 郁夫氏だ。高橋にとって太田氏は良き相談役となった。就任当時、高橋について太田氏の目にはどう映ったのだろうか。
「観察していて、何か悩んでいる感じでしたね。本人から、力まないためにはどうすればいいかと相談があったので、こちらが考えている『力まない』投げ方は伝えましたよ。強制ではなく、こういう考え方があるけど、どう?と問いかけるように話しました」
では太田氏が考える力まない考え方とは何だろうか。
「皆さんが陥りやすいと思うのですが、腕を上げるまでに問題があって、肘を上げよう、腕を振ろうとすると、力んでしまう。また下半身がうまく使えないことが多い。私としては、体の回転をうまく使うことで、腕も自然に振られるという考え方です」
投球フォームは、上半身と下半身の連動が求められる。だが全体ではなく、細かなところにこだわるあまり、フォームのバランスが合わない時がある。高橋も考えすぎたところがあった。
「夏まで腕をコンパクトに投げようといろいろと考えていることが多かったのですが、秋まで準備期間が少ないということもあって、自分の投げやすいフォームで投げようと思いました。それだけではなく、夏も走り込みをしっかりと行ってきました。結構うまく調整できていたのではないかと思います」
フォームを改め、夏でもしっかりとトレーニングに取り組んできた高橋は、県大会では好投を続け、東海大会進出。そして東海大会準決勝のいなべ総合戦では、10回を投げて1失点の好投で、決勝進出、選抜出場へ大きく前進した。
さらにはこの試合で、最速152キロを計測。終盤になっても、150キロを計測と高橋の潜在能力のすべてを発揮した投球だった。
東海大会の投球を振り返って、高橋は、
「東海大会は自分の力の入れ具合とバランスが整って、思い通りの投球ができました」と振り返る。高橋が目指す投球は、打たせて取る投球だ。
「僕はストレートの速さが注目されますが、それは気にしないようにしています。僕の理想は27球で終わること。三振を取りたい欲求はありますけどね。そのため1試合の中で、強弱をつけることが必要ですし、打者、場面に応じて力の入れどころを決める。東海大会は冷静に投げることができたのでそれが選抜でもできればと思います」
公式戦11試合に登板し、2完封、防御率0.47、奪三振率9.23、与四死球率1.40とずば抜けた投手成績を残した高橋。更なる高みをめざし、オフの練習に明け暮れる。
ここまで、高橋投手に秋の大会までの過程を振り返ってもらった。後編では、現在、課題にして取り組んでいることについて伺ったが、目指す投手像にもまた独特のこだわりが見えた。後編は3月13日(金)公開予定!お楽しみに!
(文・河嶋 宗一)